↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
魔王崇拝者編
47/492

第四十五話 旅行って家に帰った瞬間が一番好きだったりする。


 

 グリードとの面会、及び契約は、昼過ぎまでかかった。


 ……ううーん。冷静になって考えると、少し早まったような気もしなくもない。が、想定出来る不都合はないし、最悪は力技でどうにでもなるし、まあ……いいよな……


 食材に事欠かない、ということのほうが、重要なんだから……うん。


 

 午後がまるまる空いたので、俺はタレイラ観光と洒落込むことにした。地上界に降りて初めての観光である。日本とは違う、どこかヨーロッパ風の建物を見て回ったり、さまざまな店をひやかしたり。


 科学技術は地球と比べるべくもないが、その分この世界には魔導技術がある。だから、ぱっと見中世くらいの文明レベルかと思いがちだが、案外成熟した社会が築かれていたりして、街を回っているとそれを実感できるような光景も多く、結構楽しめた。



 タレイラは広く、半日では到底回り切れない。だが充分に観光気分を満喫し、日が暮れる頃、俺は宿に戻った。


 ……と言っても、昨日とは違う宿である。グリード枢機卿との面談が終わってすぐ、宿を変えたのだ。

 あの高級宿は、財布的にも優しくなく、やたら豪勢な部屋と調度品は落ち着かなくて、何よりあの三人娘がやかましい。


 そこで俺は、財布に優しく、庶民派な俺が安らげる場末感漂う安宿へ、居を移したのだ。無論、三人娘はいない。




 狭い部屋に戻り、薄いマットレスのベッドにどかっと寝転がる。


 あーーー落ち着く。やっぱこのくらいの部屋がちょうどいいよねー。

 いや、まあ、魔王城も豪勢っちゃ豪勢だけど、余分なものはなかったんだよ。魔王(おれ)の趣味で。


 珍味の誘惑のせいで、これからもしばらくあいつらと行動を共にすることになってしまった。また明日から、やたらと振り回される毎日がやってくるのだろう。


 だから今だけ。今だけは、解放されてのんびりしたい。



 ……俺のそのささやかな望みは、見事に粉砕された。





 宿の一階にある安っぽい酒場兼食堂で、安っぽい夕食を食べた後。

 俺がベッドの上でのんびりごろごろしていると、誰かがドアをノックした。


 「…?はい」

 反射的に返事をしてしまったが、俺はルームサービスなんて頼んでないぞ。と言うか、こんな宿にルームサービスなんてあるはずない。


 「失礼します」

 訪ねてきたのは、ベアトリクスだった。

 「あれ?お前一人?後の二人は…………ってお前、まさか!」


 何か連絡事項でもあって訪ねてきたのかと思ったが、アルセリアとヒルダがいないことに気付き、俺は思い出す。


 昨日と、一昨日の、夜のことを。


 「アルシーとビビは、お留守番ですよ」

 にこやかに言いながらベアトリクスは、勝手にずんずん部屋の中へ入ってくる。


 「おい待て。お(・)前(・)も(・)か(・)、(・)ベ(・)ア(・)ト(・)リ(・)ク(・)ス(・)!(・)って、おい、止まれ!」


 「うふふふ。失礼します」

 「失礼するな!!」


 俺の抗議もどこ吹く風。ベアトリクスは、涼しい顔でベッドの上に腰を下ろした。


 「それにしても……ずいぶんとこじんまりとしたお宿ですねぇ」

 「こら!人の話聞いてんのか!!」

 「リュートさんなら、もっと良質の宿が似合うと思いますのに」

 「おい!とにかく話を聞け!!」


 …ダメだ。こいつも俺の話を聞きやしない。


 だが、今日という今日は、びし!と言わないといけないだろう。

 何せ、多分何も分かっていないだろうアルセリアと、絶対何も分かっていないに決まってるヒルダとは違い、ベアトリクス(こいつ)は多分、いや、絶対に分かっている。分かってやっている。


 「……あのさ、ベアトリクス」

 「あら、なんでしょう?」

 改まって声色を変えたらようやく、話を聞く気になったようだ。

 「お前らがどういうつもりかは知らないけどな。こういうことをするっていうのがどういうことか、お前なら当然分かってるんだろ?」

 「あらリュートさん、真面目なお顔」

 「茶化すな!…………まったく、相手が俺じゃなかったら……いや、相手が誰であろうと、こういうことを軽々しくするもんじゃないだろう。そこんとこ、年長のお前が止めなきゃいけないのに、なに一緒になってやってるんだよ。冗談じゃ済まないことだって、あるんだからな」

 

 「まあ。…私は、冗談なんかじゃないですよ」

 不意にベアトリクスは、真顔になった。


 うう……いっつもにこにこしてるやつが急に真面目になると、なんかそれだけで気圧されてしまう…。


 一瞬怯みそうになる俺。だが、ここは負けてはいけな……


 って、近い!近い近い!!

