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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
番外編その2
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学校へ行こう。 第五話 魔王陛下、友達百人出来るかな?





 俺とシエルが地味に言い争っていると、一人の女性が教室に入ってきた。

 三十代前半…いや、二十代後半か?凛々しい面立ちに、女性にしては短い髪。パリッとした雰囲気は、いかにも剣武科の教師らしい。


 ふむふむ、あれが俺たちの担任か。お約束どおりの美人教師だ。でもってどうせお約束どおり、強気で厳しかったりするんだろうな。



 「静粛に!」


 …ほら。やっぱS系美女だ。

 俺とシエルだけでなく既に友達を作ってワイワイやっていた新入生たち(いや、シエルは友達じゃないよ?向こうはもっと拒絶するだろうけど)は、その凛とした声にピタリと口を閉じた。

 いつまでもくっちゃべってないあたり、流石はエリート候補生たちだな。


 美人教師は教室を一瞥すると、軍の上官か何かみたいな険しい表情で、自己紹介を始める。


 「初めまして、私はヴァネッサ=セルヴィッジ。これから三年間、貴方たち剣武科第四十六期生一組の担任として教鞭を取ることになりるじゃっ……」


 ……噛んだ。


 「な…っ、なり、ました!貴方たちは今日から、この栄えある中央教導学院の生徒です。そのことを常に忘れず、誇りを胸に抱き研鑽を積み重ねなさい」


 ……そのまま続けるのかよ。かなりの剛の者だな。

 ちょびっと耳が赤くなってるのが可愛いっちゃ可愛いけど。



 しっかし……いかにもスパルタ!って感じの教師が思いっきり噛んだのに、生徒たちの誰もそれを言及しなければクスリと笑いもしない。大真面目に聞いている。

 これは、無理してるのか?それとも、全く気にならない?


 ……うーん、侮りがたし、エリート候補生たち。



 「さて、皆さん。今年度の剣武科一年生は、特に大きな期待を受けています。入学選抜試験において、文句なしの満点を取った生徒が、二人もいるのですから」


 ヴァネッサ教諭…教官って呼んだ方がいいのかな?…の言葉に、今度は生徒たちがざわついた。咎めないあたり、教諭もそれを予期していたか。



 ……って、だから変に注目浴びたくないんだけど。


 ヴァネッサ教諭の視線は、明らかに俺に向いている。いや、俺だけじゃないな…隣のシエルにも、だ。

 ということは、満点を取った二人のうち一人ってのはこいつか。


 そりゃ、地上界最後の護り手だもんな、転生前の能力も引き継いでるもんな、当然か。



 「ユウト=サクラーヴァ」

 「え、あ……はい」


 いきなり名前を呼ばれた。ユウトって呼ばれ慣れてないせいか、反応するのに少し時間がかかってしまった。


 「まさか、剣帝閣下のご子息が教え子になるとは思いませんでした。しかし、この学院にいる限り、家柄や階級で評価が影響されることはありません。お父君の名に恥じぬよう、研鑽を積み重ねてください」

 「……努力します」


 えー、家柄とか関係ないって自分で言っといて、剣帝の息子っていちいち強調することないじゃん。しかも模範になれとか。


 ヴァネッサ先生の余計な一言で、周囲の注目がまたこっちに。

 いや、入試のときにもこの面子とは顔を合わせてるはずだから俺のことは知られてるだろうけど、なんつーか、わざわざ生徒たちの意識をこっちに向けさせるってのはどうかと思う。


 「それから、シエル=ラングレー。貴方もユウト=サクラーヴァと同じ満点での主席入学です。彼と二人でこの学年の牽引役を担うことを、期待していますよ」

 「……善処します」


 シエルも勝手な期待を寄せられて、当惑した表情で返事をした。

 こいつからしたら、俺が妙なことしないように(妙なことってなんだ?)見張ってなきゃいけないのに、学年の牽引役とか面倒なだけだろうな。


 

 ……ん、いつのまにか注目の中心が、俺からシエルに移ってる。

 

 俺を見るクラスメイトの目は、ほとんどが称賛とか憧憬とか尊敬とか、そんな好意的なものだった。

 が、シエルに向けられる視線には様々な種類が入り混じっている。

 中には、主席入学という事実に対する感心や称賛もなくはないが、多くは嫉妬めいた反感や、疑念。



 「…あいつが、主席?」

 「ラングレーって、どこの家だよ」

 「彼が、ユウト様と同じ主席?」

 「大したことないように見えるけど」


 

 …口々に生徒たちの口から零れる言葉は、明らかにシエルを侮り見くびっている。

 そして、間違いなく彼を見誤っている。


 別にシエルの弁護をするつもりはないが、少なくともここにいる連中…それは教師陣も含め…でこいつに敵う奴はいない。学院には普尋人種コモナーだけじゃなくて森精人種エルフ獣人種ビースターもいるそうだが、同じこと。


