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花嫁修行でございます3(陰謀付き)

栗色に緩やかにウェーブがかった髪の毛と、落ち着いたトパーズの瞳。やや垂れ気味の大きな目とぷっくりとした唇は、男の支配欲を擽る。鼻にかかった甘い声は、男の保護欲を掻き立てる。アンナ伯爵令嬢は突出した美人ではないが『愛らしい』女性だった。だが、よく見ると、彼女の愛らしさが作り込まれたものだと言うことが分かる。垂れ目に見えるのは、眉尻を下げて書いているから。目が大きく見えるのはアイラインとボリームたっぷりの付け睫があるから。ぷっくりとした唇は、艶のある口紅を実際の唇の形より大きく縁取って塗っているから。見た目だけではない、時折見せる不安げな表情や、上目遣い。淑女らしからぬ満面の笑み。その全てが完璧に作り込まれていた。


「あの女を見てから仕事を受けるかどうか決める。なんて生意気なこと言ってたけど、どうなの?やるの?」


アンナはアシュレイを陥れるために、裏の仕事を引き受ける闇ギルドに依頼した。やって来たのは浅黒い肌に焦げ茶の髪、赤い目をして全身黒尽くめの服を着た男だった。今、アンナの側にはこの男しかいない。普段被っている『可愛いアンナ』の皮を被る必要はない。所詮は醜い卑賤の身。勿体ぶってたって、どうせお金を積めば何だって引き受けるんでしょう?見下すように、闇の男を見た。男はアンナの不遜な態度など眼中に無いかのように、ククッと肩を震わせた。「引き受けるさ」目の前で片膝を付いて座る男が即答した。ほら、やっぱり。予想通りの展開に口許が緩む。


「ガキの遊びに付き合ってやるつもりはなかったが、あの娘は興味深い」男が立ち上がる。大柄な男が立つと、小柄なアンナを見下ろす形となった。「あんたの復讐とやらは欠片も興味がないが、面白そうだから引き受けてやる」


音もなく、その場を立ち去る闇の男。一人残されたアンナはギリッと唇を噛んだ。さっきまでの高揚が嘘のように、どろどろとした醜い闇に心が支配されてゆく。何故、誰も彼も私を見ないのか?誰も私を認めないのか?思い出すのは謁見の間でのランセル皇太子の言葉。「アシュレイ・エル・ハートランド。私の妻となってください」自分ではない他の女に求婚するランセル。そこに立つのは私でなければならない。彼に愛され、唯一求められるのは、私でなければならない。「あの女、本当に目障りね」誰もいない部屋に、アンナの呟きが響いた。




「舞踏会ですか?」部屋にやって来たランセル皇太子に問う。「そうだよ。この前は堅苦しい儀式的なものだったけど、今回は美味しい食事と美しい音楽がある。楽しみだな。美しく着飾ったアシュレイ姫を私のものだと誇示するように二人で何度もダンスを踊る。毎日が舞踏会だったらいいのに!」胸の前で両手を組んで、嬉しそうに語る様は今日も『お姫様』だ。「毎日舞踏会など開いたら、財政が底をつきますよ」ソルトが丁寧な口調ながら、呆れたように突っ込んだ。「アーシュと何度も踊るですと?そのような羨まし…いえ、慣例に反したことをなさっては国内でいくつかある派閥の均衡が崩れます。何よりも妹は殿下のものではなく私のものです。妹が結婚することとなろうが、それだけは未来永劫変わることのない不変の原理です。ね、アーシュ。恥ずかしがらないでいつものように言ってごらん?『エル、大好き』って」緩みきった顔で私を見るエルナンドお兄様。言葉の前半はまだしも、何故、今、過去の話をするのですか?『エル、大好き』と無邪気に言っていたのは、前世の記憶を思い出す6才の頃までです。それ以降は、お兄様のヤンデレ化を防ぐために『大好き』は封印いたしました。


「舞踏会が待ちきれない。アシュレイ姫、今から二人きりの舞踏会を始めよう」ランセル皇太子がパチンと指を鳴らすと音楽が流れ始めた。どうやら風魔法で遠くで弾いているバイオリンの音をここまで運んだようだ。ランセル皇太子が私の手を取って踊り出す。一瞬足が絡まってこけそうになったが、そこは普段筋トレを怠らない私です。体制を建て直してランセルの動きについて行く。くるくると躍りながら王子様に聞く。「ところでランセル殿下、舞踏会はいつですか?」「ん?明日だよ」ふわっと可憐に微笑むランセルの足を、驚きすぎて踏んづけてしまった。


「申し訳ございません、殿下!」


平謝りしつつ、涙目で足を押さえて踞るランセルに心の中で突っ込む。(急すぎじゃ、ぼけー!)

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