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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
天界騒乱編
298/492

第二百九十二話 助っ人一揆?



 俺がグリューファスを連れて来たもんだから、“黎明の楔”副本部長のイアンは仰天していた。本部長だという冴えない風貌の男(今日初めて会った)も、やっぱり仰天…というか狼狽えていた。


 本来、裏ボスである風天使の存在を知るのは本部長と副本部長、そして各支部長だけらしい。彼の存在が外部に漏れてしまえば、組織そのものが存続出来なくなる。

 それなのに、新入りしかも暫定的な構成員でしかない俺がしれっとした顔でグリューファスを連れてきて、

「今からちょっと話すから誰も近付けないでね」とか宣ったもんだから、一体何が起こったのかと彼らをひどくヤキモキさせてしまったようだ。



 「……貴様は魔界の手の者だと言っていたな。他の者たちもそうなのか?」

 

 部屋に入る前、グリューファスが今までで一番の警戒を見せて尋ねてきた。魔族の中に一人放り込まれるのは、流石に怖いと見える。


 ……と言うか、さっき俺が怖がらせ過ぎたせいか。


 「ん?いや、魔族は一人だけ。あとは、廉族れんぞくが四人と、竜族が一人と、何て言ったらいいのか分からないのが一人」


 半人半剣であるキアをどう説明したらいいのか分からず、そんな妙な表現になってしまった。


 「……そうか。貴様が…いや、魔王が地上界に敵対するつもりがないというのは、本当らしいな」

 「さっきから言ってるだろ。今回の件は、全部地上界のためなんだってば」



 俺はグリューファスに念押しして、アルセリアたちの待つ部屋に彼を招き入れた。




 

 「ちょっと遅いじゃないのよ、一体何して……あ」


 部屋に入るなり俺に突っかかって来たアルセリアは、後ろにいるグリューファスに気付いて口ごもる。


 「…ひょっとして、その人が………風天使…さま?」


 相手が高位天使だということを思い出し、咄嗟に敬称を付け足してみたりなんかして。



 「ああ、とりあえず連れて来た。これから実務会議といこうぜ」


 

 ごく簡単に互いを紹介しあった後、俺は早速本題へと入った。



 「さっきの話の続きだけど、やっぱり協力してもらうのは難しいってことか?」


 グリューファスは、予想外にのんびりムードの部屋の中に戸惑いつつ(いきなり襲われるとか思ってたんだろうか)、俺の質問に頷いた。


 「少なくとも、汝らの期待している形では、難しいだろう」


 

 俺たちの期待している形…則ち、風天使がその権限を以てべへモス召喚を中断させるのは不可能だと彼は言う。

 だが、わざわざ彼がこんな表現をした、ということは。



 「別の形だったら、協力してもらえるってことですか?」

 「……………………」


 キアの質問に、黙り込むグリューファス。

 彼自身、まだ完全に納得したわけではないのだろう。


 だが、俺の…魔界の力を嫌という程見せつけられた後でなお、頑なな態度を取り続けるほど彼は無謀でも愚かでもない。


 「………我らの力が魔王に遠く及ばぬのであれば、天界のためにも戦は避けなければならない。それに必要であるというならば、出来うる限りの協力はしよう」


 苦虫を噛み潰したような表情でグリューファスが言うもんだから、アルセリアが何かを嗅ぎつけてしまった。



 「…ちょっとリュート。アンタまた何をやらかしたわけ?」


 完全に、俺を疑う視線である。

 失敬な、俺は間違ったことはしてないぞ。少しばかりこいつが石頭なのがいけないんだ。


 しかし、俺が返事をする前に、グリューファスが諦観の籠もった声で、


 「…私は、己が如何に小さく狭い世界で生きてきたかを思い知った。あのようなものを見せられてしまっては、今までの考えが浅はかだったと認めざるを得ない」


 と、首を振り振り呟いた。



 「…()()()()()……?。ねぇリュート。アンタやっぱりまたやらかしたわけね?」

 「え?いや!別に大したことはやってない、マジで。外に影響を与えるようなこともないし、何も問題はない!……はず」


 それに、多分アルセリアは俺の暴走を危惧しているんだろうけど、今回のは計算どおりの行動だったわけで、彼女の言い分(「やらかした」)は的外れである。

 


 そのとき、満面の笑みで口を挟んだのは黒猫エルニャスト。


 「なるほど。そこな天使に身の程をお教えになったのですね、流石はへい」


 すぱーーーーーん!


 俺は手近な冊子でエルニャストを張り倒して黙らせた。



 またこいつは、「陛下」って言おうとした!分かってるくせに言おうとした!

