第六十八話 痛み
「なあ、猊下。…先輩ってさ、結局何がしたかったんだろうな?」
ラディ先輩の亡骸を前に、俺は疑問を口にした。
こんなことがあってもやっぱり、この人を悪人とは思えない。ましてや、べへモスなんて作って地上界を滅ぼそうとか考えるような人間だとは、どうしても思えなかった。
「……私にも、分からないけどね。…ただ、彼はとても合理的な人間だった」
……ん?それとこれと、どうつながるんだ?
「だからこそ、滅びた創世神に執着するのではなく、新たに神になりうる存在に期待を寄せた…のではないのかね」
……彼が予想外だったのは、そのために敵に回したのが、自分が目を付けた対象だった…というだけで。
「…バカだよなー………」
「……そうだね…馬鹿な部下だったよ」
「バカはアンタもでしょ!!」
突然、アルセリアが割り込んできた。なんか怒ってるけど、なんで?
「いくらそう簡単には死なないからって、あんだけの攻撃をわざと受けるとか、何考えてるわけ!?」
すごい剣幕でまくしたてる。
ああ、そう言えば俺、先輩の攻撃をまともにくらってたんだった…………
…………意識した途端、痛くなってきた。
「…って、痛い!ちょー痛い!!なにこれ!?マジで死にそうなんですけど!?」
「…当然でしょ。アンタの方が馬鹿だわ」
激痛にのたうつ俺に、無慈悲なアルセリアの言葉。
「……ん?今なら、とどめを刺せるんじゃ………」
「ちょっと!勇者さん!?それは悪役の顔ですよ!!」
「魔王に言われたくない」
酷い!俺、今回はすっごく頑張ったのに!
頑張って、慣れない潜入捜査なんてやって、アナベルは救えなかったけど、べへモスも片付けて、ちゃんと一対一で先輩にも勝ったじゃないか!
「あー、もう!痛い!痛すぎて何がなんだか!!もう、俺、涙目になってね?」
「なってるわね、ヘタレ紳士」
「今、紳士は関係なくね?」
「…じゃ、ヘタレ」
「………酷い!!」
以前は泣いたことなんてなかったし、桜庭柳人だったときも怪我をして泣くことなんてなかったけど。
本当に痛いときって、涙が出るものなんだな。
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それから俺たちは、“魔宵教導旅団”の本部を抜け出して、グリードの手配した捜査隊に後のことを一任した。
ヒルダとベアトリクスが待っている教会へ戻り、全てを説明する役割はグリードに押し付けた。アルセリアが話そうとしていたが、強引に遮って俺が押し付けた。
ラディウスの裏切りを聞かされた二人のショックは相当なものだったろうけど、アルセリアの顔を見て何かを察したようだった。
俺には入り込めない、三人だけの絆が、そこにはあった。
後ほど上がってきた報告によると、捜査隊が突入した時、他の幹部連中は皆、薬で眠らされていたらしい。
誰の仕業かは分からない。その目的も。
ただ、確保された構成員の中に、小太りでちょび髭の男は、見当たらなかったと言う。
ラディウス先輩の件は伏線として、いずれ回収出来たらなーと思います。
あと、ヴォーノが謎の暗躍をしてるんですが……どうしてこうなった?これも伏線なのか?




