表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/78

初登校でございます!6

「ごくり…」


喉の鳴る音が聞こえた。生唾を飲んだのは私。ではなく隣に座るセイレーン。ソルトは聞こえない振りをしていたけれど、素直なランセル殿下がセイレーンを見た。喉の音を聞かれたことに、真っ赤になって俯くセイレーンに、殿下は「美味しそうでしょ?」とにこにこと話し掛けた。


「学食のカフェはね、美味しそうなだけじゃなく、実際に美味しいんだよ」


まるで自分自身のことを誇るように、無邪気に胸を張るランセル殿下。元来の素直な性格だけじゃなく、国王様と王妃様の愛を一身に受け、王位継承権第一位と言う唯一無二の存在と言う絶対的自信から、彼は人を蔑むとか、人を陥れてバカにする。と言う概念がない。だからこそ、彼女が恥ずべきマナー違反を犯そうとも、殿下は気にしない。


この純粋無垢な性格は、好ましくもあり、次期国王としての最大の弱点でもある。彼をただの傀儡の王として玉座に座らせて私利私欲を肥らそうと目論むものたちにとって、これほど都合のいい王はいないからだ。今、この場では、好ましい方向へと話は進んでいるけれど…


現にセイレーンは花咲くように頬を染め、ランセル殿下に促されるままにローストビーフをパクリと食べた。


「おいひぃでふ(美味しいです)」


セイレーンの言葉に、満足そうに頷く殿下。彼ら自身、自分達が兄妹であることを知らないだろうけれど、2人の纏う雰囲気はとてもよく似ている。色彩は全く違うけれど、目の前で2人を見比べると、顔立ちも似ている。


この場に漂う和やかな空気に浸っていて、斜め前に座るソルトの『おや?』と言う、不可思議な表情には気付かなかった。


食事を終えて4人でカフェの1階へと階段を降りて行くと、階段の真下にエルナンドが立っていた。


「アーシュ。昼食に誘うためにアーシュのことを探していたんだよ。まさかこんなところで、まだ結婚しているわけでもない、ただの婚約者という名の、現在のところは家族でもなんでもない赤の他人のランセル王子と共にいるなんて思わなかったよ。

アーシュ、その様子じゃ、貴重な学園での初めてのランチは彼と食べてしまったんだね。それはとても残念だけど、学園での初めてのティータイムは、アーシュの家族であり、兄である私と共に過ごしてくれるかい?」


優雅に微笑むエルナンドの目が、全く笑っていない。しかも彼の周辺だけ氷点下のごとく冷たい空気が漂っているのは気のせいだろうか?エルナンドはランセル殿下と、なぜかソルトまでをも牽制するように自分の背広の刺繍を見せびらかしながら、私のドレスの刺繍を指で撫でた。


『俺たちの服、お揃いだぞ。羨ましいだろ』


と言うように。エルナンドの子供じみた牽制に、ランセル殿下も言い返す。


「残念だったな、エルナンド。私は既にアシュレイ姫と初めてのティータイムも過ごした。朝礼の後、生徒会室でな。麗しく可憐な姫との初めてのティータイムは格別だったぞ」


すっと私の手を取って引き寄せるランセル殿下に、エルナンドの目が凍った。彼の周りに魔力が渦巻いて見えるのは、勘違いではないだろう。エルナンドが本気になれば、学園もろともランセル殿下が破壊されてしまう。全身に冷や汗をかきながら、私は必死に弁解した。


「ティータイムはまだですわ、お兄様!本日の午前中、ランセル殿下は生徒会室で紅茶を飲みましたが、私は飲んでおりません。エル、わたくしは、ティータイムは、ま・だ・で・す!」


魔力をまとい、エルナンドの金色の髪がふわりと舞う。彼の周囲に渦巻いていた殺気が、瞬時に消えた。


「アーシュ、ティータイムはまだなんだね」


確認するように私の目を見つめるエルナンドに「うんうん」と大きく頷くと、すーっと菩薩のような微笑みを浮かべた。


「兄と初めてのティータイムを過ごすために、王子とのティータイムは頑なに拒んでくれたんだね。良い子だ、アーシュ。さぁ、それならば私と共に来なさい。他人の踏みいることのできない私の個室で、2人っきりで、熱く濃密なティータイムを過ごそう。アーシュの初めてを私にくれるなんて、アーシュはいじらしい程に可愛い子だね」


ランセル殿下の手をひっぺがして、私の手を、指と指を絡めてぎゅっと恋人繋ぎしたエルナンドは、教職員一人一人に用意されている、自分の個室へと向かった。


背後には悔しそうなランセル殿下。呆れたようにため息を吐くソルト。何が起こったのか全く理解できずにポカンと口を開けるセイレーンがいた。


セイレーンちゃん、変な空気に巻き込んでごめんね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