番外編 世話焼き魔王の妹、ちょっと世界を救ってきます。その9
リシャール湖水地方には、大小併せて十二もの湖が点在している。中でも最も有名なのが、アクアミラ湖と呼ばれる、小さな湖だ。
石灰質の地盤が長い年月を経て陥没した後に湧き水が溜まって形成されたその湖は、面積に比べてとても深い。また、湖の周囲には広大な鍾乳洞が地下に広がっている。
その鍾乳洞の奥に、地表から届く日光と地中の含有物の反応で淡い翠に染まる場所があり、そこはその幽玄的な美しさから翡翠の洞窟と呼ばれ、天界の中でも屈指の人気観光地となっていた。
……というような内容を悠香に説明してくれたのは、急遽同行することになったミシェイラである。彼女はここに来るのが初めてではないようで、翡翠の洞窟の他にも色々な見どころをガイドしてくれた。
それらを聞きながら、悠香は目の前の少女天使と自分の兄との関係について、見落としがないように注視していた。
どうも、認めたくないことではあるが、自称神さまの憤りには根拠がありそうだ。今のところ、自分の目に映る(夢の中の)兄は、控えめに言っても、女タラシに見えなくもない。
であれば、一度ガツンと言ってやらないといけないと思うのだが、しかしミシェイラと会話する兄には、先日の王女さまだとか部下の人たちだとかのときとは違って、後ろめたさのようなものがない。
なので悠香は、様子を見ることにしたのだ。
「特に、この石筍は洞窟の中でも巨大なもので、十万年以上前から成長を続けていると言われてるんですよ」
「へぇ、詳しいんだねミシェイラ」
兄は、まるで専門のガイドの如く淀みなく解説をしてくれるミシェイラに感心している。悠香も確かに感心はしたのだが、
「いえ、実を言うとこの場所はすごく気に入っていて、よく来るんです」
……だったらなんで自分と兄についてきたのか、とも思う。
よく来るのであれば、目新しいことなどないだろう。一緒に来た家族と別行動してまで、兄にくっついてくる理由なんて……
理由、なんて。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?なんだ悠香」
「ミシェイラさんとは、どういう関係なの?」
もう、オブラートに包む気はなかった。どうも兄はこの手のことで悠香を煙に巻こうとしているフシがある。だったらストレートに聞いてやれ、これでまた怪しい反応を見せるようならとっちめてやる、と神さまのお願いとは関係ない次元でそう思った悠香だったが。
「……え?どうって……」
おや、これはどういうことだろう。兄の様子には、今までのような後ろめたさは見られない。ただ純粋に、戸惑っているだけだ。
寧ろ、ミシェイラの方が
「え、ああああああの、そんな悠香さんいきなりそんなこと聞かれましても私はそのあのええと別にそういうわけでは」
何が「そういうわけ」なのか分からないが、ひたすら狼狽えている。お約束のように、顔を真っ赤にして。
「……ミシェイラ?」
それでもって、キョトンとした兄の表情が実に腹立たしい。この男は、王女さまやら自分の部下やら(それとエルネストとかいう部下の人が何人かの名前を挙げていた。あと幼女とか)に簡単に手を出すくせに、まさかミシェイラの気持ちに気付いていないとでも言うのか。
それはそれで、なんか許すまじな感じである。
悠香は、照れに照れまくっているミシェイラを見る。
恋バナ上等!の女子中学生には分かる。彼女は兄に惚れているのだ。だが、王女さまのように強くアピールをする感じはない。自己主張は控えめで、どちらかと言うと兄に知られることを躊躇っている…みたいな。
可愛いし優しそうだし、どうせなら兄もこういう女性を選んでくれればいいのに、と悠香は思った。
それなのに兄ときたら。
「ミシェイラ、どうかしたのか?」
なんで気付かないんだよ寧ろ狙って鈍感を装ってるんじゃないだろうな。
普段は兄に対しこんなことを思わない悠香ではあるが、あからさまに自分に向けられた好意にここまで無頓着かつ無自覚な兄を見ていると、そう悪態をつきたくもなってくる。
「い、いえ、なんでもありませんわリュートさま……きゃあ!」
兄にいきなり顔を覗き込まれて、慌てたミシェイラがバランスを崩した。自然の鍾乳洞なので足場が悪いのだ。
だが、兄は驚く様子もなく自然な動作でミシェイラの肩を支えて受け止めた。おかげで、ミシェイラは転ばずに済んだ。
「あ……ありがとう…ございます……」
「いえいえ、どういたしまして」
そしてミシェイラの礼にさらりと答える様子も、実にこなれた感じがする。
悠香の知る、生前の桜庭柳人であれば、ここまでスマートな振舞いは絶対に不可能だ。別にそこまで奥手だという印象はなかったが、今の兄は明らかに手慣れている……女性の扱いに。
イケメンで、スマートで、優しくて、さりげない。
……そう、これではまるで、スケコマシではないか。
