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ギャン泣きの双子



ある日の昼下がりーーー





レオンは執務室で書類仕事をしていた。




例えばマーリン達の魔術研究やアスクレピアの新薬の被験体となってレポートを書いたり、トールディンが作成した他の者には扱えないような武器の使用感についてまとめたり、陸海空の武力チームの訓練や作戦を視察してダメ出しをしたり……



とまぁ色々と、この世界でレオンにしか出来ないようなことは未だにレオンがやっている。




平和な世界であっても魔術や医療の発展は必要なことだと思っているし、武器や軍隊については戦争を仕掛けるためではなく、仕掛けられた時に自分たちを守るためにやはり必要だと考えている。



レオンが直接指揮をとることはもうないが、協力ならいくらでも惜しまないでいる。



この日もレオンは、トールディンの『本人が生命の危機を感じた時に限り武器となりうる短剣』についてまとめていた。


当然レオンに生命の危機を感じさせることは困難なため、トールディンの部下に短剣を持たせ、レオンが殺気を出して短剣の変化を観察していた。



(やはりまだ、危機を感じてから武器として使用できるまでの時間がかかり過ぎている…)



レオンが観察結果と、考えうる対策を書き連ねていると、扉がノックされた。




「入れ。」




扉を開け、姿を現したのはセイレーンであった。



「レオン様、すみません……その、ハルヒ様とヒナタ様が泣き止まないんです。」


「なに?お前が歌ってもだめか?チロルはどうした?」




レオンはペンを止め尋ねた。


チロルとは、リロに紹介されたテンジクネズミの獣人である小柄な中年女性で、子沢山の経験を生かし双子の世話をしに城に来てもらっている。


レオンが仕事をしているときは、食事やオムツ、着替えやら寝かしつけまでやってくれており、今日まで一度も問題が起きたことはなかった。




「チロルさんが今も面倒を見てくださっております。しかし、泣いている原因がさっぱりわからなくて……」




セイレーンも心を落ち着ける歌を歌っているが、効果がないそうだ。




「そうか、すぐに行こう。」


「すみません、お仕事中ですのに……」


「構わん。私の代わりにお前達に来てもらっているのだ。本来は私の仕事だからな。」




レオンはそう言うと、双子のいる部屋へ向かった。








「ここでも聞こえるな。」



部屋はまだ先であるのに、もう泣いている声が聞こえてくる。



「はい……もう泣いているというより、叫んでると言った方が正しいくらいで。」



セイレーンは憔悴した顔をしている。

部屋に近づくにつれて泣き叫ぶ声は大きくなった。



「入るぞ。」



レオンが部屋に入ると、チロルが2人を抱えてあやしていた。



「あぁ!レオン様!お忙しいのにすみません。」



チロルは少しホッとした顔をした。




「原因がわからないと聞いたが。」


「そうなんですよ。おなかが空いてるわけでも、おしめが濡れているわけでもないんです。どこか具合が悪いのかと思って、医療班の人にも見てもらったんですけど、どこも悪くないそうで……」



レオンはチロルから双子を受け取り、あやしてみたが泣き声はひどくなるばかりだ。




「こんなに顔を赤くして…一体どうしたんだ?」


「疳の蟲かと思いまして、蟲封じもやってみたんですけどねぇ。」


「疳の蟲?なんだそれは?」



レオンには聞きなれない言葉のようだ。




「あぁ、疳の蟲はですね、赤ん坊のこのくらいの時期に、理由もなく泣くことがあるんです。実際には疳の蟲がついていて、特に魔力が多い子によく寄ってくるんです。うちの子も何人か疳の蟲につかれて散々泣きわめいたり夜泣きしたりしたんですが、蟲封じで落ち着いたんですよ。」




チロルはそういうと、双子に魔法をかける。


魔法を解析したところ、暴走した精霊を抑える時に使用する魔法を、やわらかくしたようなものだった。



「ほう、そういうものがあるのか。初めてしったぞ。」



しかし、双子が泣き止む様子はない。



「その疳の蟲というのは実在するということだな?」


「はい、精霊や妖精のようなものらしいですが、詳しくは私も存じ上げません。この魔法が効かないのであれば、原因は違うかもしれませんし……」



子沢山でなれているのかチロルは参ってはいないようだが、申し訳なさそうな表情をしている。



「なるほど。それなら調べようがあるぞ。」



レオンは双子をベッドの寝かせると、手をかざして呪文を唱える。


淡い光が双子を包み、そして退いていった。



「……見てみろ、これが原因だ。」



チロルとセイレーンが覗き込むと、なんと双子の額からニョロニョロと白い蛇のようなものが生えていた。



「きゃっ……!」「こ、これは……」


「これが疳の蟲とやらの姿だな。随分と二人を気に入っているようだ。軽めの魔法では逃げていかないほどにな。」


「いや〜何度も疳の蟲には悩まされてきましたけど、実物は初めてです。レオン様はこんな魔法も使えるんですねぇ。」




チロルは感心したような顔で、白い蛇のようなものを見つめている。



「これさえ消してしまえば泣き止むだろう。今取り去ってやる。」



疳の蟲を除去するため、レオンは額から生えた白い体を握る。



そのとき



《やめて……》



「む?」



《おねがい……消さないで……》



どうやら疳の蟲から手のひらを通して声が聞こえているようだ。



《おねがい……》





「もしや…」



レオンは握る手を緩めると、疳の蟲を解析した。



「れ、レオン様…?」



チロルとセイレーンは不安そうにレオンを見つめる。



「……行くところができた。一先ずこのまま、疳の蟲の時間だけ止めよう。」



レオンは双子の額から生える疳の蟲に手をかざすと、呪文を唱えた。


ニョロニョロと蠢いていた疳の蟲は、ピタと動きを止める。


双子は落ち着きを取り戻し、泣き疲れたのか

すぐに眠り始めた。




「一先ず蟲の処分は保留だ。暫くはこのままで問題はずだ、後を頼むぞ。」


「はぁ……わかりました。」


「レオン様はどちらへ……?」



レオンは扉へ向かい、半身だけ振り返って答えた。







「心配性の親の元だ。」

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