青の封魔6(セイレーン視点)
「はい、これ柘榴石です。ランセル王子」
「うん。ありがとう、セイレーン。それにしてもセイレーンはすごいね。まさか、こんなに簡単にデューイ王子から国石を貰うなんて。やっぱり女の子は大きさじゃなく質と形なんだよ。小さくてもいいんだ。安心して、胸を張って生きようね」
王宮内のランセル王子の執務室で、柘榴石を渡す。受け取ったランセル王子は、柘榴石を手ににこにこと屈託なく笑いながら、無邪気に毒を撒き散らした。
「ソノ通リデスネ、若は……ランセル王子サマ」
無邪気な王子サマに殺意を覚える。あ、別に、いま。剥げてしまえ、このバカ王子。何て呪いの呪詛をかけてなんかいませんよ?
「それにしても、こんなに立派な柘榴石に触れたのは初めてだよ。この石の力で封魔の力を増幅させてアシュレイ姫の体に注ぐのか…。言葉にすると卑猥だな。
想像すると…もっとエロい。あ、どうしよう。淫らな妄想が止まらない。私は穢れているのか?
あぁ、アシュレイ姫、例え私が穢れていても受け入れて。2人でどこまでも堕ちていこうね?」
若はげランセル王子は不埒な妄想に身をよじらせた。王子じゃなきゃひっぱたいて現実世界に引き戻してるよ。
それにしてもアシュレイさんは大変だな。こんな見た目だけはお姫様なムッツリ王子と、病みまくりのお兄様に盲愛されて。
若はげ王子に白い目を向けつつ、そんなことを考えていると、執務室に病んでるエルナンド様がやって来た。見た目だけは完璧に美しいクールビューティーなエルナンド様に、若はげランセル王子は花が咲くように可憐に微笑んだ。
「見て、エルナンド。柘榴石を手に入れたよ。これでアシュレイ姫を助けられる。私のお陰で、アシュレイ姫は目覚めることができるんだ」
胸を張って言い切る若はげ様。いや、柘榴石を手に入れたのは、完全に私のお陰でしょ。斜め45℃後方から冷たい視線を注ぐが、若はげ様は気付かない。いや、気付かない振りをしている。
(剥げてしまえ、ランセル!!)
そんな私たちの目の前で、切れ長の目をすーっと細めたエルナンド様は、手にもった小さな箱をパカッと開けた。
「柘榴石なら、私も持っているよ?」
エルナンド様が持っているのは、デューイ王子から貰ったものと比べても、色、形、大きさ、そのどれもが遜色の無い立派な柘榴石だった。
「エルナンド、それはどこで手に入れたんだ?」
若はげランセル王子が明らかに動揺している。ザマァ見ろ。貧乳をバカにするものには天罰が下るのだ。
「デューイ王子の叔母君で、シュプリーム国王の従兄妹である未亡人から貰ったんだ。彼女は私のことが大好きでね、時々国境を越えて会いに来るんだ。その度に熱烈な愛の言葉と共に、様々な贈り物を持ってくるのだけど、この柘榴石はその中のひとつだよ。フェルナルドから、アーシュを助けるために柘榴石が必要だと聞くまで、すっかり忘れていたけどね」
事も無げに告げるエルナンド様。
「ひとつじゃ足りない?だったら、いっぱいあるから欲しいだけ持ってって?アーシュ以外の女性から貰ったものなど、私にとってはゴミくず同然だから」
エルナンドの言葉と共に、従者が2人、執務室に入ってきた。彼らは2人がかりで大きな木箱抱えて運ぶと、私たちの目の前にそれを置いた。箱の中には柘榴石がいっぱいだった。
「え?これ、全部エルナンドの所有物なの?」
「嘘だろ。この量、シュプリーム国で採掘される10年分の柘榴石より多いぞ」
ランセル王子は驚きすぎて、真っ白な灰になって固まっている。後ろに控えるソルト様は、完全に素に戻った口調で口をあんぐりと開けている。当のエルナンド様は、
「あぁ。アーシュ。早く目覚めないかな?可憐な口で『エル、大好き』って…ふふっ。私も大好きだよ、アーシュ」
どこかウキウキとした様子で、めくるめく妄想を楽しんでいる。ランセル王子は完全に敗北していた。
ってか、私の頑張りは無駄骨だった?『小さき胸』の言葉に傷つき。デューイ王子からは、あの文才ゼロの『会いたくて震える』手紙は私が書いたと勘違いされ。
恥を忍んで柘榴石を受け取った。
まぁ、正直。恥ずかしい以外はたいして苦労してないけど。けど、それでも。納得いく筈もない。
「ハゲ」
ランセル王子もエルナンド様も、ついでにソルト様とフェルナルド先生も剥げてしまえ!!思わず、そんな恐ろしい呪いの呪詛を口にしようとして、微かに残った理性の欠片で、どうにか言葉にするのを止めた。
「はげ?」
ランセル王子がお姫様みたいなキラキラした目で首を傾げる。
「何でもありません、若ハゲ様」
はっ、しまった。口が滑った。まぁ、いっか。取り合えず笑って誤魔化しちゃおう。ヘラヘラと笑っておいた。




