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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
天界騒乱編
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第二百八十八話 大事な話ほどどうでもいいことのように話したくなることってないだろうか。




 初日にしては、それなりの収穫だったと思う。

 中央殿からシグルキアスの屋敷に帰って来た俺は、確かな手ごたえを感じていた。

 明日は月照石についてもう少し調べてみよう。


 そう思いながら、自室へと戻ったのだが。



 「お帰りなさいませ、リュートさま。お食事になさいますか?それともご入浴を?それとも……」

 「はいストップ」


 俺は、マナファリアが姫巫女として清らかな身であり続けられるよう、出迎えた彼女の口上を途中で遮った。と言うかなんとなく、こういうパターンは見えていた。



 肝心な部分を妨げられてしまったマナファリアはしかし、全く気にすることなくニコニコしている。こいつのそんなところが何か怖い。



 「あらリュートさん。随分と姫巫女と気心知れた間柄になってらっしゃるのですね」


 ビビの視線はもっと怖い。何でか知らんが、最近ビビとマナファリアが静かに戦いを繰り広げているような気がする。


 ただし、ビビに関してはある程度察しているようだ…色々と。



 「気心って……そう見えるか?」

 「さあ、どうでしょう?」


 とか嘯く様子から、まだ俺に猶予は残されているのだと分かる。


 まあ…事実、俺とマナファリアの間には本当に何もないのだけど。

 しかしこれがアルセリアとかヒルダだったら、事実がどうであれ絶対目くじらを立てるのだ。俺は何も悪くないのに、全ての責を俺に負わせてくるのだ。


 そこのところ、とことん合理主義かつ現実主義のビビなのでまだ助かっている。

 勿論、


 「しかし陛下はあの娘に対し勇者殿とはまた違った扱いを見せてらっしゃいますよね」


 そう言って俺を追い詰めようと画策するエルニャストの存在も無視出来ないが。

 

 俺は奴をジロリと睨み付けるが、既に猫姿なためかまるで臆する気配がないところがムカつく。

 最初に猫にされたときはあんなに狼狽してたくせに。



 「エルネスト……お前、猫にも慣れてきた頃だよな?」

 だから、少し意地悪をしたくなる。

 

 「え?いえいえ、いえ、これでなかなか猫も大変で……」

 「そろそろ違う姿も試してみるか?…そうだなぁ、………タガメとナナフシ、どっちがいい?」

 「こここ昆虫はご勘弁下さい!!」



 エルニャストの奴、慌てて足元にすり寄ってきやがる。まったく、いつもこんな風に可愛げがあればいいのに。



 まあ、エルネストのおイタに関しては、今度ルガイアに言いつけてやろう。俺が言うより兄貴に叱られた方がこいつには堪えるみたいだから。


 ……そう考えるとちょっと自分が情けない。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 「それで、何か分かりましたか?」


 夕飯後、俺の部屋(シグルキアスはきちんと一人一部屋あてがってくれている。が、エルニャストは猫なので俺と同室だ)に集まって、定例会議。


 …と言っても積極的に参加してくれるのはビビくらいなんだけど。


 

 「ああ、とりあえず一つ、手がかりを掴んだ。べへモス召喚に必要な触媒なんだが、月照石っていうらしい。中央殿がそいつを入手できないようにしちまえば、召喚儀式も進められない」

 「入手できないように…とは、どうするんですか?片っ端から盗み出すわけにもいきませんよね」


 ビビはズバリと突いてくる。確かにそれは問題だ。

 必要量が膨大になる予定なので(なにしろべへモス五十体分)、調達するのも一苦労ではあるだろう。しかし、中央殿が何のアテもなく計画を進めるはずもない。


 既に必要量は確保済みかもしれないし、そうでなくても確実に採掘できる目途はついていると考えた方がいい。



 「少なくとも、そこいらに流通してる代物ではないそうだ。後は、もう少し探ってみる」


 中央殿に在庫があるなら、全部ただの石ころに変えてやる。が、そうでなければ採掘現場に行って工作する必要も出てくるかも。



 「エルネスト、トルテノ・タウンの方はどうだった?」


 エルニャストは猫の姿を利用して、ここと“黎明の楔”本部との間を行き来して情報を運んでいる。猫の足だとちょっと厳しい距離かもしれないが、魔王の側近なんだからそのくらい我慢してくれ。


 「はい、現在は目立った動きはございません。勇者殿たちも随分と退屈なさってるようですよ」

 「あーーーー、まあ、そうだろうな。あいつら変に騒ぎを起こさなきゃいいけど」


 脳筋B班のストレスが少し心配。別にあいつらは好戦的というわけではないが、黙ってジッとしているのは間違いなく苦手だ。あまり退屈が過ぎると妙なことに首を突っ込みそうな気がする。


 「くれぐれも軽挙妄動は避けるように伝えておきます。あ、それと…」


 エルニャストは、ついでに思い出した、みたいな感じで


 「あちらで、かなりの高位天使を見かけたのですが……」

 「ん?ああ、陰気な顔をした藍色の髪の男だろ?」


 エルニャストから見て「かなりの高位」と表現される天使と言えば、想像はつく。


 「はい。その者がいたのはほんの僅かな間だけで、すぐに立ち去ってしまったのですが…」

 「気にすんな。そいつは“黎明の楔”の裏ボスだから」


 風天使グリューファス。天使に似合わず根暗そうな顔の奴だったなー。



 「……承知いたしました、気にしないようには致します。……向こうは私に気付いていたようですが」

 「……………なぬ?」

 「いえ、ですから、私の正体に気付いていたようです」



 …………………!?



 「正体に…って、お前……魔族ってバレてる!?」

 「は……疑われてる…程度かとは思いますが………気にしないように致しますね」

 「いやいやいやいやいや、そこは気にしろ!つーかそういうことは早く言え!!」


 なんでそんな重要なことをついでみたいに言うんだよ!絶対狙ってるだろこいつ。



 えーーーー、それヤバくない?

 エルニャストの姿は央天使の権能ファクルトゥスによって変化させられている。同等の存在である風天使がそれを看破…まではいかなくても違和感を抱くのは有り得なくもない。


 気のせいってことで済ませてくれる相手ならいいが、第一印象ではかなり警戒心の強い奴に見えた。変に勘ぐってアルセリアたちとの会話を盗み聞きされたりしたら、ちょーーっとめんどいことになりそう。



 俺たちはあくまで、地上界のため、べへモス召喚阻止のため、天界にやってきた廉族れんぞくなのだ。そこに魔族が紛れ込んでいたりしたら、どう言い訳をすればいいのやら。



 「……で、向こうから何か言ってきたりは……?」

 「特にはございませんでした。非常に胡散臭そうな目で見つめられたくらいでしょうか」


 ……やばいやばいやばーーい。

 これは早急に手を打たないと。

 


 「………エルネスト、とりあえずお前、しばらくの間あっちには行かないように」

 「は、承知致しました」



 予想外のところから問題が発生してしまった。もうほんと、何でこうも次から次へと面倒ごとが……


 これはアレか?日頃の行いが悪いとか、そういうこと?


 

 ……俺、もう少し品行方正な魔王を心掛けた方がいいのだろうか。

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