 ほんとに洒落にならないから、やめてほしい。



 いつもの調子で張っ倒したわけだけど、なにぶん現在のエルニャストはエルニャスト。小さな仔猫の姿である。勢いよくすっ飛ばされて、壁に激突して沈没。



 「ああ、エルにゃん!…ちょっとギル酷いじゃないか!」


 目を回すエルニャストを慌てて抱きかかえるキアだが、奴がすぐさま目を覚ましてその胸の感触を満喫していることに気付かない俺ではない。


 ……こいつ、後で覚えていやがれ。



 「…ゴホン。あー、話を戻すけど」


 俺たちにとってはいつもの遣り取りなのだが、クソ真面目なグリューファスにとってはちょっと不可思議な光景だったのだろう。警戒を忘れてぽかーんとしている。


 …このついでにもう少し胸襟を開いてもらいたいものだ。



 「出来うる限りの協力…つったな。具体的には?」

 「…この、“黎明の楔”に対する支援と同程度までなら可能だ。それ以上は、中央殿に…リュシオーンに嗅ぎ付けられる恐れが出てくる」


 ……レジスタンスと同程度…か。それは心強いんだかそうじゃないんだか、よく分からない。

 が、敵対されないだけでもマシと言えるか。



 「…んじゃ早速。べへモス召喚を邪魔する手段として月照石に目をつけてるんだけど」

 「……なるほど、良い着眼点だ」


 なんか褒められた。複雑な気分である。


 「べへモス召喚に仕えるような品質のは、大陸南西部でしか採れないんだよな?」

 「少量であれば他地域でも産出出来るが、計画どおりの量と質を兼ね揃えているのは南西リシャール地方だけだ」


 うん、シグルキアスの言ってたことは事実のようだ。あいつ結構使えるね、いけ好かないけど。


 「もう入手は終わってたり?」 

 「否。あれは地中より掘り出した瞬間から劣化が始まる。召喚儀式を万全にするためには、その直前に採掘・精製を終えた品でなければならない」


 …てことは、中央殿はまだ月照石を入手していないわけか。

 それなら、そのリシャール地方?に行ってなんとか採掘を邪魔してみればいいのかも。



 俺がそう提案するより前に、グリューファスは何かを思いついたように顔を上げた。


 「……そうか、その手があったか。……状況的に、丁度良いかもしれぬ」

 「?丁度良いって……何が?」


 いきなり一人で合点し始めたグリューファス。だけどこっちはよく分かっていないんだから、説明くらいしてほしい。



 「何か、妙案があるのですか?」


 ビビが促してくれた。因みにこういう場での彼女は、いかにも理知的な参謀って感じの顔をしている。その中身はポンコツ勇者の随行者に相応しい残念っぷりなのだが、それを知る者は少ない。



 「……うむ。以前より、リシャール地方を治める領主の横暴が、こちらにまで聞こえてきていた。中央殿とも強い縁故を持つその者の圧政に、領民たちは苦しんでいるという」

 「領主の圧政……天界にも、そういうことがあるんですね」


 勇者として地上界を広く旅していたアルセリアたちは、そういう不条理も多く目にしてきていたのだろう。かつては楽園だと思い込んでいた天界でも似たようなことがあると知り、少なからず失望の色が見えた。


 「私欲に走る者が権力を持てば、末端まで腐り堕ちる。…悲しいかな、それが摂理のようだ」


 グリューファスは悔しげにそう言うが、それでもそれに憤りを覚える彼らのような存在があれば、自浄能力はまだ機能不全を起こしてはいない。



 「で、お前としてもそこに介入しようと思っていた…とか?」

 「少なくとも、幾人か派遣するつもりではあった。状況を正確に把握し、必要であれば領民たちの蜂起を促すこともやぶさかではない」


 蜂起……武装蜂起か。

 こいつは、“黎明の楔”は、圧政に喘ぐ領民たちを焚き付けて一揆クーデターを起こさせるつもりなのか。


 なかなかどうしてえげつない遣り方ではあるが、正直なところ、俺たちにとっては渡りに船。


 「ってことは、俺たちがアンタに派遣されればいいってわけだな?」

 「………あまり気は乗らぬが…拒んでも、強行するつもりだろう?」


 おやおや、グリューファスさんてば分かっていらっしゃる。

 確かにその通り。ここまで聞いてしまった以上、彼が「お前らはここで大人しくしてらっしゃい」とか言ったところで、俺はそれを無視してリシャール地方へ行くつもりだ。



 ……一揆クーデターの幇助とか。

 …………ちょっと、面白そうじゃないか。不謹慎だけど。


 こういうとき、やっぱ自分は魔王なんだなーって実感。



 「よーし、決まり!じゃ、色々と裏工作は頼むよ、風天使サマ。計画の詳細は決まったら出来るだけ早く知らせてくれ。……で、問題は向こうへ行くメンバーなんだけど……」



 俺は、やけに大人しく話を聞いていた一行を見る。


 アルセリア、ビビ、ヒルダ、キア。アリアに、マナファリア、そしてエルニャスト。

 全員、無言で俺に圧力を掛けてきている。「置いてったりしたら、承知しねーぞ」って顔だ。



 ……うーん…出来れば誰か一人か二人は、ここに残ってもらいたいんだけど……

 けど、誰を置いていっても一悶着ありそう…というか、色々と心配が絶えない。


 それに……リシャール地方は、ここからだいぶ離れている。今までグリューファスがなかなか動けなかったのも、その距離ゆえだ。

 出来れば、こいつらからあまり目を離したくない、というのが本音だ。


 いくら“ゲート”を使えば一瞬で行き来出来るとは言っても、現に俺はサン・エイルヴで勇者一行を見失っている。



 ……あんなのは、もう二度と御免だ。



 「分かった。今回は全員で行くとしよう」


 総勢八名の大所帯である。正直、制御出来るか心配だったりもするが……



 こいつらだって子供じゃないんだし、きっと大丈夫だろう。俺の目を盗んで要らんことやらかしたり、俺の忠告を無視して好き勝手行動したりなんて、そんな馬鹿な真似はしないに決まってる。



 …………………。

 ……………………?



 …………しまった、今何か、フラグを立ててしまったような気が……!

 

 い、いやいや、気のせいだ、気のせいということにしておこう。

一揆をクーデターと呼んでしまって良いのかふと気になりました。

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