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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
天界騒乱編
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第二百八十五話 子供の頃の遊びにはやるせない記憶が伴っているような気がする。




 ようやく、好機が巡って来た。

 ……と言うのは少々大げさな表現だったか。


 シグルキアスの休暇が終わったのである。



 もともと、神笏の一件が片付いて、その収拾に尽力したということでしばらく休みを貰っていたらしい。

 で、その休暇も終わり、そろそろ評議長選挙だということで、シグルキアスは今日から出勤である。


 当然、俺も付いていく。



 「あの、リュートさん…いいんですか?その、中央殿の高官たちはプライドの塊ですから、嫌な思いをするかもしれませんよ?」


 廉族れんぞくである俺が馬鹿にされたり喧嘩売られたりする可能性を心配してくれるシグルキアス。俺を心配してるのか相手を心配してるのかは知らん。



 「だーいじょうぶっスよご主人さま。秘書たる者、主を手伝わなくてどーします」

 「え、あ……はいそうですね……」


 …と、シグルキアスも俺が同行することを快諾してくれたので、遠慮なく付いていく。

 堂々と、かつ穏便に中央殿に入り込めるのだから、願ってもないチャンスだ。



 

 初めて見る中央殿は、想像以上に大きかった。

 殿…っていうくらいだから、神殿みたいなのを想像していたのだが、どちらかと言うと城に近い。


 まあ、四皇天使クァティーリエという王が治める城…と考えれば、納得もいく。



 「その……リュート…さんは、私の秘書ということなのですから、よろしく頼みま…」

 「勿論でございます当主さま。何かございましたらお申しつけ下さい(キリッ)」

 「………あ、はい…お願いします」


 

 ウェイルード家のお仕着せを纏い、表情と態度だけは忠実な秘書を装って、俺はシグルキアスの一歩後ろを歩く。

 すれ違う他の高官たちがシグルキアスに挨拶をし、後ろの俺に…廉族れんぞくの姿に驚いて、けど「あーそういうことね」みたいな感じで勝手に合点して歩き去って行く。


 変にキョドキョドするよりも、私は秘書ですけど何か?くらい堂々としていた方が不自然じゃないようだ。



 「ええと、それじゃあ私は仕事にかかりますが……」


 自分の執務室に着いて、早速シグルキアスは机の前に座った。既に机の上には、何やら大量の書類が積み上げてある。


 …魔界での書類デスマーチを思い出してしまった。



 「その、リュートさんは好きに過ごしていて」

 「お手伝いいたします」


 手伝わせろよ、仕事。ここでこいつの執務室に引き籠ってたって、意味ないじゃねーか。


 再びじろりと睨み付けると、彼も俺の言いたいことを察してくれた(?)みたいだ。



 「え、あの、ええと……それじゃあ、書庫から取っていただきたい資料が……ああいいえすみません自分で行きます!!」


 ……なんでこいつはこう、勝手に怯えて勝手に結論付けるんだ?断るはずないだろ。

 堂々と中央殿をウロつけるまたとない好機なんだから。



 「いいえ、そのような雑務こそ秘書の仕事でございます。それでは、少々お待ちくださいませ」


 ()()()()()()()が果たして秘書の仕事なのだろうか。そのあたり、秘書っていう職務について何の知識もないのでよく分からない。


 が、こういうのって、道に迷ったていで色んなところに行くのに好都合である。

 俺は慇懃に一礼すると、シグルキアスがまたぞろ面倒なことを言い出す前に執務室を出た。



 さってなー、どこ行こっかなー。

 奴さんの求めてる資料ってのは、ひととおり中央殿ここを散策…じゃなかった偵察してからでいいよねー。



 時折、幾人かの天使とすれ違う。中には顔を顰める者や興味津々に不躾な視線を向けてくる者もいるが、思ってたような絡まれ方はしなかった。

 高位天使ともなれば酒場の酔っ払いとは違うのか、或いはウェイルード家のお仕着せが威力を発揮しているのか。


 ちょっと拍子抜けでつまらない気もするけど、ここでトラブルを起こして出禁を食らったりしたらシャレにならないので、ウェイルード家の家名には感謝してやるとしよう。



 シグルキアスは、天界の最高執政機関である中央殿の中でも、四皇天使クァティーリエに次ぐ執政官。その執務室は、中枢に近いところにある。


 まずは……べへモス召喚の責任者とその詳細を探るか。敵を知らなければ戦は出来ないからな。

 

 しかし、問題が一つ。



 ……そういうのって、どうやって調べればいいんだろう…?


