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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
新世界編
356/492

第三百五十話 次から次へと悪事を考える奴らってどうしてその頭脳を世界平和に生かそうと思わないのだろうか。



 

 「…へい…ではなくてリュート様、お疲れでいらっしゃいますか?」

 「いや…大したことではない。が……少しばかり辟易していることは確かだ」


 俺の内心を嗅ぎつけて尋ねて来たイオニセスに、正直に答える。


 いやーーーー、予想はしてたけど、やっぱキツイわ。



 あれから俺とイオニセスは大公夫妻&アマンダ女史&ジュリオ少年(何でかついてきた)に連れられて下町中を歩いてクルーツ特任司教の悪行に憤る人々の生の声とやらを聞かされまくった。

 最初は当事者たちから聞くだけのはずだったのに、どこからか聞きつけた住民たちがこぞってやって来て、口々にこんなこともあったあんなこともあったと、際限なく告発大会が始まってしまったのである。



 いやー、ほんともう、胸糞悪い話だったよ。人間不信になってしまいそうだ。

 魔王のくせに何言ってんのと言われそうだが、そして考えてみれば自分はそれどころじゃない悪逆非道なことをやりまくっていたような気もするが、それでも今の俺は紳士な魔王なのだ。純心ピュアな魔王だったりするのだ…これほんと。

 延々と人の欲望の形を聞かされまくり、心が少し疲れてしまったのです、はい。



 「なーなー、にーちゃん。アンタ、けっこうエライ人なの?」


 …………………。


 「……なんでお前がここにいるんだよ」


 俺たちは、大公の城に戻ってきている。自分たちにあてがわれた部屋に戻ってきているのだ。

 そして、何故かそこには当然のような顔をしてジュリオ少年(とお供のグリフォン)の姿が。


 「なんでって……アンタがちゃんと教会の偉い人に話つけてくれるか見張ってようと思って」

 「いやそれ、お前の仕事じゃねーだろ」


 それはどう考えても大公夫妻の役目である。

 彼らは彼らの国と国民を守る責務があり、そのためには俺という異端審問官を如何に味方に引き入れ自分たちに有利な証言をさせるかを考えなくてはならない。


 …が、それは下町のガキんちょのするべきことではない。


 しかしジュリオ少年は、俺の抗議を一蹴した。


 「何言ってんの?仕事だからじゃねーよ、オレがそうしなきゃって思ったからやるんだよ」

 「……一丁前のこと言いやがって…」

 「で、なに、にーちゃんエライ人なのか?、なあ?」

 「…………聞いてどうするんだよ」


 なんで目を輝かせてこっち見るかなー…


 「だってさ、偉い人だったらオレたちのこと助けてもらえるじゃん!」

 「……その考え自体は間違いとは言い切れないけど……………別に、そこまで偉いってわけじゃねーぞ」


 “七翼の騎士セッテアーレ”はグリードの私兵ではあるが、実を言うと特任司祭の地位も与えられてたりする。ので、一般の聖職者や修道士よりは偉いと言えるが、司教よりも下である。

 因みにベアトリクスは七翼セッテ云々関係なく特任司教の資格を持っている。


 「えー…でもさ、様付けで呼ばれてんじゃん」

 

 ジュリオ少年は、イオニセスと俺とを見比べる。外見的には俺の方が若く見えるため、イオニセスが俺に傅いているのは俺が偉いからだと思ったのか。


 ……いや、それも間違いじゃないんだけど……多分、彼が望んでいる形の「偉い」じゃないと思うなー…。


 「あー、なんつーかこいつは……ちょっと個人的な部下って言うか…」

 「部下がいるんなら偉いんじゃんか!」

 「短絡的か!」


 なんだろう、本物の子供の相手って疲れるぞ。



 「とにかく、これから本当に偉い人に連絡するから、お前は黙ってろよ」

 「ほんと?偉い人って、教皇?教皇なの!?」

 「………ある意味すごいわ、お前」


 子供ってなんで「偉い人」って言うと王様とか社長とかしか思いつかないんだろう。世の中には、大臣とか専務とかそういう「ほどほどに偉い人」ってのもいるってのに。



 ……まあ、実質的には教皇並みの権力を持ってる枢機卿筆頭なわけだから、あながち間違ってはいないのだけど……。


 

 俺はジュリオ少年を一睨みして黙らせると、鏡と魔導装置でグリードに通信を始める。

 時間的に他の執務に忙殺されてるだろうから一発で出るとは思っていなかったのだが、予想に反してグリードはすぐに鏡の向こう側に姿を見せた。まるで、俺からの連絡を待ち構えていたかのようだ。


 「やあ、リュート。待っていたよ」


 …かのようだ、ではなくて、待ち構えていたらしい。

 と言うことは、何かあったのだろうか。


 「よう、猊下ボス。色々と想定外のことが起きてるんだけどさ」

 「それは、公国に赴任していた特任司教の疑惑のことかい?」

 「……知ってやがったのか…」


 俺の説明を待たずに全て把握していると言わんばかりのグリードに、俺は少しムッとしてしまう。知っていたなら、手の打ちようがあったんじゃないか?


