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青髪の封魔2(エルナンド視点)

閉じたままのまぶたが苦しげに震える。わずかに開いた口から吐息が漏れる。この世の光と闇をすべて集めて閉じ込めたらこんな色になるんじゃないか?そう感じるほどに艶やかで美しいプラチナブロンドの髪が、彼女の可憐な顔を縁取る。眠っているだけなのに、心を奪われるほどに愛くるしい。


「見悶えて死んでしまいそうだよ、アーシュ」


ベッドで眠り続ける愛しい妹に向けて呟くと、青髪の娘が、虫けらでも見るような目で私を見た。前々から、この娘の私を蔑む視線には気づいていた。無礼な娘だ。とは思ったが、正直アーシュ以外からの私に対する評価などに興味がない。邪魔で無粋な娘の存在は、私の想像力と妄想力で抹消して、愛しいアーシュと2人きりの世界に浸る。白く小さな指がぴくりと動いた。


「ふふ、お兄様の手を求めているんだね、アーシュ。アーシュのエルはここにいるよ」


大切な宝物を手に取るように、そっとアーシュの手を握った。柔らかで小さな手は、大切に扱わなければ砕けてしまいそうだ。白い手の甲に口付ける。アーシュの熱が唇越しに伝わって、歓喜に震える。


「げっ、寝てる無抵抗のアシュレイさんに手を出すとか、最低だわ。いくら美形とはいえ、この偏愛っぷり。執着っぷり。独占欲丸出しな感じとか、本当に残念すぎる。それさえなきゃ、顔も家柄も最上級のお買い得物件なのに。残念すぎる。無い。無さすぎる。マジで引くわー」


ん?耳障りなハエの羽音が聞こえるな。ハエとは青い色をしていたか?まぁ、いい。取るに足りぬ虫など気にかける価値もない。私はまた、アーシュと2人きりの世界に浸った。幸せだ。この上なく幸せだよ、アーシュ。2人だけの世界が永遠に続くのなら、このままアーシュが目覚めなくてもいい。そう思うくらい幸せだよ。


「あのー、もうとっくに本日の課題は終わったのですが?エルナンド先生?ねぇ、聞いてます?エルナンド先生。エルナンド様!エル!!!!」


「貴様がエルと呼ぶな、セイレーン!!!!」


折角2人だけの夢の世界に没頭していたのに、青髪の娘に肩をゆさゆさと揺さぶられて、現実世界に引き戻された。すぐ側にたつ娘を睨み付けるが、この娘、驚くほどに肝が据わっている。大抵の娘ならば、私に睨まれれば震えて泣き出し、時には失神する。にも拘らず、目の前の娘はげっそりとした目で真正面からわたしの顔をジト見した。


「いい加減、目を覚ましてくださいエルナンド様!アシュレイさんが大魔法使いの魔の手に囚われたままでいいんですか?貴方の夢を見続けるだけで満足なんですか?生身のアシュレイさんが『エル大好き』って言って貴方に抱きつく現実をむざむざと手放すつもりですか?」


アーシュが?私に好きだと言って抱きつくだと?


想像してみよう。目の前には豪奢な花をわさわさと背負ったアーシュ。両手をもじもじと動かしながら、頬を染め、上目使いに私を見上げるアーシュ。決意したようにこくんと小さく頷いて、可憐な声で告げるのだ。


「エル大好き」


緊張で少し震えながらも、揺るぎない声。そして両手を広げてたたたっと駆け寄ってきて、ぎゅうっと抱きついてくるのだ。ぎゅうぎゅうと精一杯の力で抱きつくアーシュ。けどか弱いアーシュの力で抱き締められても、一向に痛くない。そっと抱き締め返すと、うっとりしたようにわたしの胸のなかで目を閉じる。とくとくと二人の心音が重なって、目を閉じたまま顔を上げたアーシュの唇に、己のそれを重ね……。


「妄想はそこまでです!エルナンド様!!」


パンパンと手を叩き、「アシュレイさんで不埒な妄想を楽しまないでください!」と妄想を仕掛けた本人がのたまう。本気で氷漬けにしてやろうか、この娘。そう思いながら魔力を手のひらに溜め込もうとしたとき、娘がわたしに短剣を手渡して、後ろを向いた。無防備な背中をさらす娘。


「ほー、やっと己の無礼に気づいたか、セイレーン。安心しろ、苦しまずに逝かせてやる」


くくっとこもった笑い声を発しながら、腰かけていたベッドの端から立ち上がり、短剣を振り上げると、青髪の女は慌てたように両手を大きく振りながら「いやいやなんか勘違いしてませんか?」とのたまった。


「あの?エルナンド様?私、さっき説明しましたよね?封魔具を作るのには大量の青髪が必要だから、研究のために、ちまちま数本ずつ納品するんじゃなく、ごっそり納品したい。だからいっそのこと髪をざっくり切ってしまいたい。自分じゃきれいに切れないから、エルナンド様に短剣でさくっと髪の毛を切っていただきたい。そうお願いしましたよね!!ね!!」


「あぁ、そんなことを言ってたな」


なんだ謝罪のために命を投げ出すんじゃなかったのか。まぁ、この娘が死んだら貴重な青髪が手に入らない。仕方ない、生かしておくか。


手渡された短剣で女の青髪を肩の長さでさくっと切った。手の中にふわりと収まる青髪。悪くない色だ。まぁ、アーシュの髪色の足元にも及ばないがな。


青髪を布袋に入れて腰ベルトにくくりつけると、もう一度確かめるようにアーシュの髪を一房手に取り、口付けた。

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[良い点] いいです! もっともっと溺愛していいですよ! お兄様サイコーです
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