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悪役姫の登城

皇太子妃候補として城に上がる日の朝、ハスラ、ナージャ、トリッセ、3人の侍女たちは世話しなく動き回っていた。ハスラは身の回りの荷物の最終確認。ナージャとトリッセはアシュレイにドレスを着せると、化粧を施し、髪を結った。まだ幼いアシュレイの魅力を存分に引き出す、真っ白な総レースのドレス。髪はホワイトゴールドのティアラとドレスと同じ素材のリボンで飾る。大きな姿鏡で自分の姿を確認する。


「いかがですか?アシュレイ様」トリッセが鼻息荒く聞く。「お美しいですわ、アシュレイ様」普段は控えめなナージャも珍しく興奮している。二人の心が手に取るように伝わる。


『うちの姫様、可愛い!!』


脱悪役姫!目指せ平凡!を人生の目標に掲げて今まで頑張ってきた。平凡を目指せば目指すほど侍女たちのアシュレイに対する溺愛っぷりが増幅した。アシュレイの愛らしさに骨抜きの3人。けれど彼女たちの気持ちもわかる。鏡に写し出されたのは、まるで絵本から抜け出したような、正真正銘、非の打ち所のないお姫様だった。鏡の前でくるりと回転すると、何故かナージャとトリッセ。そして自身の仕事を終えたハスラに拍手された。その目が語っている。『やはり、うちの姫様は可愛い!』と。


支度を終えて、屋敷で一番広い広間に向かう。広間のドアを、そこに控えていたザックが開けてくれた。広間の中に入ると、お父様とお母様、エルナンドが待っていた。「いよいよだね。嫌なことがあったらいつでもお父様を頼りなさい。私はいつだってアシュレイの味方だよ」「綺麗だわ、アシュレイちゃん。もし他の妃候補に意地悪されたら、遠慮なくお母様に言うのよ。ちゃんと弟には息子の花嫁候補くらい管理しなさいって叱ってあげるから」


相変わらず、お父様とお母様は過保護です。


アシュレイと同じプラチナブロンドの髪をした、常に冷静であるが故に、時に冷酷な判断を下すこともあるハートランド侯爵は、人々から『白銀の獅子』と恐れられている。そんなお父様が「アシュレイ、嫌になったら戻っておいで」と言いながら、人目もはばからず男泣きしている。お兄様と同じ鮮やかな金髪に、ランセル皇太子と同じ緑の瞳をした、『新緑の女神』と呼ばれる美貌のお母様は、「わたくしが嫁ぐ前に、城でわたくしに仕えていた裏工作と暗殺のプロがいるから、アシュレイちゃんに仕えるように命じておいたわ。思う存分活用してね」にっこりと、神をも魅了する美しさで微笑んだ。


「アーシュ…」お兄様がわたしの手を両手で包み込むように握った。「何があってもアーシュを守るよ」青い瞳は真っ直ぐに私を見つめる。いつだって彼はわたしの味方で、今現在も、小説の中でだってヤンデレ化する前は、己の幸せよりアシュレイの幸せを。己の欲よりアシュレイの望みを優先してきた。わたしがお兄様を狂わせなければ、わたしが平凡な幸せに満足すれば、この人は優しいお兄様のままなのだろう。「ありがとう、エル」自然と優しい笑みが溢れる。大丈夫。今の私なら、エルナンドは狂わない。いつもエルナンドといるときには、言動に細心の注意を払っていた。失言しないように、エルナンドを怒らせないように。けれど初めて、この人のことを『好き』だと思った。大切で、大好きなお兄様。


「これからも、よろしくお願い致します。お兄様」スカートの裾を摘まんで膝を折ってお辞儀をすると、「エルだよ、アーシュ」エルナンドは、身も凍えるような冷たい声で、耳元で囁いた。お兄様の周囲に吹き荒れるブリザードの幻が見えて、ブルッと身震いした。


お兄様は、お兄様なのである。

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