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皇太子ランセル

木漏れ日の差し込む庭園で、穏やかな時間を過ごす。ティーカップを傾けて紅茶を飲むランセル皇太子の細く長い指先が美しい。一口サイズの焼き菓子を淡い紅色の唇でぱくっと食べて、もぐもぐと動かす。その口許が色っぽい。ランセルを形成する全てが完璧で、芸術品みたいに美しくて、その一挙一動を心の中に焼き付ける。今スマホを持ってたらスクショしまくれるのに!!


小説の中のランセル皇太子もそれはそれは美しかった。初めて挿し絵にランセルが登場したときは、スマホ画面を連打してスクショしまくった。後に悲劇の王子と呼ばれる悲運な最後を遂げるランセル皇太子。彼は決して愚鈍ではなかったが、気が弱く、優しいがゆえに優柔不断なところがあった。そこに漬け込んだのが腹黒い貴族たち。そして我儘放題、散財放題の悪役姫アシュレイだった。重ねて彼が不運だったのは、アシュレイを妃としてすぐの、ランセルが19才の折に国王陛下が病に倒れたことだ。意識不明の重体のまま寝たきりとなった国王に代わってランセルが国政を担った。実権を握っていたのは腹黒い宰相と、アシュレイに激甘だった兄エルナンドだったのだが…


程なくして国は財政難に傾き、国民の怒りがランセル皇太子に向けられて、大衆の面前で斬首された。その首は鳥に啄まれて骨となるまで城門の前に晒された。


(これほどまでに麗しいランセル皇太子を、ただの金づるとしか見なかったアシュレイって、美的感覚ゼロだったんじゃない?)


小説の中のアシュレイの正気を疑うほどに、破壊的に美しい。眩いオーラを無防備に振りまくランセルに、愛とか恋とか超越した、圧倒的な庇護欲が心を占める。純粋無垢なお姫様。もといランセル皇太子を腹黒い大人たちから、そしてヤンデレお兄様から守ることを、アシュレイ・エル・ハートランドはここに誓います!!


「みゃー!!」


心の中で強く拳を握り締めたとき、リンが鳴いた。いつもの愛らしい声じゃなく、必死に訴える声。リンが遊んでいた方向を見ると、リンが池の真ん中で溺れていた。(助けなきゃ!)椅子から立ち上がって、踵の高いくつを脱いで池に飛び込もうとしたとき、ソルトに腕を掴まれた。「馬鹿か、溺れ死ぬ気か?」ソルトの目が怖い。ピリピリとした怒り伝わる。けど、気圧される訳にはいかない。このままじゃリンが、リンが…。不安が押し寄せ、不覚にもぶわっと涙が込み上げる。「リンが死んじゃう!」私の叫びを掻き消すように突風が吹いた。リンの周囲を丸く透明な水の膜が覆って、リンは風船みたいに丸い水のボールの中、池の上をプカプカと浮かんだ。ソルトが水魔法を発動してリンを守っているのだ。


「でかした、ソルト。アシュレイ姫をよく止めた」


ランセル皇太子はそう言うと、風魔法を発動させて小さな竜巻を作って水のボールを水面から浮かせると、風の力で陸地まで運んだ。風が舞い、水が舞う。陽の光に反射して水滴がキラキラと輝く。幻想的な光の粒の中心に立つランセルは、言葉を失うほどに美しかった。ランセル殿下、貴方、妖精か女神様ですか?駆け寄ってきたリンをぎゅーっと抱きしめる。「心配させないで」リンの小さな身体に顔を埋める。薄い皮膚から確かな鼓動を感じてほっとする。リンが無事でよかった。


力が抜けたように安心していると、「心配させたのはお前だ!」ソルトが怒りも露に私を睨む。「え?ええ?」悪役姫アシュレイすら怯むほどの威圧感。「ソルトの言う通りだよ、アシュレイ」先ほどまでの儚い美少女の面影の欠片もない、王者の覇気を纏ったランセルが私の側まで来ると、「貴女に何事もなくてよかった」


一転して、それはそれは優しい仕草で、脱ぎ捨てたくつを手に取り、床に跪いて私に履かせた。

今宵も仕事のため、短めで失礼します。

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