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楽しい?学園生活2

「変わったな」


生徒会室から教室まで、見送りと称して付いてきたソルトがポツリと言った。ランセル殿下は山盛りの公務をこなすために、生徒会室に籠っている。今、ソルトは私と2人きりのため、彼の口調は素のままだ。


ソルトが『誰』のことを話しているのか分からない。無言のまま、隣を歩く綺麗に整った横顔を見上げる。視線を感じたソルトが見下ろすようにわたしを見た。黒と金。相反する色を纏った髪。澄んだ緑の瞳には、深緑の森の静けさと、肉食獣のような危険な光が揺らめいている。優しい貴公子の皮を被った、美しき猛獣。視線が合うだけで背中がピリピリと緊張する。


「ランセル王子のことだ」


心の中の疑問に答えるように、ソルトが言った。ソルトは手を伸ばすと、私の頬にかかった髪を指で掬った。優しい仕草に反して、彼の指は冷たかった。


「愚かな王子だと思っていた。何もしないつもりなら、俺がこの国も、お前も乗っ取ってやるって思ってたんだけどな」


私の頬の温もりが伝わって、ソルトの指先が少しずつ暖かくなる。猛獣のように鋭い眼光が成を潜めて、柔らかな若葉のように弧を描く。


「お前が王子を変えたんだな、アシュレイ」


滅多に私の名を呼ぶことのない彼が、その名を呼んだ。一語一語を噛み締めるように、丁寧に。彼の指にかかった私の髪が、さらりとその指から落ちた。


「私は何もしていないわ。殿下の何が変わったというの?」


そう。ランセル殿下は初めて会ったときから、見た目はお姫様だけど強くて。優しくて。決して愚かな人ではなかった。殿下の何が変わったというのだろう?私よりずっと近くで殿下を見続けたソルトが言うのだから、ランセル殿下のどこかが大きく『変わった』のだろうけど。ふむ…と真剣に悩んでいると、


「相変わらず敏いのに鈍いな」


訳が分からないほどに真逆のことを同時に言われた。全く意味が分からない。ソルトを見上げると、心底あきれた顔でため息を吐いた。


「それだけ王子様は本気ってことだ。鈍感な従兄妹殿」


眉間にシワを寄せて険しい顔で悩む私のこめかみを、ソルトがグーでぐりぐりした。


「痛い!ちょ、ソルト!痛いってば!」


ジタバタと暴れるも、ソルトはぐりぐりぐりぐりと執拗にこめかみを攻撃し続けた。そして、


「けど俺も本気だからな。今までは見てるだけだったが、相手が誰だろうと遠慮はしない。本気でお前を奪いにいくよ」


私の右手を取ったソルトは、その場に片膝をついて頭を垂れた後、真っ直ぐに見上げる。さっきまでの意地悪が嘘みたいな優しい声が降ってきた。


「あなたをお慕いしております、アシュレイ」


ソルトは私の手の甲に口づけた。







「お帰りなさいませ、お嬢様」


授業が終わって屋敷に戻ると、侍女たちの声も無視して一目散に寝室のベッドに潜り込んだ。布団を頭からすっぽりと被って、丸くなる。なんだ?なんなんだ?あの二重人格でドSな変態貴公子は?


ソルトの私への告白は、学園の校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下で行われた。それ故に、一部始終を見ていた生徒が多々いて、あっという間に噂が広まってしまったのだ。


噂の内容としては、皇太子の婚約者である従兄妹に一途な想いを寄せる、美しき貴公子ソルト様。という夢見る乙女が大好きな設定で。叶わぬ恋に苦しむソルト様を慰めたい!と願う女子生徒たちのボルテージが上がり、ただでさえ人気のあるソルト人気が爆上がりしていて、一番人気のランセル殿下。2番人気のエルナンドお兄様に追い付き、追い越す勢いだ。というだけで、わたしには全く被害は出ていないのだけど。


それにしてもエルナンドお兄様が出張中で良かった。お兄様が学園にいらっしゃったら、ソルトの命だけじゃなく、私の命まで危うかったわ。


全く、ソルトったら何考えてるんだか?


手に触れた、ソルトの唇の柔らかさと温かさを思い出して、また羞恥心が押し寄せてきて布団の中で身悶えた。


キスならランセル殿下と何度もしてる。けど、あの方の見た目がお姫様だからか、殿下とのキスは恥ずかしいけれど、女の子同士でいけないことをしてるようなドキドキを感じるくらいだった。けどソルトの唇からは男を感じた。ただ手の甲に触れるだけのものだったのに。


「もーーー!!ソルトのむっつり変態!!!!」

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