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初登校でございます!7(後半ランセル視点)

今からエルナンドとティータイムを過ごすと、午後の授業に遅刻してしまう。と言うことで、放課後、絶対に、天変地異が起ころうともエルナンドと紅茶を飲む。という約束をして教室に戻った。


隣の席のデューイ王子がにこにこと手を振る姿に、疲弊した心が癒される。ありがとう、デューイ王子。貴方から発せられるマイナスイオンに救われます。太陽を拝むように、心の中でデューイ王子に手を合わせた。


本日最後の授業は魔道工学担当のフェルナルド先生の授業の筈だったのに、急遽『体調不良』という理由で、歴史担当のエルナンドの授業となった。


「体調不良?フェルナルド先生、さっき隣のクラスの授業を教えてたよね」


クラスメートたちの囁きに、エルナンドお兄様が腹黒い笑みを浮かべたことも、授業終了の鐘と共に、私の手を取って教職員専用の個室へとスタスタと歩いて行く道すがら、フェルナルド先生が肩を落としていじけている姿を見たことも。個室内に甘い焼き菓子の匂いが漂い、既に爽やかな柑橘系のハーブティーが準備されていたことも、全ては私の勘違いではないだろう。


流石は稀代の悪役令嬢アシュレイ・エル・ハートランドの兄。用意周到で抜かりがない。目の前のソファに長い脚を組み、優雅にお茶を飲むエルナンドお兄様に、引きつった笑みを浮かべて、温かい焼き菓子を指で摘まんで口に入れた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

(sideランセル)


おおらかで優しい父王と、厳格で美しい母。優しい乳母と従順な使用人。王宮に招かれた客たちも、正妃が産んだ唯一の王子であり、王位継承権第一位の私に対して、みな従順で親切だった。まるでぜんまい仕掛けのからくり人形のように。

張り付けた笑顔で、大仰な美辞麗句を並べ立てる。私はいつも、そんな彼等の腹の中に気づかぬ振りをして、無邪気な笑顔を返した。素直で、純粋で、人の良い、愚かな王子。父に仕える重鎮たちから、そう言われていることに気付いている。そして自分自身、それでいいと思っていた。


見目麗しく、魔力も高く、何でもそつなくこなす王子。それだけで民衆の期待は高まる。国民の憧れであり国の象徴であることが、己の務めだと思っていた。将来は、見掛けだおしの張りぼての王になれば良いと思っていた。政は優秀な家臣に任せれば良い。宰相の息子であるエルナンドは、妹であるアシュレイ姫のことになると変態的な執着を見せるが、アシュレイ姫さえ絡まなければ、頭脳明晰、冷静沈着。魔力も剣の腕前も国内トップクラスの実力を持つ。側近であるソルトも、二重人格のハードタイプどSという、やはり変態気質ではあるが、この男もエルナンド同様に優秀である。裏工作などの謀に関しては、エルナンドよりもソルトの方が向いているだろう。


優秀な側近がいて、民衆受けする見目麗しい妃がいれば、見た目が良いだけの人形として、玉座に座っているのも悪くない。そんな風に思っていたのに……


アシュレイ姫は、私の心を駆り立てる。大きな薄い青の瞳が、『このままで良いのですか?』と真っ向から問いかけてくる。


国内に疫病が蔓延しようとも、干ばつで田畑が干からびようとも、大雨で作物が腐り、河川の氾濫で村が流されようとも、知識豊富な専門家たちに任せていれば、それで良いと思っていた。そう思っていたのに。いつの間にか、遠巻きに見ていた政の中心に、わたし自ら、進んで身を置くようになっていた。


数ヵ月前、貿易品を輸送するための道を作るために、国の最南端へと向かった。途中、土砂崩れにより敢えなく途中で引き返すこととなった。帰りは、私たちを心配したアシュレイ姫とソルトも合流して王都まで帰った。帰りに立ち寄った村々で、私はアシュレイ姫の優秀さを思い知った。


大雨て湿気の多い日が続くとカビが発生して不衛生になる。それが原因で嘔吐や下痢、疫病が流行る。それを見越したアシュレイ姫は、私たちを迎えに来る道すがら、疫病の蔓延を予防する知恵と技術を、立ち寄った村々で伝授していた。白く清潔な手袋やマスク。石鹸。物資を与えるのではなく、それらを作る方法を彼らに教えた。熱湯につけて煮沸する煮沸消毒の方法も伝授していた。文字の読めない者のために、分かりやすく絵で伝えるアイデアなどは、頭でっかちの専門家には思いもつかなかっただろう。


美しいお飾りの王と、同じく美しいお飾りの王妃。


波風立てず、信頼する家臣に国を委ねて静かに生きる。愚王でも賢王でもなく、平凡で突出することのない、可もなく不可もない王として、この生を全うすることが己の務めだと思っていた。この国の現状を維持することが、平和だと考えていた。


けれど……アシュレイ姫は変化することを恐れない。今よりもっと良くなると知っていて、見て見ぬふりをしない。薄い青の瞳はどこまでも澄んでいて、一点の濁りもなく、嘘偽りも、誤魔化しも許さない。


そんな高潔な彼女に惹かれたからこそ、アシュレイ姫の隣に立つものとして相応しく在りたいと思ったからこそ。私は決めた。平凡であることは辞めようと。誤魔化すことも、曖昧も、見て見ぬふりも辞めようと。


愛する人の隣に立つに相応しい、賢王となろうと。そう決意した。


「少し休憩なさったらいかがですか?」


根をつめる私の目の前に、ソルトが紅茶を置いた。机の上に山積みになるのは、貿易路の設計図や、資材の提供先。工事に必要な経費などの資料で、特に莫大なる経費を国財の何処から捻出するかに頭を抱えていた。


目が覚めるような渋味の強い紅茶を飲みながら、頭を悩ませる。これ以上、削れる経費は無い。各地の領主に経費の一部を負担させるか?そうなれば貿易路工事事態を反対する者も出てくるだろう。どうしたものか?アシュレイ姫ならば、わたしには思い付かない良い案が閃くだろうか?プラチナブロンドに薄い青の瞳をした、美しいの婚約者の姿が脳裏に浮かんだ。

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