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初登校でございます!5

冷静を装ってセイレーンの前を歩きながら、ちらりと後ろを見る。たおやかで華奢な身体から伸びる長い手足。白く長い首と細面の顔。その周囲を彩る青い髪。アメジストのような神秘的な紫の瞳。戸惑い、うつむく姿が、セイレーンの儚くも美しい容姿を倍増させている。


彼女のサラサラな青い髪に顔を埋めて、くんくんと匂いを嗅ぎたい。想像してにやけそうになる頬の筋肉をきゅっと引き締めて真顔を作る。あ、ダメだ、無駄に頬に力を入れすぎて、顔がひくひくと引きつっている。


「アシュレイ様も、気持ち悪いとお思いですか?」


頬に両手を添えて表情筋と戦っていると、セイレーンがポツリと言った。


「え?」


彼女の言葉が聞き取れなくて、聞き返す。セイレーンの紫の瞳は、空虚な色で満ちている。


「やはり気持ち悪いですよね。こんな青い髪の毛なんて」


立ち止まったセイレーンは、両手を胸の前で組んで震えている。彼女の言葉の意味がわからない。彼女が肩を震わせて怯えている理由がわからない。分からないから、どの様な言葉をかければセイレーンの慰めになるのかと、頭の中でぐるぐると考える。


考えたけれど、結局どんな言葉をかければいいのか分からなくて、セイレーンの体を抱き締めた。手を離せば消えてしまいそうに儚い彼女を、この世界に繋ぎ止めるように、ぎゅっと強く抱き締めた。


「私は美しいと感じるわ。セイレーンの青い髪。凪いだ海のような、澄んだ湖のような、雲ひとつない空のような貴女の髪の毛は、美しいわ」


小説の中の私が、嫉妬のあまりに彼女を処刑してしまうほどに綺麗。片手で抱き締めたまま、反対の手でセイレーンの髪の毛をサラサラと撫でる。癖のない真っ直ぐな髪は、私の指に引っ掛かることなく、指と指との間をスルリと滑り落ちた。


「本当に綺麗…」


うっとりと呟いた時、腕の中のセイレーンが身動ぎした。


「こ、皇太子殿下!」

「殿下?」


セイレーンを抱き締めたまま、彼女が見つめる方向に目をやると、困ったように鼻の頭をポリポリと掻くランセル殿下と、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしたソルトが立っていた。私は腕の中にいるセイレーンを解放すると、スカートの裾をふわりと揺らし、膝を折ってランセル殿下に挨拶をした。


「私とアシュレイ姫の間で、堅苦しい挨拶は不要だよ。廊下の窓からアシュレイ姫の姿が見えたから、迎えに来たんだ。そちらのレディーは姫のお友だちかな?」


ここにいる誰よりも華やかで可憐な笑みを浮かべたランセル殿下は、こてんと首を傾げた。大きな青い瞳が、太陽の光を反射してキラキラと輝く。可愛いが過ぎます、ランセル様!何ですか?その愛くるしい仕草!あざと可愛い表情!心臓が撃ち抜かれて、「ヴッ」と胸を押さえる。なんと言う破壊力でしょう。心臓が粉砕されてしまいました。粉々に砕けた心臓をかき集めて元通りに戻すと、アシュレイ・エル・ハートランドの意地とプライドにかけて、にっこりと微笑んだ。


「はい、ランセル殿下。こちらはセイレーン。私の友人ですわ。先程、私の落ち度で彼女のお弁当を台無しにしてしまいましたの。このままではセイレーンは昼食を食べることができなくなってしまいます。殿下、本日は私と共にセイレーンもカフェに同席することをお許しください」


「それは構わないが。そうか。アシュレイ姫はもう友人ができたんだね」


殿下がすんなりと、私だけではなくセイレーンも一緒に昼食を共に食べることを許可してくれた。


ランセル殿下の反応を見る限り、殿下はセイレーンが自分の異母妹であることを知らないのだろう。国王陛下ですら、彼女が自分の娘だと言うことを知らない可能性が高い。私は何食わぬ顔で、セイレーンの手を引いて、殿下の後を歩いてカフェへと向かった。


王都学園内では表向き、階級に関係なく生徒たちは皆平等。とのスローガンの元に運営されている。生徒が勉学に励む教室では皇族だから、平民だからと席が別れたりはしない。けれど学内のカフェでは、自然と座る席が決められていた。私たちは、ランセル殿下がいつも座っている、カフェの2階へと階段を上った。そこには大きなテーブルと、ゆったりと座れるソファーが置いてあり、1階のカフェが一望できる作りになっていた。


私たちが席につくと、ランセル殿下付の侍女がレモンを絞った水をグラスに注いだ。口に含むと、爽やかな酸味が喉を潤す。ほーっと一息つくと、学園の料理長がワゴンに肉を乗せてやって来た。大きな肉の塊をナイフで薄く削ぎ皿に乗せて、その横にマッシュポテトを添える。その上にグレイビーソースをかけると、私たちの前に置いた。メイン料理の他に、伊勢海老のスープ、パン、コールスロー。デザートにはミックスベリーとナッツのプティフール。学食とは思えないクオリティーに思わず目を見開いた。

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