 

 まさか手当たり次第にそこいらの天使をひっ捕まえて、「べへモス召喚の責任者って誰ですか?」とか聞いて回るわけにもいくまい。どんだけ開き直った不審者だよ。


 うーん……やっぱ書庫とかに行ってみるかな。幻獣召喚や地上界に関する資料の閲覧記録とか調べてみれば何か分かるかも。


 それと、幻獣召喚の手順プロセスが分かれば(って俺は知らないのである)手がかりにもなるだろうし。



 ……よし、しばらく書庫に籠るか。



 そう思い、俺は書庫を目指すことにしたのだが。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 中央殿には、書庫と呼ばれる場所がいくつかある。

 

 例えば、第一書庫。ここは天界でも最も貴重かつ稀少かつ重要な書物・資料が収められている。具体的には、創世神関連や、天地大戦時の記録、天界の最重要機密…など。

 ここを利用出来るのは、第三位階以上の天使のみ。

 

 第二書庫は、天界に関する各種資料(最重要機密除く)が、第三書庫はそれ以外の時空界…地上界や魔界の資料が収められていて、利用出来るのは第五位階以上の天使及びその委任を受けた者である。


 第四書庫は、術式保管庫。神法やら魔導やらあらゆる術式が記録・保存されている。ここの利用者権限は、第三位階以上の天使及びその委任を受けた者で、貸出に限っては委任は認められていない。



 となると、俺が行くべきは第四書庫。もしかしたら、べへモス召喚計画に関しては第一書庫に何か記録があるかもしれないが、俺では中に立ち入ることも出来ない。

 

 第三位階以上の天使なら利用権限を持っているので、シグルキアスならOKなんだけど……流石に、べへモス召喚を阻止したいからその資料を持ってきてくれ…なんて、執政官である奴に言えるはずがないし。


 第四書庫であれば、士天使であるシグルキアスの委任を受けたというていで俺でも利用出来るし、本当はシグルキアスが言っていた「取ってきてほしい資料」ってのは第二書庫にあるんだろうけど、間違えたフリをして入り込んでやろう。


 

 確か、第四書庫は別棟にあるはず。扱いがデリケートな術式も保管されているので、万が一の暴発に備えてのこと…らしい。



 シグルキアスの執務室がある三階中央棟から、別棟に行くために一旦一階へ降りる。そこから渡り廊下を通っていけばいいはずなんだけど……




 「ねぇねぇ、おにーさん」


 …………ん?

 声がした。呼ばれたのは…俺か?