 何も知らない若者の嫉妬てのは怖いね。

 俺の場合はグリードの野郎の情報操作のおかげでやたらと剣帝の名声が広まりまくってるもんだから、最初からやけに高評価を受けている。

 が、そういう背景を持たないシエルの場合は、下らない意地や自尊心の矛先になってしまうわけか。



 ちら、とシエルの方を見たら、全く平然としている。

 クラスメイトたちの声が聞こえていないはずはないだろうに、無視するでもなく反応するでもなく、自然と受け流してやがる。


 ……ううむ、こいつタフだな。俺だったら繊細な硝子心グラスハートが傷付いちゃうかも。



 「皆さん!」


 イヤーな感じになった教室の空気を、ヴァネッサ教諭の声が引き戻した。


 「期待されているのは彼ら二人だけではありません。貴方たちは全員、この地上界の未来を担う希望の星なのです。この学院で学び、研鑽し、級友たちと切磋琢磨し、己を高めてください。貴方たちには、この学院の誉れに相応しき振舞いと実力が求めらるりっ」


 ……また噛んだ。


 「も、求められています。当然、授業も優しいものではありません。心して学ぶように!!」


 やっぱり何事もなかったかのように締めやがった。流石だな、先生。



 「今日は、班分けと、課題の提示を行います。決められた班は、余程のことがない限り卒業まで変わることがありません。個人別のカリキュラム以外は、班ごとの成績が評価基準となります」


 

 ……え、班分け?そんな、初日から?

 だって、まだクラスメイトの顔も名前も知らないんだよ?こういのって、もう少しお互いを知ってからじゃないと、誰と組むかなんて決められないじゃんか。

 しかも卒業までずっと一緒て……もし間違って気の合わない奴と組んじゃったりしたら、その間の気まずさはどうしてくれんのさ。


 …と、俺は憤慨してみたりしたのだが。



 「班は、貴方たちが学院で学ぶにあたっての基本形態だと考えてください。実習・演習は班単位で行われます。四半期に一度行われる班別対抗戦での成績は記録され、貴方たちの将来を決める際の重要な要素としても扱われます。実技以外にも、課題のほとんどは班ごとに与えられますからね」


 ………そこまで重視するのか、班。

 まぁ、将来的にどこかの組織に属する可能性が高い以上は集団でのチームワークを学ぶのは大事…なんだろうけど。国家騎士にしろ、宮廷魔導士にしろ、内勤の役人にしろ。


 「ですので、公正を保つために、各班員は学院側で決定してあります」



 …………えぇ!?決められてるの、もう?こっちの意見、全く聞くつもりなし?

 そんな、ジャ〇ーズじゃないんだから、ユー彼と組んじゃいなよ、みたいなノリで仲良くない相手と組まされちゃったりするの?



 そう思ったのは俺だけではないようで、周りも戸惑ったようにザワザワしている。

 


 「静粛に!班での成績が個人の評価に繋がる、と言ったでしょう?実力のある生徒ばかりが同じ班に集まってしまうと、そうではない生徒たちの成長の場が失われてしまいます。貴方たちの目的は、評価されることではなく学び、成長すること!その本質をごきゃっ…誤解しないように!」


 

 なるほど班の間で実力に差が出てしまうと、弱い班の連中は早々に諦めてしまうからか。

 そういや高校の体育の先生も言ってたっけな。50メートルを六秒台で走れる生徒がずっとタイム変わらないままなのと、八秒台の生徒が七秒台で走れるようになるのとでは、後者の方にいい成績を付けるぞって。

 到達点がどうとかじゃなくて、成長の度合いを見るのが学校だ…とかなんとか。


 そう考えると、各班員の実力合計が平均になるように班分けをした方が分かりやすいし、全員にチャンスが与えられるってわけか。



 「入学選抜試験の結果を元に、班を選ばべっ…選別しました。今から発表しますので、班ごとに集まるように」


 

 …………ん?

 各班の実力が同じくらいになるように…ってことは………


 もしかして、俺が組まされるのって、あんまり成績良くない方の生徒なんじゃ……



 いや、そりゃあ、それが本当なら俺とシエルが同じ班になることはありえないわけで、その点については気楽でいいんだけども。


 ………班の成績が大きいんだよね?

 ちょっと……大丈夫かしらん。


 自分一人で頑張れば済むことであれば、なんにも問題ない。

 が、正直言って……他人に足を引っ張られるのは御免被りたいんだけど。



 これは確かに……心してかかった方がよさそうだ。




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