第二話 再会
「ああ、主上よ、我が主、我が君……どれほど、どれほどこの瞬間を待ち焦がれていたことでしょう………!」
頭を上げたギーヴレイの両の目からは、止めどもなく涙が零れ落ちている。俺の知る知将ギーヴレイは、こんな風に感情を露にする奴ではなかった。余程、俺の“復活”が嬉しかったのだろう。
「……ふむ。要らぬ心配をかけたようだな、すまない」
俺は、ずっと“冷酷無比の魔王”としてやってきたが、自分の帰還を涙しながら迎えてくれる忠臣を労うくらいの情は持っている。
尤も、仮に俺がそうしなかったとしても、こいつらは不満など抱くことはないだろう。
「勿体ないお言葉に御座います。こうしてお戻り下さっただけで、それだけで我らは………」
尚も続けようとするギーヴレイを手で制し、俺は幾つかの疑問を解消することにした。
「悪いがギーヴレイ、今は状況を整理したい。………あれから、どれ程経った?」
「およそ、二千年に御座います」
二千年……そうか、そんなにも長い間、俺は異界に放逐されていたという訳か。話しながら、どんどん記憶が鮮明に戻ってくる。
「随分と長きに渡り待たせてしまったようだな。……そう言えば先程、自らを封じて……と言っていたか?」
いくら長命の魔族と言えど、こいつらの寿命はせいぜい二百年かそこら。本来であれば、二千年前に俺に仕えていたギーヴレイが、今も生きているはずはない。
「……は。いずれご帰還なさる御身をお迎えするため、我が身を封印し時を止めた状態でお待ちしておりました」
なるほど不可能なことではない。封印されている間は肉体、精神共に時間軸から切り離されるし、俺の魔力を感知した時点で封印が自動解除されるよう魔法式を設定しておけば、こういうことも出来る訳だ。
とは言え、封印中は完全に無防備で、外から襲撃を受ければ死ぬこともある。更に、何時俺が帰ってくるのか、そもそも本当に帰ってくるのか確証がない状況でよく決心出来たものだ。我が僕ながら天晴れ。
「……見上げた忠義ぞ。今後もその忠誠を、我に尽くすか?」
「…お許しいただけるのであれば、無上の喜びと共に、この身命を賭して、御身にお仕え申し上げまする!」
期待通りの答えが帰ってきた。そもそもこいつら、以前から度が過ぎるほど忠誠を尽くしてくれていた。あの頃はそれが当然と言うか、特に何も感じなかったが、今はその忠誠が有り難いと言うか重たいと言うか申し訳ないと言うか。
今の俺は、かつてこいつらが心酔していた“魔王”とは違う。
同じ存在だが、同じじゃない。
俺は、変わってしまった。“ごく普通”の、ちっぽけな人間としての人生が、経験が、この世界“エクスフィア”の創世神の一柱にして魔王たる、ヴェルギリウス=イーディアを変えてしまったのだ。