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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
番外編その2
473/492

学校へ行こう。 第二十九話 魔王陛下、お説教される。



 「いいですか、ユディ、ユウト。誰にでも怖いもの、嫌なものというのはあるんです。それを、無理強いしたり揶揄ったりするなんて、恥ずかしい行為だとは思わないんですか?」

 「…………はい、先生…」

 「………ゴメンナサイ」


 俺とユディット、二人で正座。目の前には、腰に手を当ててお説教モードのギネヴィア先生と、心配そうなアレクシスと、めちゃくちゃ決まり悪そうなシエル。



 川虫が怖いくせに意地を張って否定するシエルをユディットと二人して散々揶揄ってたら、ギネヴィア先生の逆鱗に触れてしまったのだ。


 「完璧な人間なんて存在しないんです。だからこそ人は助け合って生きていかなくてはならないのでしょう?そしてそれは、互いの弱さを認め合うということに他なりません。自分が平気だからって他人にそれを押し付けるのならば、いざ自分が弱みを曝け出したときに誰にも手を差し伸べてもらえないことも覚悟しなくてはなりません!」


 ギネヴィア先生、口調はそこまでキツくないんだけど、毅然とした様子が俺たちに反論も言い訳も許してくれない…反論も言い訳もないけど。


 「シエルは貴方たちの友人で、クラスメイトですよね?助け合い支え合わなくてはならない間柄ですよね?その彼を傷つけたり貶めたりする理由が、何処にあるというんですか?」

 「…………いえ、ありませんすみませんでした…」

 「…………ゴメンナサイ」


 いや、理由ならあるんだよ?つか、確かに俺はシエルとクラスメイトだけど友人じゃないし、向こうから一方的にだけど敵視されてるし、だから敵か味方かで言えば敵になるんだろうし、それにクラスメイトって言っても班が違う以上は班別対抗戦で敵対することになるんだし。


 …けど、今のギネヴィア先生には何を言っても通用しないと思う。


 「謝る相手は私ではないでしょう?二人ともきちんとシエルに…」

 「あの…先生、オレは別に……」


 堪らなくなってシエルがギネヴィア先生を遮った。当然のことながら、俺たちに気を遣ってるんじゃない。ただ、庇われまくって居たたまれなくなっただけだ。


 しかしそこで、先生の矛先がシエルに向いた。


 「貴方も貴方ですよ、シエル。嫌なことはちゃんと嫌だと言うこと。こんなことで下らない意地を張ってどうするんですか?」

 「……いえ、だからオレは別にそこまで……」


 なおも素直にならないシエル。魔王おれの前で弱みを晒すのが嫌だって気持ちは分からなくもない。が、ギネヴィア先生はそんな奴の心情を知る由もない。


 「……シエル、確かに貴方たちは学生と言えども騎士を目指す者。いずれは大きな壁に突き当たり、力及ばぬことを認めるわけにはいかない状況に陥ることもあるでしょう。それもまた、戦士としての生きざまです。しかし、誇りや矜持は常態的に振りかざすべきものではありません」

 「いや、ですから、そんな大げさなことじゃなくて…」

 「そうです。そういったことは、ここぞという時まで取っておきなさい。いつだって弱さが許されるわけではないのですから、せめてそれが許される状況においては自分の弱さを認めそれを受け容れなさい」

 「…………………」


 シエルがだんだん縮こまっていく。恥ずかしさに、そのうち川にでも飛び込みそう。

 

 …うむむ、俺も確かにちょっと揶揄いすぎたって自覚はあるし、ここは一つ助け船でも…


 「シエル、悪い!ちょっと巫山戯すぎた、勘弁な!」

 「私も…少しやりすぎてしまったわ、ごめんなさい」


 ささっと謝ると、俺はギネヴィア先生からシエルを奪取し、肩をバシバシ叩いて仕切り直す。


 「まぁあれだよな、山育ちだとこういうの見慣れてないからちょっと戸惑うよな?」

 シエルが山育ちかどうかなんて知らないが、とりあえずそういうことにしておこう。

 

