破壊と創造の神ゼヌス
「わたくしの執事として入学するために、わざわざわたくしと同じ14歳の姿になるなん。いくら膨大な魔力があるとは言え凄いわ、ゼヌス」
まじまじと正面から彼を観察する。荒れ知らずのプルプルお肌も、濁りの無い澄んだ瞳も、丸みの残る頬っぺたも、彼の正体を知らなければ、頬擦りして、髪をなで回し、むぎゅっと腕を回して抱きついて、その瑞々しい匂いをすーはーして、もふりたい。
そう思えるほどに愛らしい姿をしている。
「ゼヌス?魔法使いの名はゼヌスにしたのかい、アーシュ?」
エルナンドお兄様の質問ににっこりと笑って頷く。
大魔法使いには名前がなかった。彼に、どのように呼ばれたいか聞いたけど、好きなように呼べと言われてしまった。
学園内で彼を魔法使いと呼ぶわけにはいかない。そこで考えた名前がゼヌス。創造と破壊の神ゼヌスから付けた。この規格外の魔法使いに普通の名を付ける勇気は、私にはなかったからであり、
決して名付けが面倒だから、たまたま目についた神話図鑑を開いて『ど・れ・に・し・よ・う・か・な』で適当に決めた訳じゃないですよ。ふふふ…ほんとうよ。
っと、ざれ言はここまでにして、ふと視線を前に向けてゼヌスに問う。
「この2日間姿が見えなかったけど、どこに行っていたの?貴方の通学服を仕立てるために寸法を測りたかったのに、屋敷中くまなく探してもゼヌスがいないって、侍女達が困っていたわ。」
私の問いに、ゼヌスが首をかしげてクスッと笑った。その瞬間、花びらが舞った。
ああ、なんて艶かしい。14歳の少年が放つ色香じゃないですよ!その笑みで、半径500メートル以内の女性達は瀕死の重症負うレベルだわ!
美しいエルナンドお兄様を見慣れている私すら、不覚にも鼻血を噴き出してしまいそうでした。もちろん耐えましたけど。
などと俗世に染まりきった煩悩に、脳内パニックを起こしていると、
「ちょっと国を作ってたんだ」
と、『ちょっとそこまで買い物に行ってたんだ』くらいの軽いトーンで返事が返ってきた。
「は?」
「だから、新たにひとつ国を作ったんだ。アシュレイの番になるためには、それなりの体裁が必要だろう?それなりの地位を手に入れるために、手っ取り早く国を作った。俺が治めるための国を。
本当は地盤の揺るがぬ大国にしたかったが、流石に2日じゃ、それなりの規模のものしか作れなかった。まあ、後1ヶ月もあれば、この世界で一二を争う大国に育つだろう。
破壊するのは簡単だが、無から創造するのは骨が折れる。なかなかに面倒な作業だったぞ」
腕を組んだまま、顔色ひとつ変えることなく言い放つその姿は、破壊と創造の神ゼヌスその者だった。
訳が分かんないくらいに凄いです、ゼヌス様。
ゼヌスの説明によると、どうやら海のど真ん中に島国を作ったらしい。島自体はゼヌスの魔力で構築し、民は、世界中からかき集めたと言う。
その言葉に、適当に選んだ大量の人間をごっそり転送移動する姿を思い描いたが、どうやら少し違うらしい。
世界中の貧民街に暮らす、仕事も家もない者や、親の居ない孤児達を島に移住させて、家や仕事を与えたらしい。流石のゼヌスも、目についた人間を適当にごっそり転送移動すると大騒ぎになる。と言うことは理解していたようだ。
「私の魔力で作る大量の傀儡を民として従えても良いが、それでは味気ない。だが労働者がいなければ国は成り立たないからな。まぁ、貧困層には体の一部が欠けたものや、病気持ちの者も多くいる。
それでは働き手として不充分だし、病気持ちの者を大量に国内に招いて疫病が流行りでもしたら厄介だ。
体の欠けた者には五体満足の体を与え、病気持ちの者は病を治した後に、国に迎え入れている。我のために存分に働いてくれるだろう
アシュレイを妃として迎え入れる頃には、並ぶ国の無い大国へと成長していることだろう。だから安心して嫁に来い、アシュレイ」
偉そうにふんぞり返って、私に向かって手を伸ばすゼヌス。この方、本当にただの人間ですか?
冷たい汗が、背中を伝った。




