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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
番外編その2
454/492

学校へ行こう。 第十話 魔王陛下はめげたりしない。




 中央教導学院に入学して、早くも一週間が経過した。

 そして俺は、早くも挫折を覚えかけている。


 この、俺が。

 創世神と同一にして同格にして対極にある、魔王のこの俺が。

 二千年前の天地大戦でも十五年前の聖戦でもそれ以外でも、その二文字の単語だけは全くの無縁だったはずの俺が。


 原因は……語るまでもないだろう。



 「あれ、ソラシド兄妹は?」


 その日最後の授業が終わり、俺が気付いたときにはやる気皆無の双子は既に教室から姿を消していた。

 あれ、おかしいな…教室の出入り口はしっかり見張っておいたつもりなのに…


 「彼らなら、お昼の後戻って来てないよ?」

 「…………は!?」


 お昼の後って……三限と四限、まるまるサボり!?


 「ちょ……気付いてたならどうして止めなかったんだよマルコ!」

 「いや、気付いたら戻ってきてなかったんだって」


 思わずマルコに八つ当たりしてしまったが、そうだよな、出ていったところを目撃したならまだしも、食堂から教室に戻ってくる際に姿を消したのであれば気付かないのも当然か。


 「まぁ、二限終わった後になんでか食堂に向かわずに外に出ていったのはなんでかなー?とは思ったけどね」

 「気付いとったんかーい!!」


 いや、別に昼食を食堂で摂らなければならない校則とかはないけど!だけど学院の徒歩圏内に食事処なんて少ないし!何よりあの初日からサボります宣言してくれた双子が外に出てくって時点で、もうそれ100%サボり確定じゃないか!!



 「なぁ、他の班はもう自主訓練始めてるんだぞ?俺らもあんまりのんびりしてたらヤバいだろ」

 「えー、そうかなぁ?君がいれば問題ないだろ、ユウト」

 「…………………」


 他人をアテにするところは、マルコも双子も()()()()だ。そしてそれを公言して憚らない図太さも、()()()()だ。

 唯一人、姿勢だけは積極的…と言うか、真面目なのがウルリカだったりするのだが……


 「あ、あの、あの、あの、あの、練武場の訓練室、その、予約…取っておいたんですけど、あの、その、あの、あの……」

 「気が利くじゃないか、ウルリカ。ありがとな」

 「あああああああの、ひゃいっ!!」


 礼を言った途端に、俺の背後に隠れた。


 ……え、こないだも思ったけど、その行動、何の意味があるの?

 俺と話してて恥ずかしがって、んで隠れる先が俺の背後ってどういうこと?視界にさえ入らなければそれでいいわけ?



 「あはは、君らはすっかり仲良しだなぁ、羨ましいよユウト」


 マルコ、そう言いつつも視線の角度がやっぱり……



 「ま、班員二人もいないんじゃチーム戦の訓練ってわけにもいかないよね。僕、ちょっと約束があるから抜けさせてもらうよ。あとはお二人で仲良くどーぞ」

 「え、あ、ちょ……おいマルコ!」


 呼び止める俺に背中越しに手を振って、マルコは躍るような足取りで教室を出ていった。最近奴が、商業科(ほら剣武科と魔導科だけじゃないじゃないかグリードの奴…)の女生徒の幾人かに目を付けているらしいとの噂が飛び交っているので、約束ってのもどうせデートか何かだろう。


 なお、目を付けているのは()()()であって、特定の一人ではない。しかも入学後一週間しか経っていないのにそういう噂が立つってどんだけだよマルコ。


 

 ……あーあ、行っちゃった。もうほんと、どうしよっかな。


 「どうする、ウルリカ?二人だけじゃ、どうにもなんないし……訓練中止にするか?」


 尋ねてみたのだが、俺の背中に隠れたままのウルリカからはなかなか返事が返ってこない。

 なんかモジモジもぞもぞしてるから、聞いてないわけじゃなさそうだけど……


 「……ウルリカ?」

 「ひゃ、ひゃい!!」

 「だから、俺たちはどうする?ソラシド兄妹もマルコもいないし、二人じゃチーム戦の訓練にならないだろ、せっかく予約取ってくれて悪いけど……」


 俺はソラシドやマルコほど不真面目な生徒ではないが、不真面目な班員を尻目に訓練に励むほど真面目な生徒でもない。

 個人訓練なんてする必要もないし、チーム訓練が出来ないならいちいち時間を無駄にすることはないだろう。


 「あ、あの!」


 しかし、ウルリカからは予想外に強い調子が返って来た。

 …と思いきや、すぐにトーンダウン。


 「あの……あの、あの、その……わ、私は………その、あの………」



 ……あーーーーもう。なんか疲れるぞ、こいつ。

 こう、こっちのペース無視で喋り続けるタイプは苦手だって自覚はあったけど(得意な奴なんていないと思う)、どうやら俺はこっちのペース無視で話を進めてくれないタイプも苦手のようだ。