いや、自称神さまも言っていたことだし、やはりそうなのかもしれない。王女さまも、部下の女の人も、アルなんとかいう人も(他にも何人かいるはず)、この調子でその気にさせたに違いない。
そして次はこのミシェイラが標的ということか。
「……お兄ちゃん、変わったね」
であれば、自分はそれを止めねばならない。
確かに、ミシェイラのような人が兄の恋人になってくれるのであれば妹としても嬉しいが、今の兄(神さま曰く、女癖最悪の)に騙されたり翻弄されて不幸になるのを座視するわけにはいかない。
「へ?なんだよ悠香、いきなり。……変わったって、俺が?」
何のことを言われているのかまるで心当たりなさそうな様子も、侮りがたし。だが、自分は神さまに依頼されてここにいるのだ。自分の使命は、果たさねばならないのだ。
魔王の女癖の悪さは、懲らしめなければならない。
「うん、変わったよ。だって前は、そんなに女の人と仲良くなかったじゃん」
「へ、え?な、仲良くって……ええ?」
「うちに来るお友達さんもさ、男子ばっかりだったし。お兄ちゃんの口から女の人の名前出て来たことなかったし。けど、今のお兄ちゃんは随分と色んな女の人と仲良さそうじゃない?」
できるだけ、さりげない風を装って言ったのだが、兄には何か突き刺さるものがあったようだ。そして、それを聞いていたミシェイラの表情にも、何やら鋭いものが。
「あら、リュートさま。そんなに女性のお知り合いが多いのですか?」
「ん?いや、別に、多いってほどじゃ…………ない、かな…?」
表情はにこやかなまま、幾分冷ややかさを孕んだ声でミシェイラが兄に問う。兄の目が、若干泳ぎ始めた。
悠香は、そこに追い打ちをかける。
「お知り合いっていうんじゃないよね。深い関係っぽいよね。私が知ってる限り、名前しか聞いてない人も併せると七人はいるよね、そういう人」
「は?え?な…七人?……ってそうだっけか……いやでも悠香が知る限りって…………えええー……」
戸惑う兄は、心当たりがあるんだかないんだか。しかし、頭の中で必死に人数を数えていることは間違いないだろう。
「まぁ……リュートさまは、お顔が広いのですね」
ミシェイラの笑顔が、さらに深く冷たくなった。言葉も口調も柔らかく、責める調子は皆無なはずなのに、言いようのない迫力が感じられた。
「え……と、ミシェイラ……なんか、怒ってる…?」
「いやですわリュートさま。リュートさまがどこのどなたと深い関係でいらっしゃっても、それはリュートさまの自由じゃありませんか。私が怒る謂れなどありません」
たじろぐ兄に、ミシェイラはきっぱりと断言する。が、内心は言葉どおりではないのだと彼女の目が語っていた。
「ところでリュートさま。深い関係、とはどのような関係なのですか?」
その目のまま、ミシェイラが兄を追い詰める。兄は多分、ミシェイラの怒りの理由が分かっていない。しかし追い詰められていることだけは分かっているようで、横目で悠香に救いを求めてくるのだが、悠香はそれを無視した。
兄に対しそこまで残酷な振舞いをすることに良心の呵責を感じなくもなかったが……否、あんまり感じない。
「さぁ、どういう関係なんでしょうね。ねぇお兄ちゃん、具体的には?」
「ちょ……え、ええ?なんか、なんで二人ともそんな怒って………」
「怒っていませんわ」
「怒ってないよ」
タジタジになって後ずさる兄にミシェイラと二人して詰め寄りながら、それにしても懲らしめるってこういう感じでいいのかしらん?と疑問に思う悠香であった。
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……一体、何だったのだろう。
悠香とミシェイラと共に翡翠の洞窟に行った俺を待っていたのは、二人による弾劾裁判の如き詰問だった。
最初は、和やかだったんだよ。ミシェイラは翡翠の洞窟を何度も訪れているらしく、ガイド顔負けの解説で俺と悠香を楽しませてくれた。
おかげで、この洞窟の成り立ちだとかちょっとした四方山話とか、自分たちだけだったらここまで楽しめなかったと思う。
それなのに。
少し前から、悠香の様子がおかしいことには気付いていた。しかしその理由が何なのかは分からないうちに、地上界にも魔界にも居づらくなって天界に逃げて来たわけなのだが、最初は天界で機嫌を直してくれたように見えた悠香が、再び何かを思い出したかのように俺につっかかり始めた。
「ねぇ、お兄ちゃんてば。あの人たちとのこと、どう思ってるの?」
「それは、是非私も聞かせていただきたいです」
しかも、何故かミシェイラまで悠香に加勢するし。
なんだよなんだよ、俺の交友関係が、彼女らと何の関係があるってんだよ。誰が誰とどう仲良くしていようが、そんなの俺の勝手じゃないか。
それに、別に俺の知り合いって女性ばっかりじゃなかったりする。なのになんで女関係ばっかり責められるわけ?
