3歳の誕生日
「ハルヒ、ヒナタ、誕生日おめでとう。」
「「とーしゃま!ありがとごじゃます!」」
この日は双子の誕生日。
厳密には誕生日は別の日であろうが、レオンと双子が出会って今日で三年が経つ。
あの日を誕生日として、レオンは双子の誕生日を祝ってきた。
おはようの挨拶をして、着替えをさせて顔をふいてやったら一番に言うようにしている。
「今日はみんなから祝ってもらえると思うが、ちゃんと感謝を述べるのだぞ。」
「あい!」
「わかりまちた!」
双子は短い腕をぴんと上に伸ばして返事をする。
挨拶と御礼がきちんとできる子に……と、レオンは教育している。
「さぁ、夜はパーティだからな。朝ごはんは軽くにしておこう。」
誕生日とはいえ、朝から重いものを食べさせては身体に悪い。
レオンは朝食のレパートリーの中でも軽めのものを選んで作っていた。
「ちゃまごー!!」
「ちゃまごのおかゆー!!」
双子が席に着いたのを確認して、レオンは隣の部屋のキッキンから土鍋を持ってきた。
蓋をあけると、黄色に輝くつやつやのたまご粥が湯気をあげている。
「熱いから気をつけて食べなさい。」
レオンはお粥をよそってやると、自分用に入れておいたコーヒーを持ってきて、一緒にテーブルについた。
少しレオンには低すぎるテーブルだ。
双子の面倒を見るようになってしばらくして、レオンは自室の隣をキッチンに改装した。
双子の食事を作るのに食堂まで行くのが面倒になったことと、結構な時間キッチンを占領して迷惑をかけている気がしたのだ。
また、双子はまだ小さいので、座高に合わせたテーブルと椅子も作った。
これはレオンが作成した魔道具で、双子の成長に合わせてテーブルも椅子も高くなって行くのだが、当分レオンは胡座をかくしかないだろう。
それでも食事のときに一緒に座って、双子の拙い会話を聞くのだ。
「「いただきまーしゅ!」」
「召し上がれ」
双子はちっちゃな手でスプーンをつかみ、おかゆをふーふー言いながら冷ましている。
「ふーっ!ふーっ!」
本当に「ふー」という必要はなく風を送ればいいのだが、言っても伝わらないだろう。
「はるちゃ、ごはんつぶとんでるよー!」
「あー!ひなちゃ、ごめんね!」
思考錯誤しながら一生懸命食べる姿はいつ見ても微笑ましいものだ。
こんなにかわいい双子だが、すこぶる寝相が悪い……
今朝もレオンが目を覚ますと、もう外が明るいはずなのに視界は真っ暗。さらに、息苦しいと思ったら、ハルヒが仰向けで顔の上に覆いかぶさっていた。
ヒナタは腹の上で丸まっていた。
ベビーベッドを卒業してから毎日レオンと一緒に寝ており、それに合わせてベッドも低く大きくしたのだが、ハルヒもヒナタもいつのまにか体のどっかしらをレオンにくっつけて寝ている。
寝付くまでは腕にしがみついているので、寝付いてから引き剥がして左右にそれぞれ寝かしているのだが、起きるといつもこう。
夜中に気づいてまっすぐ寝かせても、もぞもぞと動いてレオンを探すのだ。
初めて一緒に寝た日など、体が拘束されたと勘違いして飛び起きたら、顔面にしがみついていたヒナタと胸の上に乗っていたハルヒを反動で吹き飛ばしてしまった。
瞬時に防御障壁を展開し、落下地点に巨大クッションを召喚して事なきを得たが、レオンは大層肝が冷えた。
「はるちゃ、おいしいねぇ」
「ねー!」
双子はそんなことはつゆ知らず、落ちたクッションの上ですやすやと眠り続けた。
随分と肝が座っているというか、図太いというか……
「ほら、ゆっくり食べなさい、ヒナタ、米粒がついてるぞ。あぁ、ヒナタ、こぼしてるじゃないか。」
誰に似たのかさっぱりわからないが、随分とおおらかに育っているようである。
コンコン
ドアがノックされる。
どうやらセドリックが来たようだ。
「入れ。」
「おはようございます。レオン様、ハルヒ様、ヒナタ様。」
セドリックは白い大きな箱を二つ持って入ってきた。
「随分と早いではないか。その箱は?」
白い箱にはオレンジ色のリボンがかけられている。
「昨晩、ミトラ様からお預かりしました。お二人へのお誕生日プレゼントだそうです。朝一番に届けて欲しいと。」
ミトラは、双子を拾ったあの日から随分と目をかけてくれている。
森の散歩にも付き合ってくれているし、こうやって事あるごとにプレゼントをくれる。
いつも何かしら理由をつけて持ってくるのだが、あまりにも頻度が多く教育上よろしくないので、控えてもらうように伝えた。
なので今回は、前回から日が空いてることもあってかなり気合いを入れているようで、箱のサイズもかなり大きい。
「お手紙もお預かりしております。」
白い封筒にオレンジ色の封蝋で、中にはカードが入っている。
「とーしゃま!みとらさまのおてがみ!」
「よんでくだしゃい!」
「ふむ………
『かわいい双子ちゃんへ。
3歳のお誕生日おめでとう。
またひとつ、素敵なレディに近づいたね。
いつもかわいい二人だけど、お誕生日の日はさらにかわいくなってほしくて、お洋服を作りました。
今日は一日それを着てくれると嬉しいです。
また森に遊びにきてね。
アリスたちと待ってます。
ミトラ』
ほう、服をくれたようだな。」
「「およーふく!みたい!」」
「食事が終わったらだ。汚したくはないだろう。」
「「わかりまちた!!」」
服を貰ったと知ってテンションが上がったようだ。
「こら、かきこまない。ゆっくり食べなさい。」
窘めるレオンの言葉など耳に入らず、食事を終えた双子はセドリックの元へ駆け寄った。
「じーじ!みていい?」
「じーじ、あけてくれる?」
「はい、少々お待ちください。」
セドリックはオレンジのリボンをほどいて箱を開けると、双子に見えるように箱を傾けた。
中にはさまざまな種類のオレンジ色の花が敷き詰められ、その上に純白のワンピースが置かれていた。
「「きれー……」」
きらきらと輝く生地は少し厚めで、花柄のエンボス加工が施されている。
「随分なものを寄越したものだな。」
縫製に詳しくないレオンでも、そこらで簡単に手に入るものではないことは一目でわかる。
「セイクリッドメリノの毛を使っているそうです。」
セイクリッドメリノとは、光属性の魔法を使う小型の羊のような魔物である。
個体数が極めて少なく、一体からとれる毛の量も多くないが、取れる毛は最高級品。
毛を刈っても聖属性は消えることがなく、教会の法皇のローブにも少量編み込まれ、邪悪なものを遠ざけると言われている。
しかしこのワンピースは、少量どころか全てがセイクリッドメリノの毛で作られており、エンボス加工が施せるほど密度も高い。
そのくせ素材がいいから軽く、手触りもよいのだろう。
「今度礼をせねばならぬな。」
ミトラも随分と奮発したものだ。
世に出る代物ではない。
もしかしたら、ミトラの森の未開地にセイクリッドメリノの住む場所があって、ミトラからすれば容易に集められるのかもしれないが。
「「とーしゃま!着てみていい??」」
双子もどうやら気に入ったようで、早く着て見たくてソワソワしている。
「ああ、もちろんだ。セドリック、チロルを呼んでくれ。」
「かしこまりました。」