 声をした方を振り向いたが……誰もいない。


 あれ?気のせいだったか……確かに声がしたような気がしたんだけどなー…。


 「ねぇねぇ、おにーさんってば」


 ……別の方角から、また。

 やっぱり、呼ばれてる。


 けど、そっちを向いても……誰もいない。


 「おにーさん、こっちだよ」


 次はまた別の方角から声が呼びかけるのだが……やっぱり誰もいないじゃないか。


 「どうしたの、こっちだよおにーさん」


 クスクスという含み笑いと共に、声はさらに呼びかけてくる。の、だが。



 ……ええい、面倒くさい。

 用があるなら姿を見せやがれ。用がないなら呼び止めるな。

 こちとら、子供の遊びに付き合ってる暇はないのである。



 俺は、声を無視して先へ進むことにした。



 「あれ?あれれ?どこ行くのおにーさん?ねぇ、おにーさんってば」


 声が少し慌てた調子になるが、知ったことか。俺はからかわれるのが嫌いなんだよ。

 子供の声っぽいし、多分どこかの子供が紛れ込んだりしたんだろう。そのうちここの連中に見つかってつまみ出されるだろうから、それまで一人で遊んでろっての。



 「ちょっとちょっと、少しくらい付き合ってくれてもいいじゃないのさー!」


 ほんの僅かに泣き声っぽさが混じり始めたが、それも無視して歩き続けていると。



 がし。


 背後から、腰のあたりに何かがしがみついた。

 重量的には、ヒルダと同じか少し軽いくらい。



 ゆっくりと振り返ると、少女が俺を必死に引き留めようとしているところだった。



 「やだー、なんで無視すんのさー?ひどいよぉ」


 年齢は…ヒルダより少し下か…と言っても外見年齢は…だけど。

 若草色の髪に、真紅の瞳。少年のような快活さを持つ、少女天使だ。



 「なんでと言われましても……姿を見せなかったのはそちらでしょう?」


 年齢的には俺の方がずっと上なのだが、こちらは一応廉族れんぞくということになってるし、相手は天使族。もしかしたら中央殿ここで働いている者の関係者という可能性もあるので、一応は敬語を使っておくことにしよう。



 「だーって、探してくれると思ったんだもん」


 不貞腐れて言う少女。とても表情が豊かだ。そして全身から、いたずらっ子オーラを放ちまくっている。

 ……付き合うと疲れるタイプと見た。



 「…すみませんが、急いでいますのでこれで失礼します」

 「ねぇねぇ、おにーさん廉族れんぞくだよね?なんでここにいるの?ここで何してるの?」


 少女は無邪気に尋ねてくる。他意はないのだろうが、だからこそ核心を突いた質問に、一瞬答えに詰まってしまう。


 「……俺は、士天使シグルキアスさまの秘書をして…」

 「ねぇねぇ、遊ぼうよ!」



 ………この子供ガキ、人の話を聞きやがれ。



 「…急いでいるんですけど?」

 「なんで?いーじゃん。シグルキアスなんて放っておけばさ」



 …………こいつ、シグルキアスのことを呼び捨てにした?


 ただの礼儀知らずのガキか、はたまた……………



 「それじゃ、最初はかくれんぼね!あたしが隠れるから、おにーさん見つけてよ?」


 俺が考え込んでいるうちに、少女は勝手に遊びに巻き込んできた。


 「え、いや、だから急いでいるって…」

 「はい、目をつぶって!10数えて!」

 「え、あ、いーち、にーい、さーん……」



 矢継ぎ早に言われ、思わずペースに呑まれてしまった。

 なんとなくそのまま10数えて目を開けると、少女の姿は見えなくなっていた。



 ……えー…これ、どうしよう?

 俺、無視して先行っていいよね?

 だって、遊ぶなんて一言も言ってないし………



 けど、俺がこのまま書庫へ向かったら、あの少女は誰も見つけに来てくれない中ひたすら隠れ続けるのだろうか…放置されたことに気付くまで。



 一瞬、幼い頃の記憶が蘇った。

 あれは小学校…いや、保育園の頃か、桜庭少年は同級生とかくれんぼをして遊んでいた。


 あまりに昔のことなのではっきりは覚えていないけど、すごく良い隠れ場所を見つけた記憶がある。

 俺は嬉々としてそこに身を隠し、友人が必死に探し回るさまを想像してほくそ笑んでいた。


 ……が、結論から言えば誰も見つけに来なかった。


 俺があまりに上手に隠れ過ぎたために鬼役の子が探すのに飽きてしまい、そのうち俺を抜きにして他の友人たちとゲームをやりに自宅へ帰ってしまったのだ。


 桜庭少年は、日が暮れるまで待ち続けた。

 帰宅しない息子を心配した両親を中心にご近所捜索隊が結成され、とうとう隣の雷オジサンに発見された俺はこっぴどく叱られた。


 そしてその後残酷な事実…友人たちは自分を放置して別の遊びに興じていた…を知り、恥ずかしさと悔しさと情けなさに一人涙した桜庭少年であった。




 未だに、あの何とも言えない気持ちは覚えている。

 俺がここで無視してしまえば、あの少女も同じ気持ちを味わうことになるのか。


 

 ……それはなんだか、良心が痛む。



 ………仕方ないなー。一度だけ、一度だけ付き合ってやるとしよう。シグルキアスなんて放っておけばいいってのは同感だし、まだ時間はあることだし。

 

 子供を泣かせるのは、信条に反する。

 ……決して、ロリ根性ではない。



 何故ならば、俺はシスコンではあるがロリコンではないからである。

ただ今釣り行から帰ってきました。浜名湖でLSJ。ボウズでした。1時出発で夜通し頑張ったのに。

これから寝ますおやすみなさい。

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