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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
天界騒乱編
334/492

第三百二十八話 ご飯とか散歩とか勘違いするワンコって可哀想だけど可愛くて堪らない。




 びっくりしたーーーー。

 いや、ほんともう、びっくりした!


 何が吃驚って、アリアが地天使となんだか一触即発になってるんだもん。


 一体、何が原因でどんな流れでこんなことになっちゃったのかは分からないけど……黒焦げの天使が一人転がってるので実は想像出来なくもないけど……なんかすっごい面倒臭いことになってる気がする。




 セレニエレを魔界に置いてきた俺は再び天界に戻り、中央殿に閉じ込めたままだったグリューファスを連れてロセイールを出たのだ。


 何故かと言うと、アリアのとんでもない魔力を感知したから。

 絶対何か起こってるに違いないと思って、それでグリューファスを連れてピーリア・シティまですっ飛んで来たら、こんなことになってるんだもん。


 ここ、“黎明の楔”の支部じゃないよな?確か役場みたいなところで、ここにいる連中の位置関係からして、多分クーデター軍の拠点なのだろう。


 なんで留守番組が、クーデター軍のとこに攻め込んでるわけ?暴徒が押し寄せて来たときのことは想定してたけど、思いっきりこっちから喧嘩吹っかけてるよね?俺、面倒ごとは起こすなって言わなかったっけ?



 …と、まあ、俺は困惑しきりだったのだが、それは向こうも同じことで。

 否、俺よりもそれは大きい。


 まあ、一刻の猶予もないみたいな衝突寸前の空気だったもんだから、思わずここいら一帯の空間を自分の領域に変えてしまったのだ。ちょっと浅慮に過ぎたかもしれないが、時すでに遅し。



 「………グリューファス…………これは、どういうことですか……其方、一体……?」


 ほら、地天使ってば、それがグリューファスの仕業だと思ってる。無理はないけど。けどこれだけ高位体が雁首揃えてる空間を支配下に置くなんていつの間にそんな力を手に入れたんだ…みたいな、親しいハズの相手の知らない一面を見付けたみたいな、警戒と畏怖と純粋な疑問が入り混じった眼でこっちを見てる。


 俺は、その勘違いを利用することにした。



 「いや、これは私ではうっ」

 

 私ではない、と言いかけたグリューファスの羽根を、後ろからこっそりむしる。この天使の翼ってのは彼らの霊力マナが実体化したもので厳密に言うと肉体の一部ではないのだが、精神と深く結びついていて、要するに自由に動かすことも出来れば感覚もあるってわけで。


 なんでも、むしられると結構痛いらしい。


 「どうされた、グリューファス?」


 いきなり涙目で(って高位天使が涙目になるくらい痛いのか?)言葉を詰まらせるグリューファスに訝しげな地天使だが、俺は後ろで「ボクは従者でーす」みたいに澄まし顔で立っているだけなので、勘づかれている様子はない。しめしめ。



 「い…いや、何でもない。それよりも、私は汝と話がしたいと思っている」

 「それは構いませぬが、しかし其方、この力は一体…………」


 地天使にとって風天使は同輩。そして同格。かつ同僚。話をするにやぶさかではないだろうし、本来ならば対等で接することが出来る存在。

 しかしまるで創世神から直接加護を受けたかのような力を見せつけられて、グリューファスに対してどんな態度を取ったらいいのか決めかねている。


 グリューファスが、恐る恐る背後の俺を振り返った。ので、視線できっちり言い聞かせてみた。ありがたいことにグリューファスは察してくれたようだ。うん、やっぱり痛い目遭わせておいて正解だったわ。或いは俺の提示した各種拷問法がそれほどまでに恐ろしかったか。



 「……我らが母、創世神はこのような事態を望んではいない。汝の振舞いは短慮だったと言わざるを得ないが、それでもこうなってしまったからには、一刻も早い秩序の再構築が必要だろう」


 うまい具合に創世神の名前を出して、遠回しにこれは創世神の思し召しですよーと地天使を誤魔化すことにしてくれたようだ。


 「しかし、今はまだその段階ではありません。水天使リュシオーン火天使セレニエレが…」

 「リュシオーンは死んだ」


 端的に事実を述べるグリューファス。それを聞いた地天使はすぐさまその言葉の意味が理解出来なかったようで、無表情のまま沈黙した。

 やがて、徐々にその目が見開かれる。


 俺はこの地天使とやらとは初対面なのだが、どうにも表情に乏しい奴である。傍から見ていると、驚いているんだか慌てているんだかもしくは全く動じていないのか、よく分からない。


 しかし、その次に出て来た言葉からすると、それなり以上には驚愕しているようだった。



 「死んだ……と?しかし我らの刃は、未だ彼の者へは届いていなかったはず………まさかグリューファス、其方……」

 「セレニエレは行方をくらませた」


 危うく早とちりした地天使に水天使殺しの濡れ衣を被せられそうになって、慌ててグリューファスは追加情報を投入。そしてそれは事実なのだが、


 「では、まさかセレニエレがリュシオーンを……?」


 地天使も、正しく理解してくれた。


 「しかし、セレニエレはリュシオーンの懐刀、最も近しい存在だったではありませんか。その両者に一体、何があったと……」


 クーデターなんて騒ぎを起こしておきながら、他人の()()()()が気になって堪らない地天使さんである。


 そもそも、地天使がクーデターを起こして中央殿が混乱に陥ったもんだから、セレニエレがその機に乗じてリュシオーンを殺したんじゃないか。



 ……いや、そうとも限らないのか?

 確かセレニエレ、リュシオーンはもう用済み…みたいなこと言ってなかったっけ?