「え、ちょ、二人ともどうしたんだよ、そんなのどうでもいいじゃないか」
「よくない!」
「よくありません!」
……本気で怒られた。
「えー……とりあえず、宿で話さない?」
俺は、やんわりと提案。薄暗い洞窟内でこんな話するもんじゃない。殺人事件でも起こりそうな予感がするんだもん(勿論被害者は俺)。
二人は警戒を解かないまでも、渋々それを受け容れてくれた。
……で、今は宿の部屋の中である。
なんとなく、特に理由はないのだが、ここにウルヴァルドとエウリスがいなくて良かった…気がする。
リビングスペースのソファに座り、向かいにミシェイラ、隣に悠香。もう片方は壁なので、俺に逃げ場はない。
……って、別に逃げる必要なんてないけどさ、ないんだけどさ!
「……それで、お兄ちゃん。改めて聞くけど、ミシェイラさんとは何でもないのね?」
「何でもって何だよ。ミシェイラとは、以前に天界でゴタゴタしてたときに世話になっただけだって」
頼むから悠香、お兄ちゃん魔王なのに?とか言わないでくれよ……
あまり悠香に話をさせていると、ポロっと俺の正体をばらしてしまう可能性もある。俺はとにかく、ミシェイラに同意を求めてこちらが話の主導権を握ろうとした。
「な、ミシェイラ。そうだよな?」
「え、ええ…そう………ですね」
ほら、ミシェイラだって頷いてくれた。…にしては表情がなんか冴えないけど、どうしたんだろう?
「ふーん……それはそれでいいんだけど、じゃあ他の人たちは?」
「他のって何だよ、俺は別に…」
「だから、アスターシャさんとかまか」
「あーそういえば!!」
マズッた。悠香の口から「魔界」の単語が出てきそうになって慌てて遮る。ついうっかり魔王とか魔界とか口外厳禁を言い渡すのを忘れちゃってるもんだから、俺はやたらと怪しげな話題転換を図ってばっかりである。
「そろそろ夕飯の時間だよな!食堂の人たちを待たせてもいけないし、とりあえず飯に行こう、な?」
「……………お兄ちゃん、なんか誤魔化そうとしてない?」
「ギク。イイイイイエソンナコトナイデスヨ気ノセイデスヨ?」
「ほら、またロボになってる」
あれ、結構この誤魔化しモードいいんじゃないか?呆れつつも、悠香の態度に「もう、仕方ないな」的な諦めが見え始めたぞ。
よっしゃ、これから先も困ったときの最終手段としよう。
「えっとミシェイラ、夕飯どうする?俺たちは宿の食堂で食べることになってるんだけど…」
「ご一緒したいんですけど、今夜はエイヴリング夫妻に招待を受けてまして…」
「そ、そうか。それなら仕方ないな」
ご一緒したいんですけど、のあたりでミシェイラの視線がやけに鋭かったような気もするが、いや気のせいだろう。彼女はあの勇者一行とは違って、訳分からんことで腹を立てたり他人に当たったりするようなタイプじゃない。
彼女には悪いが好都合なことに悠香と二人になれそうなので、ちょっと一安心。いい加減、この世界での諸注意事項(主に俺のための)を伝えておかないと。
何かに納得していなさそうなミシェイラ(それが何なのかは分からない)をエイヴリング夫妻の山査子邸まで送っていった後(道中の俺の道化っぷりはあいつらには決して見せられない)、俺は悠香と再び宿へ。
宿への道すがら、俺は悠香に大事なこと…の割にすっかり忘れていた…を伝える。
「内緒なの?魔王とかそういうのって隠すようなことなの?」
悠香には俺の置かれた非常に複雑な立場が分からないだろう。というか、この世界における魔王や魔族に対する他の種族の感情なんて、彼女が知る由もない。
「んー、まぁ、一応魔王ってあんまり印象良くないしさ。余計なトラブルを避けるためにも、天界や地上界では内緒にしておいてほしい」
しかしまぁ、俺の妹はどこぞのポンコツ某一行とは違って物分かりがいい。気配りも出来るので、すぐに俺の心情を察してくれた。
「分かった。他に注意することはない?」