 なんでにじり寄ってくんの!?


 「おい、待てコラ!待てってば。ちょ、待って、頼むから壁に追い詰めるな!!」

 

 何この体勢!?なんで色男に迫られる美少女、みたいな格好になってるの!?


 ベアトリクスは、俺を押し倒さんばかりに近付いてくると、

 「ねぇリュートさん。私たちがどういうつもりかは知らないって、言いましたよね。私も、アルシーとヒルダがどう考えているのかは、知りません。ただ……」


 さらに顔を近づける。吐息がかかりそうなくらいに。


 「私は…………好きなんです」


 ……………………………………………は!?

 ななななななななな、何を言って………


 「リュートさんが……困ってる顔を見るのが、好きなんです」


 …ですよねーーーーー!


 ああ吃驚した。だけど安心した。こいつは俺をからかって楽しんでいるだけだ。翻弄される俺を弄んで楽しんでいるだけだ。ああ良かった。

 

 

 …………………………………深く考えるな。深く考えたら負けだ、俺。


 「あのなぁ……悪ふざけも頼むからいい加減にしてくれよ」

 「うふふふ。ごめんなさい」


 悪戯を見つかった子供のように無邪気な笑みで謝るベアトリクス。そして彼女はそのまま、


 「それでは、おやすみなさい」


 ベッドに潜り込んだ。


 ……って。


 ちょい待てい!今の流れだと、そのまま帰るとこじゃないのか!?


 「おーい、気は済んだだろ?このまま寝るんじゃない!!」

 「え?なんでですか?一昨日はアルシーで、昨日はヒルダ。私だけ追い出すなんて、不公平じゃないですか」

 「えええええええ!?」

 何その理屈!


 アカン。こいつら、俺が何も出来ないヘタレだと思ってやがる。

 言っておくけどな、って言わないけどさ、確かに桜庭柳人はチェリーボーイだったよ。だけど、ヴェルギリウスは違うからな!

 魔王の寵愛を受けようと、魔界中から美女が俺の元に集まってきていたし、俺の歓心を得ようと自分の妻やら娘やらを差し出す有力者たちだって、わんさかいたんだからな。


 ……妻やら娘やら、って……非道いな!


 と、いうわけで。

 桜庭柳人が、小便臭い新兵だとしたら、ヴェルギリウスは言わば歴戦の猛者。

 俺が、こいつらを、ペロッと美味しくいただいちゃわないのは、ひとえに俺が紳士な魔王だからなんだ!



 それだけは、きっちり理解しておいてもらおう!


 「おい、ベアトリクス。言っておくけどな」

 「………………」

 「…おい。聞いてるか?」

 「……………………」

 「おーい、ベアトリクスさーん。聞いてますかー?」

 「………………………………すよすよ」

 「……寝てるんかい!?」


 なんてこった。こいつら、そろいもそろって寝つき良すぎだろう。世の不眠症の人たちが羨むことこの上なしだ。


 やばいぞ、俺。宿が違う以上、抱きかかえてこいつの宿に戻すわけにもいかない。無理矢理叩き起こした場合、こいつのことだ、もっと厄介な嫌がらせをしてくるに決まってる。

 今日はもう満室で、他の部屋を取ることも出来ない。


 仕方ない…床で寝るか……?

 だが、なんだか危険な予感がする。こいつ、絶対に俺にちょっかいかけそう。



 ……もう、魔王城に帰って、そこで寝るか……?


 一瞬、そんな考えが頭をよぎって。


 ………………………………………………………………。


 しばしの思案。

 

 そして俺は、








 「…ギーヴレイよ」

 「は。なんでございましょう」

 「……お前といると、安らぐな」

 「な、なんと勿体ないお言葉(感涙)!!」



 

 結局、魔王城へ避難して、一夜を過ごしたのだった。



予想以上にベアトリクスが積極的で、焦りました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。