 「まあそう責めてくれるな。知っていたと言っても、ついさっきのことなのだから」


 グリードは、自分が気付いた…気付いてしまったことを説明した。

 

 彼は、俺が「あの御方」の間者を警戒していることを受け、聖教会内である程度の地位にいる者の調査を行ったそうだ。

 ここ最近の動向や交友関係、公の場での発言、身近な人間の意見も含めて、どういう人物なのか。

 ルーディア聖教にどのくらいの司教がいるのかは知らないが、生半可な人数ではないだろう(何せ世界宗教だし)。それを全員分調べるってのがもう、常人の為せるワザじゃないような気もする。


 そこで、ペザンテ公国に派遣されたクルーツ司教とその部下、そして派遣元となったトルディス修道会の彼の直属の上司である大司教の調査結果に、引っかかるものを感じたと言うのだ。


 「引っかかるって…どういう具合に?」

 「大司教の周囲の資金の流れが、どうも不自然でね。…リュート、君は銀行という組織…というか仕組みを、知っているかい?」

 「へ、銀行?まあ、一応は……」


 桜庭柳人は、郵便局の通帳を持ってた。小遣いとか臨時バイト代とかをそれで管理してたけど……


 え、この世界にも銀行ってあるの?


 「…そうか。まだ上流階級にしか普及していない仕組みなのだけどね。そうだなぁ…分かりやすく言うと」

 「あ、銀行の仕組みは大体分かってるから。で、不自然ってのは?」

 「…ふむ、分かってるならそこは省こう。大司教が管理している修道会の口座で、何度も同じような入出金が繰り返されていた」


 グリードの口振りからすると、こちらの銀行も地球の銀行と同じようなものだろう。お金を入れたり出したり送金したりに使うわけだ。地上界は統一通貨だから両替はやってないだろうけど。


 「調べてみると、同じ商品の売買を繰り返したり、実態の確認出来ない団体からの寄進があったり、債券を短期間で売買したりと、何の意味があるのか不明な流れがあったものだから、徹底的に遡ってみたのだよ。そうしたら、クルーツ特任司教の個人口座に行きついた…というわけでね」

 「なんてこったマネロンかよ!」


 なんでこう、悪党ってのは世界が変わっても同じような事思いつくものかね。しかもまだ銀行というシステムに不慣れなはずのこの世界でそれを思いつくって、ある意味稀有な才能だよ?


 「マネ…何だって?」

 「あー…マネーロンダリング、資金洗浄な。やましいお金の出所を隠すために、色々小細工するんだよ」

 「……ふむ、詳しいね。魔界ではよくあることなのかい?」

 「んなはずあるか!」


 そもそも、魔界には銀行なんてない。多分、天界にもないだろう。



 「なるほど資金洗浄か。そういう表現があるのだね、覚えておこう」

 「で、そんな真似をするってことは…」

 「知られたくない出処の金銭がある…すなわち、表沙汰になっては困ることがある…ということだね」


 俺とグリードは、互いに顔を見合わせて頷いた。

 どうやらクルーツ司教はクロということで、俺も自分が見聞きしたことを彼に伝える。流石は腹黒親父世界代表(俺が勝手に決めた)だけあって表情こそ変えなかったが、グリードが腐れ坊主どもの悪行に不快感を抱いたのは確かなようだった……不快感で済ませてしまうあたりがグリードらしいが。

 まあ、トルディス修道会を権力争いからリタイアさせる丁度いい名目が出来たと考えているかもしれない。



 「……どうやら、もう少し詳しく調べてみる必要がありそうだね」

 「ああ、こっちでも他に分かることがないか探ってみる」

 「なーなー、まだ話終わんねーの?そのオッサン偉い人?なあ、偉い人なの?」


 ……………………。


 「あ、そう言やあいつらどうしてる?ちゃんと大人しくしてるだろうな」

 「アルシーたちかね?自宅待機を命じてあるから、心配いらないと思うよ……退屈しているとは思うが」

 「なーって。なー、まだ終わんねーの?」

 

 ………………………。


 「なーってば、リュートぉ」

 「うるっさいなもう!今大事な話してんだから、少し黙っててくれ!」


 ジュリオが煩い!

 子供には退屈な話かもしれないけど…って別に頼んでここにいてもらってるわけじゃないんだけど、横でぴーぴー喧しい。


 「……リュート、その子は……?」


 鏡に映ったジュリオの姿を見て、グリードが怪訝そうな顔になった。


 「あ、えと、ここの市民なんだけど、孤児でさ。で、色々と話を聞かせてもらったんだけど…」

 「なーなー、おっさん偉い人?オレ、ジュリオって言うんだ。おっさんが偉い人なら頼みがあ」

 「だーかーらぁ!黙ってろっつったろ!!」


 俺は横入りしてくるジュリオの襟首をひっつかむと、ぺいっと放り投げた。

 ベッドに落ちたジュリオはまだぴーぴー喚いている。


 「…………リュート…」

 「……悪い、ちゃんと言って聞かせるから……」


 いくらなんでも、聖教会のナンバー2を捕まえて「おっさん偉い人?」はないだろう。グリードもここまでふてぶてしい奴を相手にすることは珍しいのか、少しばかり戸惑って……


 ……戸惑っているというよりは………困惑?


