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不穏な籠



「着きましたね、ミトラ様!」



ミトラとアリスは、紅白どんぐりの群生地に来ていた。



「あら〜沢山実をつけてるわねぇ」



紅白どんぐりは、全体が真っ白などんぐりで、先の方から赤くなるどんぐりだ。


目の前には沢山の実をつけたレッドオークが立ち並んでいる。

既に落ちてる実も沢山あるが、落ちた実は全体が真っ赤になった"紅どんぐり"で、紅白どんぐりではない。


紅白どんぐりは直接木から取らなくてはならないのだ。



「それじゃあいただきましょうか」



「はい、準備は出来ております」



いつの間にか頭の上に籠をのせたアリスが、紅白どんぐりが鈴なりになっている枝の下でお座りをしている。

ミトラがレッドオークの幹に触れると、紅白どんぐりがバラバラと落ちてきた。

それをアリスが駆け回りながら頭にのせた籠で受け止めていく。



「このくらいでいいのかしらねぇ」



アリスの頭の上の籠からいくつか紅白どんぐりをつまんで、品質を見る。

籠の中の全てのどんぐりが、ちょうど真ん中あたりで紅白に分かれている。


良い紅白どんぐりは、赤が多くても白が多くてもいけない。一級品はこうなのだ。



「いいのばかりいただいちゃった、ありがとう」



ミトラがレッドオークに向かって声をかけると、風もないのにザワザワと葉が揺れた。



「ミトラ様、きっとレオン様も喜ばれますね」



「うふふ。そうね、それじゃあ帰りましょうか」



収穫に満足したミトラとアリスがその場を後にしようとすると、どこからか声が聞こえてきた。



『ミトラだわ』


『ミトラミトラ』


『御機嫌ようミトラ』



頭上からキラキラした何かが降りてきて、ミトラのまわりを回り始めた。



「あら、こんにちは妖精さんたち」



キラキラの正体はフォレストスプライトと呼ばれる、この森に棲む妖精であった。

透明な羽から光が溢れている。



『こんなところで珍しい』


『めずらしいめずらしい』


『紅白どんぐりをあつめてるのね』



「えぇ、そうなの。頼まれごとがあって。」



ミトラは3匹のフォレストスプライトたちに事情を話した。



『レオンに頼まれたのね』


『頼まれたのね』


『いい男に頼まれたなら仕方ないわね』



妖精というのはなぜかみんな、この手の話が好きである。スプライトたちは森に入ってきた冒険者のイケメンランキングをつけたりして、まるで年頃の町娘だ。

そんな彼女たちにとって、かつての魔王は中々のお気に入りらしい。


実際のところミトラはいい男ではなく"おいしいもの"に吊られたのだが、妖精たちにとってそんな事実はあまりにも興醒めなのか、都合の良いよう解釈されたようだ。



「あらあら、みんなレオンが好きなのね。」



『顔がいいもの』


『スタイルもいいわ』


『声も素敵よ』



スプライトたちは飛び回りながらキャッキャウフフと笑う。



「レオンに伝えておくわね」



『やだ〜』


『いやですわ』


『恥ずかしいですわ』



頬をほんのり赤く染めた妖精たちを見ながら、ミトラはかつての魔王の姿を思い浮かべていた。

確かに妖精たちの言う通り、レオンはそんじょそこらの一般人と比べてはならないほど恵まれた容姿である。

顔の造形もさることながら、陶器のような肌に宝石のように輝く金と赤のオッドアイ。白銀の長く美しい髪。何も着せても問題なく着こなせるであろう体躯。落ち着き払った低い声。


恐らくミトラが長い時の中で見てきた、どの男よりも優れた容姿を持ち合わせているが


(レオンたら、精霊でもないのに何千年も見た目が変わらなくて、バケモノじみてるのよねぇ)



初めて会った時から現在に至るまでに、レオンはちっとも劣化しないのである。

精霊であるミトラは、大地を流れるマナと大気中の魔力によって体を構成しているため、

姿形が衰えることはない。


しかし、肉体を持つレオンが衰えないのは、自然の摂理に反しているのだ。


人間界の貴族のご婦人方に伝授できたら、人間であれば死ぬまで遊んで暮らしても有り余る財を築けてしまう。


今度レオンにアンチエイジングの秘訣を聞いてみることにしよう。



「うふふ。それじゃあ、またね」



『あっ、待ってミトラ』


『まってまって』


『要件を伝えてないわ』



ミトラが帰ろうとすると、スプライトたちは慌てて飛び回った。



『さっき籠を見たの』


『カゴよ』


『ニンゲンが入れないところ』



スプライトたちはそもそもミトラに伝えたいことがあったようだ。3匹が口々に説明する。



『籠が突然現れたの』


『怖いわ』


『中身を見る勇気がないの』



スプライトたちがいうには、人間が立ち入れないはずの領域に、突如籠が現れたのだという。



「突然籠がねぇ」



冒険者ギルドの地図に載っていない地域は、ミトラが魔法をかけているので人間が立ち入ることはできない。

恐らく置いていったわけではなく、違う方法で籠を置いたのだ。



『アリスの頭の籠より大きかったわ』


『大きかったわ』


『こっちよミトラ』




スプライトたちはキラキラと光を散らしながら、森の奥に向かって進んで行く。




スプライトに導かれてミトラとアリスがやってきたのは、千年咲き誇る薔薇『サウザンドロゼ』のアーチがある場所であった。


アーチの下に、パンでも入れておくような大きめの籠が置かれている。



『嫌な臭いがするの』


『臭いわ』


『せっかくのサウザンドロゼの薫りが台無しよ』


「ミトラ様、確かに妙な臭いがいたします。」



アリスたちの言うように、籠から奇妙なニオイが立ち込めていた。

ミトラは鑑定するため、少し近づいて魔力を流す。



「えっ…」



鑑定したミトラは急いで駆け寄り、赤く汚れたような布を剥ぎ取った。



「ミ、ミトラ様危険では?!」


『ミトラ大丈夫なの?』


『何だったの?』


『気持ち悪いわ』



続いてアリスたちが籠の方へとやってくる。



ミトラは籠の中身を見て愕然としていた。



「人間の赤ん坊よ……」

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