初登校でございます!2
ランセル殿下は、わたしの目の前まで来ると、床に片膝をついて見上げた。裾の長いジャケットがふわりと揺れる。癖のない真っ直ぐな黒髪から覗く青い瞳は再会の喜びで潤み、絹のごとき滑らかで白い頬はほんのりと赤く色付いている。
今日も今日とて、ランセル殿下は『お姫様』である。
片膝をついたまま、細く長い指を伸ばしてわたしの手を下からそっと握ると、その手の甲に口付ける。
「貴女が城を出た日から、私は、この世界から太陽が消えたかのように真っ暗闇の中を生きてきた。やっと再開できたね。輝くわたしの太陽の女神、アシュレイ姫」
可憐なランセル殿下の甘い言葉に、息をのんで様子を見ていたクラスメート達が「ほぅー」と熱い息を漏らした。その声に、はっと我に返った私はその場に屈み、ランセル殿下の手を握り返して訴える。
「お立ちください殿下。膝を折り、頭を垂れるべきわたくしの方でございます。臣下のごとき振る舞いはお止めください」
ランセル殿下の目線に合わせるように屈んだために、殿下との距離が一気に縮まる。眼前のランセル殿下はというと、
「ゼロ距離で見るアシュレイ姫は、破壊的な美しさだなー。ドキドキしすぎて、わたしの心臓がもたないよ。殺しにかかってる?本気でわたしを殺しにかかってるでしょ?こんなに愛らしい顔を間近で見ちゃったら、瞬殺だよ」
蕩けた顔で、何やら呟いているランセル殿下を、殿下と共に教室にやって来たソルトが強引に立たせる。
「ランセル様、アシュレイ嬢の言う通りです。片膝をつくなど、一国の皇太子のなさることではありません。皇太子殿下の威厳にかかわります。お控えください」
遠目には、ソルトが殿下を敬うように、そっと立たせたように見えるだろう。けど2人の近くにいる私にははっきりと見えた。ソルトが片方の腕でランセル殿下の背中を支えながら、反対の手で殿下の首根っこを掴んで強引に立たせたことを。恐るべしソルト。流石は未来の宰相である。