 「そうよね、慣れてないものを警戒するのは普通のことだわ」

 ユディットも、俺の意図に気付いて調子を合わせてくれた。


 怖いっていうのと、戸惑いとか警戒とかは完全に別物だ。表現を少し変えるだけで、ぐっと抵抗は小さくなる。

 シエルも、そういうことなら…と態度を軟化させた。


 「……いや、オレも少し意地になってしまったみたいだ………………悪い」


 最後の謝罪はめちゃくちゃ躊躇いがちだったが(ってシエルが謝る必要はないんだけど)、これでひとまずは仲直りだ。

 なんだかやたらとぎこちなくて不自然な感じだが、ギネヴィア先生は満足げに頷いてるので、どうやらこれでお説教は終わりそう。アレクシスも、胸を撫で下ろしていた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 その後俺たちは、気を取り直して釣りを始めた。再びギネヴィア先生のお説教が始まらないように、シエルの針には俺が川虫を付けてやる。

 野郎相手に世話を焼くのは御免なのだが、これ以上ギネヴィア先生の俺に対する心象が低くなるのを避けるためならば我慢我慢。


 シエルも、俺が揶揄ったり恩着せがましくしたりしなければそこまで抵抗を感じないようで、始めてみればすぐに釣りに没頭した。

 アレクシスはまだおっかなびっくりなところがあるけど、ユディットに手取り足取り教えてもらえて嬉しそうだ。ちょっと羨ましい。


 

 この中で一番調子いいのは、当然のことながらユディットだ。手慣れた様子で次々と…とまではいかなくてもコンスタントに魚を釣り上げる。竿を振るときの彼女は、剣を振るっているときよりも自由で生き生きしているように見えた。自分の釣りの合間に弟の面倒を見る余裕もある。

 ギネヴィア先生は、釣りは初めてだという割になかなか様になっていた。釣果も侮れない。けどのんびりとした動きのせいで、何度か針に掛かった魚を逃していた。

 …もしかしたらワザとかもしれない。


 俺は最初のうちは手こずった。キャスティングの仕方が全然違うんだもん。けど、コツを掴んだらいい感じに釣れ始めた。やっぱり釣れると楽しいもんだよなー。ただ、針に返しがないせいか何度かバラしてしまったのは悔しい。


 で、シエルの奴も川虫にビビってた割に結構釣りやがる。俺といい勝負。なんとなくだが、こいつには負けたくない。シエルも同じことを考えているだろう。



 そうして午前中は釣りを目一杯楽しんだ。ワイワイとはしゃぎながら、ふと、こんな風にこっちの世界で遊んだのは初めてじゃないかと気付いた。


 純粋な、娯楽以外の要素を持たない遊び。


 ずっと、魔王として魔界を率いてきて、創世神と戦ったり世界に干渉したり、勇者たちに関わってみたり。

 その折々で楽しんだりしたことは確かにあったけれども、常にそれ以外の目的があったような気がする。


 けれども今の俺は、魔王ヴェルギリウスでもなく剣帝リュート=サクラーヴァでもなく、勇者の補佐役でも七翼の騎士セッテアーレでもない。


 ただの、学生。

 世界の覇権とか存亡とか、戦争とか統治とか、そんな面倒事とは無縁の、一人のちっぽけな学生。

 こんな風にクラスメイトと喧嘩したり仲直りしたり、釣れた魚の大小で一喜一憂したり。それが、凄く楽しくて、凄く嬉しい。


 

 俺は、心の底から楽しんでいた。

 当初の予定(予想?願望?)とはちょっと違うけど、これこそが俺の望んでいた「普通」の幸せなんだ。今は亡き桜庭柳人が、遠い遠い世界に置いてきてしまった感覚。


 だから俺は、彼らに感謝しなくてはならない。

 

 精霊を奪ってしまったのに許してくれて打ち解けてくれたユディットにも。

 俺に懐かしい気持ちを思い出させてくれたギネヴィア先生にも。

 素直に俺を頼ってくれるアレクシスにも。


 シエルに関しては…………感謝するのは非常に業腹だったりするけど……まぁ、一応は、クラスメイトとして接してくれてるみたいだから、少しくらいは、ありがたいと思うことにする。


 ………俺が感謝してるって知ったらシエルの奴はきっと、気色悪いとか何を企んでるとか言うんだろうなー…。




 

 

 

 

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