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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
聖都編
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第七十話 露店の食べ物は二割増しで旨い。


 

 聖骸地アルブラ。

 中堅都市アレンデールの近隣に位置し、人の往来も盛んなため、その地には礼拝所が建てられた。数少ない、一般市民でも訪れることが出来る聖骸地として、敬虔な信徒から物見遊山の旅人まで、多くの礼拝者が絶えず訪れる場所である。


 そして最寄りのアレンデール市は、礼拝者たちの中継地点として栄え、商業と観光業で潤う都市となった。



 「んーーー、腰が痛い…」

 「ずっと座りっぱなしでしたものね」

 「………おなかすいた」


 タレイラからアレンデールまでは、馬車で向かうことになる。だが、タレイラは聖央都市とも関係の深いサイーア公国の領地であり、アレンデールのあるイルシュ王国へ行くには国境を跨ぐ必要があった。


 タレイラ発の長距離馬車は、国境まで。

 入国審査を終えた後、その次はアレンデール市行きの中距離乗合馬車に乗り換える必要がある。


 で、ここは国境の検問所。馬車を降りた俺たちは、これから入国審査を受けなければならない。



 流石に入()審査だけあって、タレイラのときは代表であるアルセリアが身分証明書を呈示するだけであっさりと許可されたが、今回は全員がそれぞれ審査を受ける必要がある。


 とは言え、アルセリアもベアトリクスもヒルダも、同じ“神託の勇者一行”の証明札プレートを持っているため、ほぼ無審査に近く通過することが出来た。聞かれたことと言えば、入国目的くらい。それも、聖骸地巡礼と言えば即座に納得してもらえた。


 ……俺の場合は、どうなんだろう?見比べてみたところ、俺の証明札と三人娘のとは、違うようだ。第三等級遊撃士の身分と、グリードのおっさんにもらった刻印がどれほどの効果を発揮してくれるのやら。


 ドキドキしながら、警備兵に証明札を見せる。


 …ん?気のせいか、兵士が目を見開いたような……いや、気のせいじゃない。その兵士は、証明札プレートと俺の顔を交互に見比べて、

 「…貴方が、勇者さま方のご同行者さまですね?入国目的は?」

 「…あ、彼女たちと同じで…聖骸地巡礼のため……ですけど」


 多分、証明札を見れば俺が勇者の補佐役だということが分かるようになっているのだろう。ただ、それにしては兵士の表情が、あんまりウェルカムな感じじゃないんだよなー。


 アルセリアたちには、すごく愛想がよかったのに。

 なんか、俺に対しては警戒心を隠そうともしないんですけど。


 ……俺、何かした?


 いや、それならこんなにあっさり入国許可が下りないだろうし。


 兵士の謎の表情に首を傾げつつも、審査は無事に終わったので俺たちは国境を超える。

 ここから先は、イルシュ王国だ。



 

 国境からガタゴトと馬車に揺られること半日。

 俺たちは、ようやくアレンデール市へと到着した。



 「へぇ。ここがアレンデールか」

 流石にタレイラほどではないけど、結構な都会だ。人の往来も多いし、礼拝者や観光客を見込んで、通りのそこらに土産物屋だとか露店だとかが軒を連ねている。

 タレイラよりも洗練されてはいないが、妙な活気に溢れている。建物も人々の格好も全然違うけど、どことなく大須の商店街…日本にいたころにちょいちょい出かけたもんだ…に似てるなー。


 「リュート、こっちこっち」

 足を止めて通りの両側を見ていた俺を、アルセリアが手招きした。なんだかウキウキしている。彼女の目の前には、串焼きの露店が。


 …………おいコラ。いきなり食い物か。


 「ほら、これ。ちょっと食べてみて」

 言うなり、俺に串焼きを押し付けてくる。


 …これ、何肉だ?色は白っぽくて鶏肉みたいだけど…味付けは、塩コショウのみ、か。

 

 売ってるからにはそれなりに食べれるものだろうと判断し、その謎肉を一口。



 おお…これは、なかなか。


 

 見た目どおり、その味も鶏肉に似ている。モモ肉のようにしっとりとしていて、胸肉のようにあっさり。しかして噛めば噛むほど旨味が口中に広がっていく。


 「ふむふむ。結構旨いな」

 「でしょー?アレンデールの名物っていったら、コカトリスなんだから!」


 ……なぬ?


 「コ…コカ?って、食べれるの!?」

 コカトリスのことは知ってるが、あれ、確か毒があるんじゃなかったっけ?


 「アレンデール近郊の山岳地帯に生息する個体は、毒を持たないんですよ」

 ベアトリクスが串焼きを上品にぱくつきながら、説明してくれた。


 …にしても……食べちゃうんだ…コカトリス。

 まあ、食べるのは毒のない個体だけだと言うし、フグを食べてしまう日本人の方がよっぽど非常識か…?



 ヒルダは既に二本目に突入している。

 アルセリアは一本目を食べ終えると、

  

 「で、どう?」


 いきなり聞いてきた。


 「は?どう…って、何が?」

 何を聞かれてるのか分からず、問い返す俺に彼女は、

 「だから、これ使って、何か美味しい料理とか作れる?」


 ……ものすごく眼を輝かせて、迫ってきた。


 「んー…まあ、クセのない味だし、いろんな料理に合いそうな………って、お前らまさか…」


 じろり、と睨み付けると、三人とも目を逸らした。

 やっぱりか!


 「それが目的で、アルブラに行くって言ったんじゃないだろうな…?」

 「ななななな、何を言ってるのかしら。私は勇者なのよ。そそそんな、他の地域では食べられないような珍しい名物を食べたいとかいう理由で巡礼をするはずないじゃない」


 ……白状しやがった。


 「そうですよ、リュートさん。そんな不届きな理由で聖骸地巡礼を行う信徒など、おりません。ましてや私たちは崇高な目的を持っているのですから」


 ………崇高…ねぇ。


 「ただ、たまたま訪れた地で美味しい食事をいただくことが出来れば、明日への活力にもなるというもの…でしょう?」


 ……いや、でしょう?って…尤もらしいことを言ってるけどさ、


 「……お兄ちゃん、今日のご飯は何つくる?」



 ヒルダの言葉で、それも台無しだよ。


 

 

 

旅行の醍醐味は、各地の名産ですよね。

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