「んー、あとは、できるだけ俺の傍を離れないようにってことかな。こっちの世界って、向こうより色々物騒なところが多いからさ」
地球だって場所や状況によっては十分に物騒だったりするのだが、少なくとも日本で生活するにあたって郊外で魔獣が出たとか野盗が出たとかはあまりない(日本だと熊や猪が出たとか強盗に遭ったとか?)。
俺と一緒にいれば問題はないが、悠香は武芸の心得もなければ魔力も持たない、廉族の中でも特に非力な部類に入ってしまう。
この世界で悠香にもしものことがあった場合、それこそ俺は絶望して何もかも滅ぼし尽くしてしまうことだろう。想像するだけで背筋が寒くなる。
「他は…すぐにはちょっと思いつかないかな。また状況に応じて伝えるから、一人で早合点したり突っ走ったり勝手なこと言ったりやったりしないこと。いいな?」
「やだなぁ、お兄ちゃん。悠香も子供じゃないんだから、ちゃんと大人しくできるよ」
「あー…ああ、そうだよな。子供じゃないもんな」
ついうっかり、悠香を例の一行と同列視してしまった。が、多分悠香が普通なのだ。それより年上のくせして落ち着きの無いあいつらの方が、異常なのだ。
「それで、注意事項は分かったんだけど……さっきの話」
「へ?さ、さっきの……って?」
悠香は、まだ忘れていなかった。やっぱり女性って記憶力がいいよな、うん。てそういう問題じゃないか。
「だから、アスターシャさんとか、王女さまとか、他にもなんか色々…とは、どういう関係なの?付き合ってるの?恋人なの?二股なの?」
「ちょちょちょ悠香サン落ち着いて」
悠香がグイグイくる。
「落ち着いてるよだからちゃんと話をして」
「分かった、分かったって。………ええっと………」
さてどうする俺。これ、多分だけど相当の窮地だぞ。天地大戦でもここまでヤバかったことなんて、そうはなかったはず。
なんとか悠香の怒りを買わず、俺の沽券を守れて、なおかつ軽蔑されないような説明を心掛けないと。
「まず、エファントスのシルヴァーナ王女だけど…さ」
彼女が一番問題だ。確かに誘ってきたのは向こうだが、それを言って悠香が納得してくれるかと言うと、多分ムリ。多感な女子中学生は、同時にとても純粋だったりするのだ。
「えっとさ、こういうことって地球でもあるかもしれないけど、国によっては何と言うかその男女のあれやこれやにすごーく寛容なところがあってさ」
この世界では、どちらかと言うと南方にそういう傾向が強い。エファントスとかシナートとか、或いは砂漠の国家フォルヴェリアとか。
「寛容って言うかそれに対する考え方そのものが他の地域の常識と違う…みたいな」
「ふむふむ、具体的には?」
「ちょっとしたコミュニケーションツール…的な。或いは、スポーツ的な…?」
「…………………」
悠香の沈黙が怖い。こいつしょーもない嘘で切り抜けられると思ってるのか、とか思われてたらどうしよう。別に嘘でもなんでもなく本当のことなんだけど。
だって、そうじゃなかったらいくら誘われたからってそうそう簡単に王女サマに手を出せるわけないじゃんね。
……いや、まぁ、不可能ではないし絶対やらないかと言われれば断言は致しかねる…が。
「そっか。それに関しては、悠香この世界のこと詳しくないから何とも言えないけど……それじゃ、魔界もそうなの?」
「……え…と、それは…………」
魔界の貞操観念に関しては、実はよく知らない(別に地上界も詳しいわけじゃないけどさ)。が、大昔から魔王は女に苦労していなかったというか選り取り見取りだったと言うか節操がなかったと言うか……けどそれをそのまま伝えたら絶対に悠香はブチ切れる。
「んーと、前も話したと思うけど、俺は日本で桜庭柳人として生まれるずっと前に、こっちの世界で魔王をやってたわけだ」
「うん、それは聞いた。なんかややこしかった」
「今の俺は、そのときの魔王と桜庭柳人が混ざった状態なわけだけど、そのときの俺はほんとに只の魔王だったわけだ」
魔王に「只の」って付けるのは妙な感じだが、他に言いようがない。
