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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
魔王崇拝者編
42/492

第四十話 勇者は師匠と呼ばれたい。


 「で、どういうわけなのよ」

 

 酔っ払いの男たちが駆け付けた保安官に引きずられていった後、合流した勇者たちと俺は、酒場のテーブルについていた。

 なお、彼女らは道中、「いいから先に行ってろ」と突然言い出したのだが、その理由は聞かないでおく。俺は、紳士な魔王だからな。


 「だから、今説明しただろうが」

 食堂も兼ねている酒場で、名物の煮込み料理をパクつきながら、俺は彼女らに騒ぎの原因と経緯を説明していたのだが。

 「いや、そうじゃなくて」

 因みに俺が食べているこの煮込み、見た目は八丁味噌のモツ煮なんだけど、味噌ではなく不思議な酸味。中に入っている具材は…これ、なんだろう?少なくとも地球にはなかったっぽい。グミみたいに弾力があって、でも一定以上口の中で圧を加えると突然溶ける。…ゼリー…みたいな?素材自体に、味はない。


 「お兄ちゃん、ボクもそのスライムほしい」

 雛鳥よろしく口を開けるヒルダ(当然俺の膝の上)に、煮込みを一口食べさせる。


 ……って、スライム?これ、スライム料理!?


 「アンタさ、剣使えないの?」

 呆れつつも諦めたように俺とヒルダを見ていたアルセリアが、話を元に戻す。

 「…ん?さっきの聞いてたのか」

 「まあ、腰のもんは飾りかよ、のあたりからね」

 なるほど。何故俺が剣で反撃しなかったのか、が気になっているということか。

 それはベアトリクスも同じようで、

 「どうして剣を使わないのですか?」

 と魚の塩焼きをつつきながら訊ねた。

 「だって俺、剣の使い方知らないし」

 俺としては別に変なことを言ったつもりはないのだが、二人からすると予想外の答えだったようだ。

 フォークを持つ手が、止まってる。

 「なんだよ、そんな変なことか?」

 「…いや、そういうわけじゃないけど……意外って言うか」

 「使えて当然、と思い込んでいたのは事実です……だってほら、リュートさんって」

 魔王ですし、とその部分だけは声に出さないベアトリクス。

 「いや、これさ、ギーヴ…部下が持たせてくれたものなんだけどさ。俺、剣って触ったことなかったんだよ」

 桜庭柳人は、選択体育は柔道を取っていました。だから俺は、竹刀すら持ったことがない。

 「こういうものって、心得の無い者が安易に使うべきじゃないだろ?」

 

 俺が言っているのは、至極当然のことである。剣だろうが銃だろうが核兵器だろうが、心得(と覚悟?)のない者が安易にほこほこと使ってはならない。


 そんな俺の見上げた持論に恐れ入ったのか、アルセリアとベアトリクスはそれ以上追及してこなかった。

 しばらく無言のまま、四人で食事を続ける。



 と、やおらフォークを置くとアルセリアは、

 「……仕方ないわね。私が、教えてあげる」

 いきなり妙なことを口走った。


 「……は?何を?」

 何が「仕方ない」のか。そもそも…あれ、なんの話だっけ。


 ああそうそう。俺に剣の心得がないっていう…………


 って、はい?するってーと、勇者が、俺に、剣を教えるって言ってるのか!?




 勇者が、魔王に。剣を、教える。


 ………すいません、意味不明なんですけど。

 今までも大概意味不明な言動をしてきたアルセリアだが、今回ばかりは程度が違う。


 俺が剣を使えても、使えなくても、勇者おまえには関係ないじゃないか。何も問題、ないじゃないか。

 いやむしろ、使えないままの方がいいんじゃね?

 「いや、有難い申し出だとは思うけど……」

 「そーでしょうそーでしょう!何せ、この勇者さま直々に手ほどきしてあげようってんだから。感謝しなさいよね」

 得意げなアルセリアだが、ちょっと待て勇者。お前はそれでいいのか?

 

 いや…ちょっと待てよ。確かに、これから先旅人に扮して地上界を回るのなら、剣の一つも使えたほうがいい…のか?


 今の俺の持つ護身の術は、そろいもそろってオーバーキル。アルセリアも、そこのところを考えてくれている、ということか。


 「………そうだな、んじゃ、お言葉に甘えるとするか」

 「びっしびし鍛えてあげるから、覚悟しときなさい!」

 「へいへい、よろしくお願いしますよ、師匠せんせい


 こうして俺の、剣の修行が始まったのである。



 余談だが、今回の食事代は、お店が奢りにしてくれた。店員を助けてくれたお礼だと言う。看板娘さんはとても怖かったと見えて、アルセリアたちが店に来た後もなかなか俺の背中から離れようとしなかった。

 定位置を奪われたヒルダに無理矢理引き剥がされると、次は俺の名前とか連絡先を聞き出そうとしつこかった。名前はまだしも、住所は教えるわけにはいかないので、適当に誤魔化すしかなかった。

 よっぽど怖かったんだな、可哀想に。と彼女が厨房へ戻った後に呟いたら、三人からめちゃくちゃ冷めた目で見られた。何がいけなかったんだろう?




           ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 

 「だーかーらぁ!そうじゃないってば。こう!グッと!で、ダン、グワ!ドン!!だってば!」

 「いやいやいやいや、分かるかよ!」


 宿場町の外れ。人通りのない空き地で、勇者の出張剣術指導が始まった。

 始まった…のだが。


 「んもう、違うったら!グググググっときて、バーン!!!」

 「分かんねぇって!お前は茂雄か!!」

 「誰よシゲオって!?」

 「気にすんな!!」


 何かの道に優れた人間が、必ずしも優れた指導者になれるわけではない。それが天才肌であった場合はなおさら。

 アルセリアの指導は、気合と根性、あとはフィーリング、という、実に雑なものだった。


 まあ…そりゃあね。合理的、効率的な指導ってのは体系化された知識が求められるからな。アルセリアに可能なわけがなかった。


 「もー!なんで分かんないかなぁ!!リュート、アンタ才能センスなさすぎ!」

 ………俺のせいか?それ、俺のせいなのか!?

 「んな漠然とした説明で分かるはずないだろーが」

 もう、疲れてきた。精神的に。

 アルセリアもしびれを切らしたのか、

 「あー、もう、外いくわよ!」

 俺を、町の外へと連れだした。


 「おい、何するつもりだ?」

 「いくら説明しても理解出来ないんだから、あとは実戦を見せるっきゃないでしょ!」

 なんだか、完全に俺がダメ弟子扱いされている。納得いかない。実に納得がいかないが、


 ……俺も、その方が早いんじゃないかという気がする。


 「いい?とりあえず私が何体か魔獣を倒してみせるから、よく見ときなさい」


 考えたら俺は、今までアルセリアたちが戦うところに何度も立ち会っているが、技術を盗む、という視点で観察したことはなかった。

 ヒルダの魔導も模倣出来たことだし、なんとかなるかも。


 

 それから俺は数時間、勇者アルセリアが魔獣をひたすら狩り続けるのを観察したのだった。



 「どう?少しは分かった?」

 流石は勇者。街道を少し外れたところに出没する程度の魔獣なら、向かうところ敵なしだ。

 「分かったかどうかと言われると…まあ、何となく…は?」


 実際、二千年前から復活後にいたるまで、多くの戦場を経験してきている俺は、剣を武器にして戦う者の姿もそれこそ数えきれないくらい見てきた。

 それらと、今の勇者アルセリアの剣技をまとめて頭に思い浮かべる。

 彼らの動き。重心の置き方と、関節・筋肉の動き、踏み込みのタイミングと角度、フェイント……。

  


 そんなことで剣を習得出来るなら苦労はないが、それは人間基準での話。

 “魔王”である俺ならば、認識力も分析力も身体能力も生物とは…程度は分からないけど…違うはずだから、問題ないのだと自分の中で確信がある。


 

 「じゃ、実践、いってみよーか」

 アルセリアはそこまで分かっているのか…いや、多分分かっていない…あっけらかんと言った。

 それにしても…こうやって思い出してみると、アルセリアはやっぱり廉族れんぞくでは最強クラスだっりするよなー。ポンコツだけど。


 

 今日はこの宿場町に泊まることにして、日が暮れるまで俺の実戦訓練に時間を費やすことになった。


 と、いうのが予定だったのだが。

 



 

 「……面白くない」

 「なんでお前が不貞腐れてるんだよ」


 時刻はおやつ時。思いの他実戦訓練が早く終わったので宿場町へと戻りつつ、アルセリアはぶーたれていた。


 「だって。世の中の剣士たちが、一体どれだけ死に物狂いで訓練してると思ってるのよ。…それを、ちょっと見ただけで真似されたら、そんなの不条理ってものじゃない」


 アルセリアの不満は分からなくもない。彼女自身、幼少期より魔王を斃すべく苛烈な修練を重ねてきたのだろう。年齢にそぐわない実力が、彼女の積み上げてきた努力を物語っている。

 それなのに、いとも簡単に俺がそこそこ使()()()()()()()()()()()()()ことが、受け容れ難いのだ。

 

 「少しは先生ヅラ出来ると思ったのに!」



 ……違った。こいつがそんな繊細なわけなかった。


 「……お前、あれか、俺に上から物を言いたくて、剣を教えるとか言い出したのかよ」

 「ぎく。そそそ、そんなわけないじゃない。アンタがこの先剣を使えないと何かと不便じゃないかなーって、親切心を出してやっただけよ」


 ばれてるっつの。口に出しちゃってるっつの。


 「まあまあアルシー、リュートさんは魔王なんですから、私たちの基準で考えては失礼というものですよ。それに、剣技だけならまだアルシーの方が上なんですから、いいじゃないですか」

 「()()って何よビビ」

 ベアトリクスにフォローされて、少しだけ機嫌を直すアルセリア。 

 実際、付け焼刃の俺の剣技は、流石に“神託の勇者”アルセリア=セルデンにはまだ届かない。


 …まあ、この調子なら、そのうちどうなるか分からないけどな。



 ともあれ、俺はこれで小悪党に絡まれても、周辺都市滅亡の危険を冒さずに対処できるというものだ。


 もう少し自主練を重ねたら、武王の一人、“氷剣ひけんのアスターシャ”にでも頼んで手合わせしてもらおうかな。



 こうして俺は、只の旅人から、旅の剣士(見習い)にクラスアップしたのである。

 

 「お兄ちゃん、格好いい」

 純粋な瞳で称賛してくれるヒルダに気を良くした俺は、

 「そうかそうかー。ヒルダに何かあっても兄ちゃんが守ってやるからなー」

 とか、調子のいい約束なんかしてしまったりする。



 ……魔王が何言ってんのよ、とかいうツッコミが聞こえたような気がした。


なぜか魔王が勇者に指導されてます。

……あれ?おかしいな、こんなはずでは…………(困惑)


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