 「あの御方」の記憶を失った今の彼女に聞いても答えが帰ってこないのが残念極まりないが、まあ間違いなく「あの御方」とやらの指示だろう。

 だったら、クーデターに関係なく水天使殺害事件は起こってたってことなのかな?


 

 「私も、詳しいことは把握していない。が、四皇天使のうち二名がいなくなり、残ったのは私と汝のみ。であれば、我らの為すべきことは一つしかない」

 「しかし、私は既に四皇天使クァティーリエでは……」


 中央殿を裏切った時点で地天使ジオラディアはその地位と職責を剥奪されている。それは当然のことであるのだが、しかし重要なのは、天界は確かに縁故主義ではあるものの、トップたる四皇天使に第一に求められるのは家柄だとか財産だとかコネではなく、


 「汝以外に、誰が()()を成し遂げられると?言っておくが、私に全てを押し付けようなどとは考えるなよ」


 自尊心の塊である天使たちを屈服させられるほどの、力を有しているか否か。


 執政官までなら、縁故が強く影響する。第五位階以上であれば位階より家柄重視だ(流石にそれ以下の低位だと家柄が良くても難しい)。しかしそれを纏める四皇天使クァティーリエの場合は、家柄身分よりも位階が最重視される。

 位階と身分が完全イコールでないところがややこしいが、実際にグリューファスは三級市民…労働階層出身だという。

 それを聞かされたときには、だから平民の権利向上を求めてレジスタンスなんてやるのかーと、妙な納得もしてしまったのだが、第一位階相当の力を有していれば、執政官にはなれなくとも(被選挙権がない)、四皇天使には選ばれるわけだ。

 

 実力主義と縁故主義が変な感じに入り乱れているが、それは魔界も似たような面があるので……魔界は実力主義ではあるが、名門の家に生まれれば弱くてもなんとか食っていくことくらいは出来る……まあそんなものかと。ゴリゴリの実力絶対主義ってのも、息が詰まるしね。



 「今ある仕組みを利用して新たな体制を築くのか、一から全てを創り直すのか、いずれにせよ初めのうちは誰かが統制を取らなければならない。そして我ら以上にその適任はおるまいよ」

 「私と其方が、天界の頂に立つと?それでは、今までと何も変わらないではありませんか」

 「混乱を収めるまでの話だ。汝の振舞いのせいで、現在天界は未曽有の混乱に陥っている。中央だけではなく、地方でも暴動の波が広がり、領主の力の弱い辺境では略奪などの無法も行われているという話だ。それを収めずに舞台から退場しようなどというのは、あまりに無責任ではないか」


 言われて地天使も、反論は出来ない。こいつが何を思って何を望んでクーデターなんて起こしたのかは知らないが、自分のせいで起こった混乱に知らんぷりを決め込めるほど手前勝手な考えの持ち主ではないらしい。


 「それは……そうですが……」

 「理想を追うことは容易い。しかし、足場が疎かなまま突き進めば、いずれは瓦解するぞ」


 ……やだグリューファスさんてば、カッコいい。「理想を追うことは容易い」ですって。凡人にはそれが難しいんだよ。一度でいいからそんなこと言ってみたいもんだ。



 「……承知しました。しかしグリューファス、最初に其方の理想…目的とする地点をお聞かせいただきたい。それが我らと相容れない場合は、話を進めることは出来ません」

 「いいだろう、私も汝に聞きたいと思っていたのだ」



 ……やれやれ、どうやらこれ以上の揉め事は(とりあえず)回避出来たみたいだ。どうなることかとハラハラして見ていたベアトリクスとヒルダも、安心してる。マナファリアは、多分何も気にしてない。いつもどおりの満面の笑顔で俺に抱き付こうとして、阻止しようとするヒルダと揉み合ってる。


 俺は、ヒルダからマナファリアを引っぺがす。俺の妹と張り合おうなどと、片腹痛いわ。

 

 自由になったヒルダは、心置きなく俺に抱き付いた。マナファリアの笑顔のままの眼差しがちょっとホラーだが、無視することにしよう。



 ただ一人、アリアだけが、


 「おい、ちょっと待て。まだ決着はついていないだろうが」


 決着も何もまだやり合う前だっただろ、と言いたいが、収まりが付かないらしくゴネている。しかし地天使は元来好戦的な御仁ではないらしく、それを無視してグリューファスと建物の中へ入って行ってしまった。



 「こら、逃げるのか?最高位天使とは名ばかりか?おいこら待てというに!!」

 「うるっさい」


 ぺちん、とハリセンで彼女の頭を小突く。こいつはなんでこう、考え無しに暴れまくるんだよ。どんだけ鬱憤溜まってるんですか。………いや、千年分の鬱憤っていったら相当だろうけど…



 「これ以上騒ぎを大きくするなっての」

 「しかしリュート…」

 「()()()()()()()()()もない。俺はあいつらの話し合いに同行するからお前らは…」


 グリューファスが要らんことを地天使に吹き込まないように、俺は立ち会う必要がある。だから彼らの後について建物の中へ入ろうとしたのだが、



 「なに、菓子とな!?さては貴様、何か持ってきておるのか?魔王の分際で気が利くではないか。さあ、全て私に寄越すがいい!」


 …………何を勘違いしてやがるんだよ。うっかり餌箱に触ってしまったときのペットの反応だよ、それ。

 あと、地天使の部下らしき天使も中に入ってっちゃったから良かったものの、簡単に「魔王」って単語出すのやめてほしい、ほんと。



 次は思いっきり張り倒そうと思ったが、なんとなくアリアはハリセン程度じゃ止まってくれない気がして、断念した。

 

自分のこと凡人って言っちゃってる魔王さんです。

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