 ふぅ。俺が促してやらないといけないわけ?これじゃ貴重な放課後がなくなってしまう。



 「……あのな、ウルリカ」

 「えぇええぇえ、あ、ひゃい!?」


 俺は振り向いて、再び俺の背後に回り込もうとするウルリカの肩に両手を置いて動きを封じる。少し屈んで、視線を揃えるのも忘れない。


 「俺たちはクラスメイトで、チームメイトだ。そんなに怯えたり畏まる必要なんて、ないんだぞ?」


 彼女の目をまっすぐ覗き込んで、極力口調がきつくならないように語りかける。なんでこんな気を使わなくちゃならないんだろう。



 「で、でも……あの、その、あの」

 「俺が怖いのか?」

 「そそそそそ、そんなこと、は、ありません……!」

 「それじゃ、他の班員が?」

 「いいいいいえ、大丈夫……です、みなさん、優しくしてくださいます…から……」


 一生懸命こちらに伝えようとしている姿勢からすると、嘘ではなさそうだ。

 

 「だったら、ちゃんと俺の目を見ること」


 さっきから、必死に目を逸らそうと瞳が揺れまくっていた。って野生動物じゃないんだから、目が合ったからっていきなり喧嘩になったりしないっての。


 顔をさらに近付けて、彼女の視線を捉える。長い前髪の隙間から覗くセラフィナイトグリーンの瞳が逃げ場を失って、諦めたように俺に固定された。


 …そう言えば、彼女はスツーヴァの出身だっけ。落ち着いた深い緑が、極北の冬で雪に耐える常緑樹の葉を思わせる。



 「あのな、俺たちはこれからチームメイトとして、一緒に訓練したり授業受けたり試験受けたりしなくちゃいけないわけだ。勝手に決められた班だから心を開けとまでは言わないけど、少しくらいは歩み寄ってくれると俺は嬉しい」

 「あ……私………」

 「俺は、ウルリカともっと話したいし、ウルリカのことをもっと知りたい。……駄目かな?」

 「だだだだだだ、ダメなんかじゃないで、す!!」


 ブンブンブンと力いっぱい首を横スイングさせ、ウルリカは断言してくれた。耳まで真っ赤になっている。ほんとに人見知りなんだから、もう。


 「良かった、それを聞いて安心したよ」

 「その、ユウト様……」

 「だからなんで様付け?クラスメイトなんだから、呼び捨てでいいよ」

 「あ、あのその、でも他の女子もほとんど……」


 …………。

 そうなんだよなー。出自(って言うかほとんど「設定」)のせいか俺、周囲からよく言えば一目置かれ悪く言えば距離を置かれてるような気がする。

 向けられる視線は好意的なんだけど、どうも遠巻きにヒソヒソされるばっかりで(特に女子にその傾向が高い)積極的に話しかけて来てくれるのは班員とシエルくらい。勿論、シエルの態度が好意的なはずはない。


 「先生も言ってただろ、学院にいる間は家とか関係なくみんな平等な生徒なんだって。俺だって、みんなと友達になりたいんだけど?」

 「え、あ、その、あの、あの…………………はい、分かりました、ユウト…」

 「出来れば敬語もなんとかしてもらいたいんだけど…」

 「そ、それは…………………」

 「…ダメ、かな……?」


 多分、敬語はウルリカの癖のようなものなんだろう。敬ってるとか畏まってるとか遠慮してるとか関係なしに。

 けど、ちょっぴり意地悪な気持ちでそうねだってみたら。


 「わ……………分かり、ました………が、頑張ってみます……!」


 決死の表情で(ってそこまでかい)、頷いてくれた。

 うん、この調子なら、もう少しで打ち解けてくれるだろう。


 ……だったら、この後は二人の親睦会とかにしよっかな?


 「それじゃウルリカ。これからどうするか、なんだけど」

 「あ、あの、訓練……しませ……訓練、しない?」


 おお、早速敬語廃止に挑戦してくれてる!ちょっとまだぎこちないけど、それはそれで悪くない。


 「訓練?二人しかいないけど……いいのか?」

 「あの、その、せっかく訓練室の予約も取れたし、チーム訓練が無理なら、個人訓練でも……」


 訓練室は、数だけなら学院内の全班(魔導科も併せて)にいきわたるだけあるのだけど、個人単位で使用する生徒も少なくないので早めに予約を取らないと埋まってしまうのだ。

 俺たちは、やる気ゼロの班員を抱えているせいもあって出だしが遅く、実は今まで訓練室の予約に失敗していた。

 則ち、俺はまだ班員と一度も訓練をしていない。

 

 「個人訓練…?」

 「あ、その!忙しいならいいんで…いいの。ただその、わ、私は訓練していこう、と思う…から、一緒にどうで…どう、かなって……」

 「オーケー行こうか」

 「え、あ、はい…?」


 ウルリカは、急に乗り気になって自分の肩に手を回してきた俺に戸惑う。

 いやいや、下心じゃないよ。ただ、彼女の熱心さに感心しただけさ。やる気ゼロかつ他力本願MAXの他の班員らに、彼女の爪の垢を煎じて飲ませたいもんだね。



 教室を出ていく際にシエルの視線が背中に突き刺さるのを感じたが、いくら奴でも班員との訓練中にそれを監視することは出来まい。何せ、班別対抗戦の作戦を練ったりもする場所なんだから。


 へっへーん、ざまぁ見ろだ。お前はせいぜい自分の班員とよろしくやってることだな。





 

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