第三十八話 エピローグ的な。
翌日は、旅立ち日和だった。
空はどこまでも高く青く、微風が頬に心地よい。こんな日に出発すれば、何か幸先が良さそうだ。
時刻はまだ早朝。既に旅支度を終えた俺は、朝日を背に受けて、村の外れまで歩いてきていた。
三人娘は、まだ熟睡していることだろう。あの後、宴は深夜まで続いたのだから。
一人で出発するつもりだ。宿のおっちゃんや、村の人たちにも伝えていない。俺は勇者一行ではなく、見送りを受ける筋合いも資格もない。
あいつらにも、旅を続ける以上はいつか会えるだろう。なにしろ俺たちは“魔王”と“勇者”。究極の腐れ縁。
だから黙って村を出ようと思った。の、だが。
「あ、来た来た。案外遅かったじゃない」
「おはようございます、リュートさん」
「……おはよ、お兄ちゃん」
いつの間にか先回りしていた勇者一行が、村外れで俺を待ち受けていた。
…なんで今日に限って早起きなんだよ。
「お前ら…何してんの?」
「失礼ね。アンタを待っててやったってのに」
当然のように言うアルセリアだが、それは当然のことではない、勿論。
「リュートさんのことですから、私たちに黙って出発してしまうのではないか、と昨晩アルシーが言い出しまして」
……うん、まあ、そうだよ。事実、黙って出てきたし。
でも、それがなんで?
「アンタさ、まだしばらく地上界を徘徊するんでしょ?」
なんつー表現しやがる。失礼なのはそっちじゃないか。
「まあ、そうだけど…色々、見て回りたいし」
俺の返事に、待ってましたとばかりに、
「ま、あれよ。私たちはこのあと、街道を下って南のタレイラに行くんだけど、こっから一番近い都会ってそこなのよ。てか、近くに大きな都市は他にないのよね」
「……ふーん、そうなのか」
「だから、アンタが旅を続けようとすると、必然的にタレイラに向かうってことになるわけ」
なるほど。こっちの地理には全然詳しくないから知らなかった。
「…行き先が一緒なら、道中だけでも一緒に行ってやってもいいんじゃないかって、昨日みんなで話してたのよ」
…………「行ってやってもいい」…ねぇ。
「ほうほう。で、タレイラまでは、どのくらいあるんだ?」
「この村からは乗合馬車は出ていないので、徒歩で行くことになります。ざっと…五日ほど、でしょうか」
これは、ベアトリクスの言。
「ふむふむ。五日、ね。なるほど。お前らの狙いは……」
「な、なによ、別にアンタのご飯が目的なわけじゃないんだからね。勘違いしないでよね!」
……なにその新手のツンデレ。
「ただ、まあ、そうね。アンタには色々世話になっちゃったし、道案内くらいはしてやってもいいかなーって思ったのよ。ほら、私って勇者だし」
魔王に道案内を申し出る勇者とか…。
まあ、しかしそうだな。確かに、行き先が一緒なのにわざわざ別行動する必要も…ないのか?無理に一人で行こうとするのも、なんか変に意識してると思われそう…だし?
「ったく、仕方ないな。頼むから、道中で騒ぎは起こしてくれるなよ?」
「むか。魔王のアンタに言われたくない!」
「お前らが勇者だから言ってるんだよ」
腕に温かい感触。ヒルダが、ここは自分の定位置だ、と言わんばかりの顔をして、俺の腕にしがみついていた。
……腐れ縁って、こういうのを言うのか?なんか違う気もするんだけど……。
「では、行きましょうか皆さん」
「ま、ちょっとの間よろしくね」
「……お兄ちゃんと、一緒…」
ほんと、仕方ない連中だ。
「そうそう、お昼ごはんはお肉が食べたいんだけど」
「え…お魚にしませんか?」
「甘いのー」
………ほんっと、仕方ない連中だ…。
ようやく第一章完、といったところです。