 「……個人の趣味嗜好にケチを付ける趣味は無いのだけどね…………魔界そっちではどうかは知らないが、地上界こちら()()は犯罪だから気を付けてくれたまえ」

 「それ誤解----!」


 ……どうやら、彼の懸念は別のところにあったようだ。つか、失礼な。とうとうロリだけでなくショタ疑惑まで掛けられるようになってしまったとは……!


 「あのさ、猊下ボス。言っとくけど、()()()()わけじゃないからね?」

 「いやいや勿論分かっているさ。大丈夫、神への敬愛を忘れない限りは、人の心は無限の自由を許されているのだからね」

 「分かってない!……いや、分かってるのか?分かってて言ってる!?」


 神への敬愛とか人の心とか、魔王に言う台詞じゃないよね?

 って、今はそうじゃなくって、


 「ただ、心は自由でも悲しいかな肉体はそれを許されないのが世の常だ。そこのところを弁えてくれていれば、私はこれ以上踏み込むつもりはないよ」

 「………面白がってるだろ」


 グリードの奴、絶対分かってて言ってる。俺を弄って楽しんでやがる。

 くっそー、エルネストと言いこいつと言い、聖職者ってのはこんなんばっかか。考えてみれば、ベアトリクスも人のこと揶揄って楽しむ傾向があった。やっぱ聖職者ってのはこんなんばっかだ。



 気を取り直して話を戻し(逸らしたわけではない、断じて)、その後グリードといくつか遣り取りをした後で通信を切った俺は、その間ずーーっと横で騒いでいたジュリオの方を振り向いた。


 「よーやく終わったかぁ。リュートお前、話長いよ」

 「…………おいコラ」


 言いたいことは沢山あるが、まずはとにかく。


 「ジュリオ、お前な、目上の者を敬うっつー姿勢を知らんのか?」

 「知るはずないじゃん。オレ、孤児だし」


 ……ぐむむむ、そう言われれば確かに…………いやいや、だからと言って甘やかすのは駄目だ。


 「だったら覚えとけ。目上だったり年上だったりする相手にはな、最低限の礼儀っつーのが必要なんだよ」

 「え、だってじゃあ、リュートはどうなのさ?」


 …………?え、俺?


 「さっきのオッサン、偉い人なんじゃねーの?それに、リュートよりずっと年上じゃん。なのに全然敬ってるようには見えなかったぞ」


 …………そ、それは……………!


 「い、いいんだよ俺は」

 「なんで?なんでいいの?特別なの?リュートは特別扱い?なんで?」

 「うるっさい!いいもんはいいの!」

 「だからなんでだよー、不公平じゃんか。なあなあ、やっぱお前って偉い人なの?さっきのおっさんより?」

 「もぉおおお!少し黙ってろ!!」


 あーーーもう、煩い!鬱陶しい!子供ガキってこんな面倒臭いものだったのか。セレニエレ以上に鬱陶しいぞ。

 これが、本当の子供らしさ…なのかもしれないが、だとすれば俺は間違いなく子供は苦手だ。



 と、頭を抱える俺の前にルガイアが(グリードとの通信中にいつの間にか戻ってきていた。すっかり隠密が板についてきている)進み出た。


 「お望みとあらば、この者を黙らせますが」

 「いやいやいやいや、それには及ばん。てかやめてくれマジで」


 怖いよー、ルガイア兄ちゃん怖いよー。真顔で言うの怖いよー。


 「左様でございますか。では、お気が変わられましたらお申し付けください」

 「……………あ、ああ……」


 クッソ真面目なルガイアのことだから、冗談じゃなくて本気なんだろう。これがギーヴレイあたりだったら、「陛下に対しなんたる不遜!!」みたいな感じで怒り狂って制裁を加えようとするところだが、ルガイアはずーっと淡々としてる。

 怒ってる様子はないんだけど、取るに足らない(ハズの)廉族れんぞくの幼子の態度を真に受けてるのは確かだ。


 …俺に了承を得ようとしてくれてるからまだマシなんだけど……完全に目を離すのはちょっと危険かもしれない。

 イオニセスは……うん、平然としてるね。彼は臣下としての一般的な忠誠しか持ち合わせていないだろうから、過激なことはやらかさないと思うけど……



 「なぁリュート、やっぱお前偉い人なんじゃね?」

 「…黙っててくれ頼むから………」


 人の気も知らないで呑気なジュリオに、説教する元気もなくなってきた俺であった。


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