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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
魔王崇拝者編
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第五十一話 面影


 「新たな任務…ですか」

 俺とは違い、アルセリアたちは平然としている。

 おそらく、今までもこうして教会から命令を受けて行動してきたのだろう。彼女らの表情は、既に“勇者”に戻っていた。


 「まずは、会わせたい人物がいる。…こちらへ」

 任務とやらの内容には触れず、グリードは俺たちを別室へと案内する。


 部屋の中には、先客がいた。


 …誰だろう?俺がそう思った瞬間。


 「げげ…っ師父!」

 アルセリアが、気まずそうに漏らした。


 ……師父?するってーと……


 勇者に師父と呼ばれた男が、こちらに向き直った。そして

 「おう、アルシー。師匠に向かってその態度、随分と生意気になったじゃねーか」

 不敵に笑いながら、アルセリアのこめかみをグリグリ。


 「いたたたたたたた!痛い!嘘です、冗談です!ちょっと吃驚しただけですぅ!」

 グリグリの刑に悲鳴を上げるアルセリアを無視して、ベアトリクスとヒルダは、

 

 「お久しぶりです、師父。お元気そうで何よりですわ」

 「………………せんせ、おひさ」

 軽く一礼して、その男に挨拶する。

 「おう!お前らも元気そうだな!…魔王討伐に向かったって聞いたときにゃ、もう二度と会えないかもと心配したが………………頑張ったな」

 最後の一言は、ひどく優しい。アルセリアのこめかみをグリグリしていた手で、彼女の頭を撫でながら。


 「………………師父……」

 

 えええええ!?アルセリアが、()()アルセリアが、涙ぐんでる!?

 これは、ちょっと天変地異の前触れなんじゃないか!!?


 俺は完全に置いてけぼりにされているのだが、なんだか感動の再会っぽいので口を挟みにくい。



 「ラディウス、積もる話もあるだろうが、それは後にしてもらえるかね?」

 見かねたグリードが代わりに口を挟んでくれた。助かるよ、ボス。

 「まずは、紹介しておこう。彼はリュート=サクラーヴァ。彼女らの補佐役だよ」

 グリードが俺を紹介した途端、その男はしばらくの間俺の顔を凝視して動きを止めた。


 …………何だよ、俺の顔に何かついてんのか?


 「……お前さんが……?また、随分と物好きな…。さてはアレか、Mだったりするわけか?」


 ………なんちゅうこと言いやがるんだコイツは!?


 「物好きも何も、枢機卿…猊下に任命されたんですけど」

 「そーかそーかぁ。オレはラディウス=エルダー。“七翼の騎士セッテアーレ”の一翼だ。で、勇者こいつらの師匠だ。よろしくな!」


 ……勇者たちの、師匠?


 快活に笑うその男、ラディウス=エルダーは、彼女たちの師匠というには随分と若い。せいぜい、二十代になるかならないか…ってとこじゃないのか?


 だが、おそらくその腕は本物なのだろう。グリードが、半端な者を勇者たちの師匠に任じるはずかない。


 「ええと…そのセッテなんとかって……?」

 「ん?ああ、グリード猊下の私設実働部隊ってとこかな。要は猊下の忠実なしもべってやつだ」

 かんらかんらと、屈託のない笑顔を見せる男だ。人見知りとか、一切縁がなさそう。

 「よーし、お前には、特別に「ラディ先輩」って呼ぶことを許可してやろう!」

 …むしろ馴れ馴れしすぎる。

 「……って、なんで「先輩」?」

 「まあまあ。お互い同じ枢機卿ボスに仕える者同士じゃないか。言うなりゃ、お前はオレの後輩…だろ?」


 人好きのする笑みでそう断言されてしまうと、不思議とそんな気分になってくる。

 まあ、実際グリードの部下…という意味では先輩後輩の関係になるわけだから……構わないか?


 自分の本来の立場を考えれば、構わないどころの話ではないのだが…無邪気に肩を組んでくるその人物に胸襟が緩んでいるのも事実だ。



 ……こいつ、菅先輩に何となく似てる…………。


 日本で人間だった頃。同じ部活に所属していた数少ない男子生徒ということで、なにかと自分の生徒会の仕事に俺を巻き込んでいた、憎めない先輩。


 気さくで、人懐っこくて、ちゃらんぽらんなくせに、どこか頼りがいがあって…


 …懐かしいな、こういう感じ。


 「…ん?どうした、リュート」

 「いや、何でもないです、先輩」


 しんみりしかけた俺の様子を気にした彼に、自然とそう呼びかけることが出来た。


 「さて、お互い自己紹介が終わったところで、話を……」

 「よぅし!せっかく出会えたこの幸運に!今夜は飲み明かすとするか!!」


 グリードの声を遮って、ラディウスは宣言する。


 ……って、枢機卿ボスを無視するってどんだけ図太い……


 「ラディウス、気持ちは分かるが……」

 「だーいじょうぶさ、ボス。オレからしっかり説明しとくから。アンタはもう休んだ方がいいぜ?年寄にゃ夜更かしは禁物だぞ」


 …………図太いどころじゃない!!


 だが、その不敬の極みにも、グリードは苦笑するだけだった。

 多分…ずっとこういう感じだったんだろう。そこには、態度なんかでは揺らぐことのない確固とした信頼関係が見て取れた。


 「……仕方ないね。それではラディウス、君から説明を頼むよ。…ああそれから、アルセリアにはあまり飲ませないように。酒においては、君の教えに応えられなかったのだからね」


 ………って、アンタか、アルセリアこいつに酒を教えたのは!!


 「了解了解。それじゃ、とっておきの店に行くとするか!」



 この強引さ、この有無を言わさぬ感じ、間違いなく勇者の師匠だ。


 …先輩、アンタをちょっと恨ませてくれ………



 もし彼が品行方正な人物であったなら、三人娘ももう少しは()()っぽくなっていただろうに。

 

 

 


 

新キャラ登場です。

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