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国の危機7

「お兄様の怪我は治せます。ただ血を失いすぎています。正直に申しますわ、体内の血液を元に戻すことができるかが不安です。それに万一、体内に注ぐ魔法量を間違えてしまったら、他の臓器に影響を与えかねません」


一人で抱え込む必要はない。悩みは素直に吐露し、共に答えを出せばいい。私の言葉にランセル殿下は、


「姫が負担に感じることを強いるつもりはない。このまま医学の知識のある兵士に任せよう。アシュレイ姫、血まみれの人間なんて見たことないでしょ?エルナンドのことが心配なのは分かるけど、隣の部屋で待っていよう」


私の手を取って部屋を出ようとする。その手を、不敬にならない程度にそっと放した。


「出来ないと言っているのではありませんわ、ランセル殿下。むしろお兄様をお助けしたいと想っております。不安を抱えたまま魔力を駆使して失敗する前に、皆様の意見を伺いたいのです。どのようにすれば、より成功率が上がるのかを?」


しゃんと胸を張り、己の弱点をさらけ出す。弱点。それは稀有な魔力はあるけれど、圧倒的に経験が足りないことだった。


「アシュレイ様、怪我はご自身一人で治癒できるとおっしゃいましたね」


ソルトに名を呼ばれてドキッとする。彼は、いつも私を『おい』とか『お前』とか、殿下の御前では『貴女』と呼ぶ。アシュレイと名前を呼ばれたのは初めてだった。


「出来ますわ」


即答した私に、満足そうな目を向けるソルト。ここに来るまでの道中、ずっと彼に試されているような気がしていたけれど、間違いじゃない。ソルトは私の力量を試しているのだ。時期国王の妃として相応しいかどうかを。


この時のために魔力を温存させていたんだ。ここで治せなくては、私はただの役立たずだ。


胸に手を当てて祈る。『無に帰って』と。スーッと傷が塞がってゆく。お兄様の、痛みに歪んだ顔が穏やかなものになる。


「素晴らしい力だ、アシュレイ姫!」

ランセル殿下が手放しに私を誉める。

「アシュレイ、凄い!」

リンが嬉しそうに私とエルナンドお兄様の回りをくるくると回った。

ザックもホッとしたような顔をしている。


ここまでは上手くいった。けど問題はこれからだ。緊張してドクドクと脈打つ鼓動を落ち着かせるように、ひとつ呼吸をした。


「ここからは私が手伝います」

エルナンドお兄様を挟んで、私と向かい合うように立つソルト。

「私の魔法属性はご存じでしょう?アシュレイ様」

「水魔法ですわ」

そう答えてハッとする。


目で問いかけるようにソルトを見ると、『気付いたか?』と言うように彼が頷いた。


「アシュレイ様が無効化の魔法を発動させた後、私が水魔法で血の流れをコントロールします」


私が心配していたのは、無効化の力により血液量を元に戻せたとして、一気に増えすぎた血液が逆流してしまわないか?と言うことだった。


「助力、ありがとうございます」

「礼を言うのは成功した後ですよ。俺も出来るかどうか不安だからな」


後半部分は、完全に貴公子の皮を脱いで不敵に笑うソルト。ドクンと胸が跳ねる。大丈夫。1人じゃない。成功する。エルナンドお兄様は死なせない!


もう一度、胸に手を置いて祈る。


『無に帰って』


少しだけ血の量が戻った。けどまだ足りない。さっき魔力を使ったからか、力が足りない。もう一度、祈る。また少し、血が戻った。


「足りないわ」


失った血の量が多すぎて、私一人の魔力じゃ補いきれない。お兄様の顔を見る。青白く、意識はない。自分の非力さが悔しくて唇を噛んだ。その時、誰かが私の肩に手を置いた。


「魔力を貸すよ、私のお姫様」


振り向かなくても分かる。そこにいるのはランセル殿下。祈り続ける私の体に、ランセル殿下は自分の魔力を注ぎ込んだ。


「お願い。今度こそ、完全に無に帰って!」


言葉にした途端、エルナンドお兄様の体が白く光ったような気がした。


「今だ!」


ソルトがエルナンドの体内で暴れまわる血を抑え込み、正しい方向へと導く。血液か体の隅々まで行き渡るのを確認した後、ソルトはふーっと息を吐いた。


「どうにかしたぞ」


不敵に笑うソルト。


「ご助力、感謝致します」


お礼を言うと、ランセル殿下の御前だというのに、ソルトは「よくやった」と言いながら、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

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