第一話 帰還
“俺”は、ゆっくりと瞼を開けた。
そこは、重厚で厳格な空気の漂う大広間。ゲームで言うと、ラスボスあたりが鎮座ましましている、玉座の間といったところか。
……………俺はこの場所を、知っている…ような気がする。
既視感ってやつだろうか?初めての場所のはずなのに、違和感がない。なんだか懐かしい。
場所だけじゃなく、目の前に傅く大勢の……………
って、えええ⁉何?何だこの状況⁉
俺、死んだよな?死んだはずだよな?暴走車に思いっきり撥ね飛ばされて……
もしかして奇跡的に助かった?いやいやいやおかしいだろ。だったら病院にいるはずじゃね?
…あー、それとも夢?死ぬ前の幻、的な?
いや、ちょっと待て。夢って言えば、今さっきまで何か夢を見ていなかったか?
どこか懐かしい感じのする、誰かと話をしていたような気が………。
って言うか、目の前で跪くこいつらは一体……?
混乱してフリーズする俺の前に、跪いているうちの一人が一旦立ち上がり、一歩前へ進み出て、再び跪いた。
因みに、一度も俺の顔を見ようとしない。
そしてそいつは、頭を下げたまま、口を開いた。
「よくぞお戻り下さりました、陛下。我ら魔族一同、陛下のご帰還を信じ、お待ち申し上げておりました………!」
下を向いているせいで表情は分からないけど、感極まった声。
……………え…と、何だこのノリは。つかコイツ、今俺のこと“陛下”って呼んだ?“我ら魔族一同”って、どういうこと?
分からないことだらけで頭の中が疑問符で一杯だ。ここは一体何処で、何で俺は此処にいて、そしてこいつらは何者なんだ?
どう見たって、人間とは思えない。角の生えた奴、翼を持つ奴、跪いている状態でも三メートルはありそうな、岩のような体の奴もいる。
そしてその全員が、恭しく頭を垂れて跪いていた。
…俺に対して。
「お久しゅうございます、陛下。この二千年、我が身を封じお待ちしていた甲斐がありました。このギーヴレイ、再び御身にお仕え出来ること、無上の光栄に御座います」
慇懃な口調に隠しきれない喜びを滲ませて、目の前の男はそう続けた。
…………ギーヴレイ。俺はその名を知っている。そう、ギーヴレイ=メルディオス。俺の、かつての…………
そう、我のかつての側近。政において、我が最も信頼し、頼りにしていた僕……………………
いやいやいや、俺、今、何を思った?俺はこんな奴、知らないぞ!
………………あれ?それとも………いや、知っている……のか?
知っている………知らない………知って………………………いる。
「面を上げよ。……久しいな、ギーヴレイ」
無意識のうちに、そう声をかけていた。そしてその瞬間。
俺は、全てを思い出した。