第三百三十六話 家の間取りって見てるだけでテンション上がる。
「間取りはどうする?」
「やっぱ、一人一部屋は必要だし……客間とかは?」
「そうよね。エルネストとかディアルディオなんて絶対遊びに来たがるわ。あと、アスターシャさんも誘ったら来てくれるかしら?」
「では、客間は男女別に作っておきましょうか」
勇者一行、いつになく真剣な面持ちである。
いつになく真剣な面持ちで、新居の計画を立てている。
「そうすると…結構な部屋数になるわね」
「……ボク、お兄ちゃんと一緒の部屋でいい」
「そんなのダメよ。リュートとは別の部屋になさい」
「……へ!?」
「って何よリュート。アンタもヒルダと同室がいいっての?」
「い…いや、そうじゃなくて……俺にも、部屋貰えるわけ?」
「あったりまえじゃない。アンタ一人、外の馬小屋で寝ろとは言えないでしょ」
当然のように言うアルセリア。
「あ、そうそう。キッチンはアンタが決めてね。こういうのって、使う人が考えるのが一番だから」
「……あ、ああ、分かった……」
……やばい。かなり嬉しいかも。
俺は、神託の勇者一行のために彼女らが安らげる家を建てようと計画はしたが、まさかそこに自分の場所を用意してもらえるとは思っていなかった。
彼女らが、自分たちの帰るべき場所に、俺のためのスペースも空けておいてくれるなんて。
最初に家のことを持ちかけたとき、彼女らは皆、きょとんとした顔をしていた。それから話を進めていくと、やがて戸惑い始めた。
どうも、「自分たちの家」というフレーズにピンと来ないというか、実感が湧かなかったらしい。
それだけ「普通の」生活と縁遠かった彼女らではあるが、やがてそれが実現可能な…と言うよりも着実に進んでいる計画なのだと分かるうちに、どんどん乗り気になっていった。
間取りはどうだの、屋根や壁の色はどうだの、家具のデザインだのお風呂の大きさだの。
大きな紙を机一杯に広げて、顔を輝かせながら自分たちの希望を好き勝手口にする四人だったが、いつもみたいな我儘な感じには見えなかった。
土地もお誂え向きな感じのところが見つかり、業者は知らないうちにグリードに手配されていた。
完成予定図を見せられて全員(俺含め)のテンションが爆上がりしたことは言うまでもない。
日当たりの良い大きなリビングや、広くて使い勝手よさそうなアイランドキッチン(これ、憧れだったんだよなー…)。各員の部屋は全て、東向きか南向き。
窓は大きめで、陽光がたっぷり入ってくるようになっている。
家の横には小さな馬小屋。裏庭には菜園が作れるようになっていて、旅暮らしの今は難しいかもしれないが彼女らが引退した暁には家庭菜園が楽しめることだろう。
一応、共用スペースは一階で、個人の部屋が二階に配置されているのだが、まず間違いなく全員共用スペース…家の中心に配置された居心地の良さそうなリビングに入り浸ることが今から想像出来る。
勢いというのは恐ろしいもので、一度話が動き出すと、トントン拍子で進んでいく。あれよあれよと言う間に、着工まで漕ぎ着けてしまった。
とは言っても、完成予定は三か月後。その間俺たちが何をしていたかと言うと……言うまでもなく聖骸地巡礼である。
率直に言って、これ以上聖骸を入手する必要はないんじゃないかとも思う。アルセリアもビビもヒルダも、もう十分すぎるほど強くなった。このまま魔界と天界が争うことなく世界が平和へ向かっていけば、彼女らがその力を求められることもなくなるだろう。
それでも、万全を期したいという思いがあった。
「あの御方」とやらの次の動きは分からない。魔王をも翻弄し、魔界にも天界にも、地上界にもちょっかいをかけてくる厄介な存在だ、出来得る限りの備えはしておきたい。
だからこれまで以上に巡礼に精を出したわけだが。
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「……なんか最近、張り合いないわよね」
複雑そうな表情で、アルセリアが零した。
天界から戻ってきて、これで四か所目の聖骸地である。
今までと比べると、尋常じゃないペースだ。
勿論、ルーディア聖教で最も過酷とされる修行であるからして、それなりには試練っぽいのもあったりした。
魔獣の群れの真っただ中を突っ切って行ったり、標高五千メートルを超える山に登らされたり、はたまた深い洞窟の奥の地底湖でケイブダイビングをやらされる羽目になったり。
が、こいつらビックリするくらいサクサク進んでいきやがるのだ。
それもそのはず、ここ最近の出来事で、勇者一行はとんでもなくレベルアップしてしまったのである。今さら聖骸地巡礼程度で苦戦したりするはずもなかった。
「ま、それだけお前らが腕を上げたってことだろ」
「それは多分そうなんだろうけど……ちょっと拍子抜けしちゃう」
やはり勇者ってのは強さを極めたがるものなのだろうか。アルセリアは、まだまだ今の自分に満足はしていなさそう。
「でも、危険が減ったのは良いことですよ、アルシー」
「……あんぜんだいいち…」
対して、ビビとヒルダは安全志向が強めだ。彼女らもまた大いにレベルアップしたわけだが、ここは勇者との違いが出ているもよう。
「………ん、そうね」
納得はしていないが特に反論することもなくアルセリアは頷く。それから開き直ったように、
「そうよね!私は勇者なんだし、このくらいの試練、ちょちょいのちょーいと片付けられて当然よね!」
ように、ではなくて、完全に開き直った。
しかし……今の彼女は確かに言うだけのことはある。が、以前の根拠なき自信過剰を知っている俺からすると、やっぱり不安。レベルが上がっても、ポンコツなのは変わってないし。
「………何よリュート。何か言いたいわけ?」
「いや…別に…………」
誤魔化したのだが、いつもみたいに「誤魔化すんじゃないわよ!」って責めてくるかと思ってた。
が、何故かアルセリアはそれ以上何も言ってこなかった。
………なんだろう、この違和感。
また何か、悩んでたりするんじゃないだろうか。
何か言いたそうな顔をして、でもすぐにそれを引っ込めてしまう。何でもかんでも思ったままを口にする彼女にしては、どうも変だ。と言うか、言いたいことを言わないアルセリアなんて、はっきり言って気色悪い。悪いものでも食べたんじゃないかって、悪霊にでも取り憑かれてるんじゃないかって、心配になってしまう。
けど、お年頃の少女の悩みってのは大概センシティブなものだったりするので(こいつの場合はそうとも限らないが)、こちらから無理に聞き出すのも気が引ける。
…ビビなら知ってるかな?それとも、いつも一緒のキアだったら何か勘づいているかも。それとなーく聞き出して………
……いや、他人から聞くってのも、何か違うよな。
…………うん、もうすぐ新居も完成する頃だし、落ち着いたら直接聞いてみよう。多分、その程度には俺に対しても心を許してくれている……はずだ。
そろそろ終わりの形が見えて来たので、どんどんフラグぶっこんでいきます。




