主と従2
「アーシュ!」
エルナンドお兄様が、まるで繊細な宝物でも守るかのように私の身体をふわりと抱き締める。
「無理矢理あんな禍々しい男と従属契約を結ばされて、こんなに怯えて。可愛そうに」
力無く床の上にへたり込む私の背中に回した腕に力がこもる。煩悩の塊である汚れた私を真っ直ぐに見つめる、綺麗な青い瞳。
俗世に染まりきった妹でごめんなさい!
美しいエルナンドお兄様に脳内で平謝りした後、くっと前を見る。
今にも濡れ場に突入しそうな怪しい3人。退け、煩悩。立て。立つのよアシュレイ!
そして公爵令嬢の意地と根性ですっくと立ち上がった。
負けるな!自分!わたくしは、小説で阿鼻叫喚を巻き起こした生粋の悪役令嬢。アシュレイ・エル・ハートランドよ!
「大魔法使い。『主』として貴方に命じます。その御方に触れることは許しません。我が国の第一王子であらせられるランセル皇太子殿下から離れなさい」
本当は、もうすこーしだけ大魔法使いに組み敷かれるランセル王子の図。を堪能したかったけど。重ねて言わせていただければ、ソルトも合わせての3に…以下自主規制。なーんてものも拝みたかったけど。
煩悩に絆されている場合ではない。一歩間違えれば、世界が軽く半壊する。目の前の紫の髪の男は、劇薬並みに取扱い注意なのだから。
うっすらと笑みを浮かべて、手を差し伸べる。
「それに何より、その様な貧相な男よりも、わたくしの方がお前を楽しませられるわ」
赤い唇を横に広げて、高慢に言い放つ。
「え?貧相?それって私のこと?アシュレイ姫?」
傷つくランセル殿下を放置プレイしたまま、大魔法使いの手を取る。
「『主』として命じる。わたくし以外を、その魅惑的な赤い目で見ることは許しません」
裏設定ルートではなく、本編街道を突き進むのならば、大魔法使いが周囲に無駄に色気を撒き散らすのは避けるべきだろう。何が争いや裏切りのきっかけになるか、分かったものじゃない。
わたくしの言葉に、大魔法使いは楽しそうに目を細めた。
「随分な自信だな。よかろう。それでこそ我が主に相応しい。骨の髄まで楽しませてもらうぞ。覚悟しておけ」
くくっと喉を鳴らして満足気に笑う大魔法使いを見て、あれ?なんか間違ったかも?と不安になったことは誰にも内緒である。




