第二十二話 魔王の戦いは、これからだ?
どこからか、虫の鳴く声。
窓からは、月明かりがベールのように柔らかく部屋に注ぎ込んでいる。
時折、風が木々を揺らす音が、心地よく耳をくすぐる。
穏やかな夜。
俺は、絶体絶命の危機に陥っていた。
「ちょっとビビ、狭いんだからもうちょっと詰めてよ」
「もうこれ以上は無理です。私が落ちてしまうじゃないですか」
俺の右では、アルセリアとベアトリクスが地味なせめぎ合いを繰り広げている。
「お兄ちゃん、あったかい」
俺の左では、ヒルダが俺にべったりとひっついている。
天国と地獄は、もしかしたら同じものなのかもしれない。
ただ、視点が異なるだけで。
ならば、今俺がいるこの状況も、考えようによっては、天国と言えるのでは……?
見た目だけは美少女な三人組と一つのベッドに横たわり、俺は自分にそう言い聞かせる。物は考えよう、心頭滅却すれば火もまた涼し、ならぬ堪忍するが堪忍、下手の考え休むに似たり、据え膳食わぬは………あ、これは違うか。
「もう一度言っておくけど、妙なことしたら切り落とすからね」
だから怖いって。何を切り落とすつもりだよ。
「はいはい、分かったから横で騒がないでくれ」
溜息しか出ない。どうしてこんなことになってしまったのか。何がいけなかったのか。どこで間違えてしまったのか。
シチュエーション的には世の男性全てのジェラシーを一身に受けてしまいそうだが、もしそんな奴がここに現れたら喜んでこの権利を献呈しよう。
にしても、こいつらには羞恥心というものはないのか?それとも……
もしや、男性と同衾するのは、これが初めてではない………………!?
いやいや、彼女らもお年頃だし、勇者だからって処女性が求められるわけではない…と思う…し、誰と誰が親密にお付き合いしようが俺の知ったことじゃないし、別にその程度大したことじゃないし……
「お前ら、ひょっとしてしょっちゅうこんなことしてんのか?」
だからつい尋ねてしまったのも、深い意味なんてないんだ。
「は?何言ってんのよ。そんなはずないじゃない」
だから、その答えに安堵する理由なんて、あるはずないんだ。
そうだ。俺は“魔王”で、こいつらは“勇者”。今は休戦状態だけど、いずれは敵になる相手なんだから。
しっかりしろ、俺。多分こいつらは悪ふざけが過ぎただけで、もしかしたら俺を困らせて楽しんでるのかもしれない。或いは弱みを握れるとでも。
そうはいくものか。そう、これは彼女らと俺の戦いなのだ。
そして俺は、負けるわけにはいかない。
決して、負けるわけにはいかないのだ。
リュートくんはヘタレではありません。紳士なだけです。…多分。