悠香の兄は、二千年前の魔界には存在していなかったのだ。あの頃の俺は、只のヴェルギリウス=イーディアでしかなかった。
「で、その頃のヴェルギリウスって魔王は、なんつーかその、まぁ王様なわけで色々と自由だったわけだ」
権力者が色を好むというのは地球でも似たようなもので、歴史を振り返ればそんな事例は枚挙に暇ないわけだが……悠香がそれを知っているかは不安。
「で、まぁ、その頃からアスターシャとは…ね、その……ね、彼女の忠義の一環みたいな感じかもなんだけど………」
「……ふーーーーん。今の自分とは違う自分の頃からやってたことだから…ってこと?」
ジト目で悠香が俺を見上げる。妹の上目遣いをこんなに恐ろしく感じたのは生まれて初めてだ。
「ええええええと、言い訳がましいかもしれないけど、ここで急に拒んだら彼女を傷つける…つーか忠義を拒絶したみたいになっちゃうだろ?」
言い訳がましい、じゃなくて完全に言い訳である。けど言い訳しか出来ないんだから仕方ない。
「…………そっか。それに関しても、悠香は王様と部下のこととか忠義とかよく分かんないからまぁ、いいとして」
いいとして、とは言うものの、悠香はおそらく、これで終わらせるつもりはないのだろう。後でまた蒸し返すつもりなんだろう。けどそれを拒めない俺は情けない兄貴である。
「他の人たちは?ほら、お兄ちゃんの部下の人が何人か名前を挙げてたじゃない」
「部下の人……って、エルネストか!」
あの野郎、やっぱりもういっぺんシメとくべきだった。余計なことを言ったおかげで俺はいい迷惑だ。
……が、あいつの言ってたことはほとんど全部言いがかりなので問題なし。
「あれは誤解…つーか言いがかり。完全に濡れ衣。リゼッタもセレニエレも俺の部下だし、他の奴らも確かに俺の知り合いだけど、誓って妙なことはしてないぞ」
「……やけに威勢が良くなったところを見ると、それは本当みたいだね」
………鋭い指摘を受けてしまった。
「ただ、なんでかお兄ちゃんの周りに女の人の気配ばっかり感じるのは、ちょっと気になるけど」
「い、いやそれは偶然だって!男の知り合いだって多いぞ?」
ギーヴレイもルクレティウスもディアルディオもイオニセスも、マウレ兄弟も男だし、グリードだってヴィンセントだってガーレイだって勇者二号と猫耳男だって、ほら、男じゃないか。男の知り合いの方が多いじゃないか。
…まぁ、普段女に囲まれてばっかりなのは事実だが…それを話すとまた藪蛇になりそうなので黙っておくことにしよう。
悠香は、何かを考え込んでいた。怒っているようには見えないが、さりとて納得してくれたようにも見えない。
しばらく無言で歩き続け、宿の明かりが見えてきたあたりで悠香は一度立ち止まった。
「あのさ、お兄ちゃん。悠香がなんでここに来たのか分かってる?」
「え………あー…そういや、アル…創世神に、なんか言われてきたんだっけか」
つーかアルシェ、俺の女癖を懲らしめるって何だよ。
「だから悠香、しっかりとお兄ちゃんを見張らせてもらうからね。で、いけないことしてるようだったら、絶対に許さないから」
「……………はい」
両手を腰に当てて言い聞かせるように言う悠香さんが、説教途中の舞香サンの姿にすごく似ていてギクッとなった。
親父も怒らせると怖かったが、舞香サンはその比ではなかったんだよなー…血は争えないということか。
それでも、俺の言い訳が功を奏したのか悠香はここで話を切り上げてくれた(今のところは?)。このまま何事もなく時間が過ぎて行ってくれれば、そして俺が余計なことをせず大人しくしていれば、どうやらこの嵐をやり過ごすことが出来そうだ。
そして許されることなら、こんなことに煩わされずに悠香との時間を楽しみたいものである。
リュートのやらかしを列挙してると、改めてこいつクズやな…って痛感します。ほんま女の敵やでこいつ見苦しい言い訳しくさってからに。って自分のキャラなんですけど。




