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お披露目

城に着くと、先ずは控え室に通された。通例ならば、この日に呼ばれた全ての妃候補が同じ部屋に集められる筈なのだが、アシュレイには個室が用意されていた。「きっとアシュレイ様が外の候補者たちに意地悪されないようにとの、奥さまのご配慮ですわ」トリッセの言葉に、「お止めなさい。どこで誰が聞いているともわかりません。アシュレイ様の侍女として、くれぐれも火種になるようなことは口にしてはなりませんよ」ハスラがたしなめるようにそう言った。私はハスラとナージャにメイクと髪型の両方を『最終チェックですわ!』とばかりに念入りに整えられている。


長い身だしなみチェックが終わり、リンを膝の上に乗せて、トリッセが入れてくれた心がリラックスする良い香りのハーブティーを飲みながら、時が来るのを待つ。するとドアをノックしてエルナンドが入ってきた。「時間だ。行くよ、アーシュ」いつの間に着替えたのか、エルナンドはアシュレイと同じ色の白いタキシードを着ている。しかもよく見ると、シャツの襟や袖口、首元に巻いたリボンは、アシュレイのドレスの生地と完全に一致していた。どっからどう見てもペアルックである。


「エルがエスコートするの?」


用意周到なヤンデレお兄様に引きまくりながら、そっと訊ねる。「あんな泣き腫らしたみっともない顔でアシュレイのエスコートをさせる訳にはいかないからね、急遽、私がエスコートすることにしたのだよ」もっともらしいことを言うお兄様だけど、貴方のその服装、どう考えたって最所からお父様を差し置いて私をエスコートする気満々だったでしょ!!ほら、トリッセやナージャだけじゃなく、お兄様のシスコンっぷりに慣れてるベテラン侍女のハスラまでもが『流石です…エルナンド様』と呆れたような、白い目を向けています。


そんな生ぬるい視線に気付いているのか、いないのか。お兄様は、わたしの膝の上で寛ぐリンを引っ剥がすように抱き上げると、トリッセに渡した。エルナンドに抱き上げられた途端、「ふぎゃー」と牙を向き、爪を出して威嚇するリン。リンは何故かエルナンドお兄様が苦手なようだ。「大丈夫よ、リン。式が終われば戻るから、良い子にしてて」トリッセの腕の中にいるリンに目線を合わせるように屈んで話しかけると、リンは「みゃー」と嬉しそうに鳴いた。


「アーシュが居なければ切り刻んでやるものを…」お兄様の呟きは聞かないことにしよう。


エルナンドにエスコートされて謁見の間に入る。「ハートランド侯爵家ご息女、アシュレイ・エル・ハートランド侯爵令嬢のご登場です!」入り口に控える近衛騎士が高らかに私の名を告げる。一気に注がれる視線に、緊張を表に出さないように胸を張り、ゆっくりと優雅に入室した。部屋の最奥の、高い場所に国王陛下とランセル皇太子がいる。今日もランセル皇太子は誰よりも『お姫様』である。ランセルの母君であるお妃様は、女遊びが激しい国王陛下に愛想をつかして隠居生活をしているらしい。息子の妃候補の顔すら見に来ないなど、よほど陛下にお怒りなのだろう。国王とランセル殿下の前には、すでに私以外の3人の候補がいた。アンナ伯爵令嬢、エリーゼ侯爵令嬢、そして異国よりいらしたヴィエラ姫。


横一列に並ぶ3人の候補者たちの隣に並ぶと、「貴女は此方だよ、アシュレイ姫」ランセルが壇上から声をかけた。ランセルが示したのは、ランセルの隣の空席の椅子。とんでもないことを言い出す王子様にギョッとする。心の中の動揺を抑えて、陛下に答える。「畏れながらランセル殿下。わたくしは妃候補の一人でありますれば、ランセル殿下や、まして国王陛下の隣に並ぶなど畏れ多いことにございます」妃候補の一人として登城した当日に、外の候補者たちを差し置いて壇上に立つなど、できるはずもない。非常識なランセルに、(とんでもない火種を持ち込みよって、このウツケが!!)と心の中で罵りつつ、他の妃候補と共に横一列に並んだまま通常よりも深く膝を折り、腰を落として最敬礼した。


「畏まる必要はない、だって私はもう決めたのだから」


晴れやかにそう言ったランセルは、軽やかに階段を降りてアシュレイの側までやって来た。そしてアシュレイの手を取ると、なんとその場に片膝を着いた。「アシュレイ・エル・ハートランド。私の妻となってください」手の甲にランセルの暖かく柔らかい唇が触れる。後ろに立つお兄様が、氷のように固まった。ランセルは立ち上がり、ここにいる誰よりも可憐で美しい顔で「いいよね、アシュレイ」と言わんばかりの、潤々とした、訴えるような目で私を見つめる。ざわざわと人々がざわめく。国王陛下は既にご存じだったのか、自分の意思をきっぱりと伝えたランセルを(よくやった、息子よ!)と言わんばかりに誇らしげな笑みでうんうんと頷いている。


手を取り合って見つめ合う私たちの隣で、無下にされ、自尊心を傷つけられた妃候補達が、怒りを堪えるように、肩を震わせていた。

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