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青髪には魔力が宿る7(セイレーン視点)

「何なの?その髪色?」


眉をつり上げて睨む目の前の貴人。きっと続くのは『気持ち悪い』『不吉』『醜い』などと言う単語だろう。それほどまでに言われなれた言葉ゆえ、美人は怒った姿すら美しいのね。などと明後日の方向に思考が飛ぶ。目の前に立つプラチナブロンドの髪に薄い青の瞳を持つ美しい王妃様も、他の人たちと同じように、わたしの髪の毛を罵るのだろう。そう思っていたのに。


「そんな稀有で美しい色の髪なんて許せないわ。この世で美しいのは、わたくしだけ。唯一無二はわたくしだけ。その髪、わたくしに寄越しなさい!!」


私なんかよりずっと美しい貴人。異母兄の妻であり、この国の正妃である女性。全ての女性達の最高峰に達つ人が、まるで嫉妬してるみたいに私を睨む。気持ち悪いから見たくないとか、バカにして笑われるとかなら理解できる。けれど……


「私に寄越しなさい?おっしゃっている意味がまったく理解できませんわ、アシュレイさん」


この髪が美しいなんて。美しいからくれだなんて。この人は私をからかっているのだろうか?そんなことを思いながらアシュレイを見るけれど、険しくつり上がった目が演技とは思えない。何よりも、直情型のこの人が、回りくどい表現をするはずがない。本気で、この厭わしい青い髪を『美しい』と言っているのだ。


その後、アシュレイの近衛騎士たちに身体を押さえつけられて、アシュレイ自らわたしの髪を短剣でザクザクと切りはじめてからも、髪の毛を根こそぎ切られて悔しかったことよりも、他人から疎まれ続けた青髪を『美しい』と言って、本気で嫉妬したアシュレイの言葉に心を奪われていた。


残バラに短くなってしまった髪。その髪を隠すように、わたしは茶色のかつらを被って過ごした。ずっと憧れていた、みんなと同じ色。目立つことなく、周囲に溶け込んで平穏に過ごす日々。そんなある日、久しぶりに王宮内で会ったアシュレイは、わたしのかつらを見てバカにしたように笑った。


「何とも醜悪な姿に堕ちたものね、セイレーン。稀有な色、稀有な力の価値も分からぬつまらぬ女。それほどに他人の評価が重要?周りの人間が醜いと言えば『醜い』の?」


アシュレイはそう言うと、もう貴女には興味はないわ。と言うように、目の前で扇を広げて己の顔を隠すと、さっさと行ってしまった。その燐とした後姿は、誰よりも気高く美しかった。






※※※※※※※※※※※※※



教室で、できるだけ目立たないように気配を殺して大人しく席に着き、授業が始まるのを待っていると、フェルナルド先生がやって来た。


「セイレーン嬢、ちょっといいかな?」


いつも飄々とした口調のフェルナルド先生が、どこか慌てている様子で。不思議に思いながらも先生について行く。到着した場所は、エルナンド先生の個室だった。状況が全く理解できないまま、言われるがままソファに座った。


部屋にはフェルナルド先生とエルナンド先生、ランセル王子と側近のソルト様。そしてなぜかわたしの膝枕でソファに横たわるアシュレイ様。


この国のピラミッドの頂点に立つことが確約された方々の中に、わたしのような平民が呼ばれた理由はなんでしょう?珍しいのは髪色だけで、性格も血筋も一般人で小心者のわたしは、恐縮しつつ、頭のなかには疑問符がいくつも浮かんでいた。そんなわたしの思考など無視して、尊き方々の会話は進む。


どうやら大神殿に封印されている、大魔法使いの封印が解けかけていて、封印の綻びから大魔法使いの魂の欠片が外に抜け出した。大魔法使いの欠片はアシュレイ様の元にやって来て、アシュレイ様を連れ去ろうとしたけれど、駆けつけたエルナンド様が大魔法使いの欠片を追っ払った。というのが大まかな流れらしい。


「おそらく魔法使いはアーシュの無効化の魔法の能力を欲していたのだろう。アーシュに、自らに掛けられた封印魔法を無効化させる。それが狙いなんだろうが…。わたしの愛しいアーシュを狙うなど、心の底から忌々しい」


「確かに、綻びが生じた封印魔法をアシュレイ姫ならいとも容易く無効化できるだろうね。その動機は理解できるよ。だからって、アシュレイ姫を誘惑するのに、どうして婚約者のわたしの姿じゃなかったの?そこだけは腑に落ちないな」


「ふっ、アーシュを誘惑するのにわたしの姿を用いた。そこだけは、魔法使いを誉めてやらねばならないな」


「そっか、アシュレイ姫を誘惑するのにエルナンドの姿をしたから失敗したんだね。わたしの姿ならば、アシュレイ姫は簡単に陥落してただろうからね」


ランセル王子とエルナンド様との間に激しい火花が散る。火花はバチバチからメラメラへと大きく燃え上がり、この部屋を業火に焼き付くしてしまうのか?と身を固くして己の死を覚悟したとき、フェルナルド先生のつかみ所のない飄々とした声が聞こえた。


「うーん。先ずはアシュレイ嬢を目覚めさせなきゃいけませんねー。と言うわけで、セイレーン嬢、髪の毛を数本分けてもらえますか?」


「へ?何がどういった経緯で、わたしの髪を先生にあげる話に繋がるんですか?」


ただでさえ『大魔法使い』とか『封印』とかって、一般人の私には初耳ですし。そもそも、大神殿の地下に大魔法使いが封印されていることも、その封印が解けかけていることも、国家機密事項なのではないですか?それくらい重要で繊細な話ですよね。そんな大事なこと、私みたいな平民の前でペラペラばくろしちゃっていいんですか?しかも私の、色が珍しいだけのなんの変哲もない髪の毛を欲しがるなんて。全くもって、高貴な方々の考えていることは理解できない。そんな風に、脳内混乱しまくっていると、ソルト様が何かを思い出したように口を開いた。


「青髪に封魔の力が宿ると言うのは、ただの伝説ではないのですか?」

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