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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
成長と前進編
229/492

第二百二十三話 叛乱



 


 「お待ちしておりました、陛下」

 魔王城の執務室へ戻ると、すかさずギーヴレイが傅いた。

 その緊迫した様子から、事態はあまり軽くないのだと想像する。


 「状況は」

 「は。南部ルルゥク州にて、亜種懐古派が武装蜂起いたしました。この二日で、カザック、エンドラ両州を制圧し、現在はケーナ自治領にて南部方面軍と膠着状態にあります」


 淀みなく答えるギーヴレイ。

 

 だが……膠着状態…か。


 ……妙だな。軍が出て、それで膠着状態って。

 蜂起直後は虚を突かれることもあるだろうが、正規軍さえ出てしまえば反乱軍など敵にすらならない…はず。


 俺の疑念を察し、ギーヴレイが付け加えた。



 「連中は、全面交戦を避けているようです。ケーナ自治領の原生林にて、小規模な部隊を多数、個別に展開し、我が軍に対し奇襲と撤退を繰り返しております」


 「………なるほど、ゲリラ戦…ということか」

 「陛下…ゲリラ戦…とは?」



 破壊衝動が大きく揃いも揃って戦闘狂である魔族は、戦において策を練るとか駆け引きするとか、そういった手に疎い。戦略だの戦術だのいうよりも、真っ向勝負で力押し…というのがその戦闘スタイルだ。


 天地大戦において地上界が魔族の侵攻をそれなりに食い止められたのも、そのためだ。

 力で劣る廉族れんぞくたちが策を弄し絡め手で攻めてくるのに対し、魔族の戦い方は非常に単純。



 ……それが、今までの認識だった。


 だが、その考えは改めなければならないようだ。


 その変化が、魔王の不在で生じたものなのか或いは何者かの入れ知恵なのかは分からない。

 ゲリラ戦を展開されると、純粋な兵力だけでは勝敗が読めなくなる。


 ……厄介だな。

 いっそ、枯葉剤作戦とか…いっちゃう?


 ……いやいやいやいや、それは駄目だな。俺的に、それはナシだ。



 それにしても、こう次から次へとトラブルが続くとちょっと疲れる。叛乱なんてちゃちゃっと片付けて、また温泉にでも行きたいもんだ。


 ……それには、さっさと終わらせる必要があるな。



 「……亜種懐古派…か。今の指導者は誰だったか」

 「グィネヴィア=ハズラム。竜魔族の頭領です」


 ……竜魔族。文字どおり、竜と酷似した外見が特徴の魔族の亜種だ。とは言え、生物学的に竜とは別種とされている。頑健な肉体と膂力を持ち、魔導戦よりも肉弾戦を得意としている連中だ。

 因みに、六武王の一人であるルクレティウスも竜魔族だったりする。



 で、亜種懐古派ってのは竜魔族やら獣魔族やら妖魔族やらの亜種たちの一大派閥。

 俺が魔界を統一する前は、純魔族と亜魔族とは互いに対立していた。懐古派連中はその頃に回帰したいと、独立性を求めてちょいちょい騒ぎを起こしていたりしたのだが。


 ……武装蜂起と呼べるほどの規模は、初めてである。

 魔王おれが復活した時点で、そんなことをしても無駄だと分かりそうなものなのに…何故今になって叛乱なんて起こしたのだろうか。



 「……ケーナ自治領は、獣魔族たちの本拠だったな」

 「左様でございます」


 

 ……うーん。獣魔族は特に機動性に優れている。地元の原生林でゲリラやるにはうってつけの兵力。

 これは一筋縄ではいかなさそうな予感。



 ……仕方ない、俺が出るか。

 俺は、ギーヴレイに命じて武王たちを招集させた。





 俺の命に応じ、玉座の間に、六武王全員が揃う。暫定武王であるイオニセスも一緒だ。


 「お前たちに集まってもらったのは他でもない、愚かにも我が支配を拒む者共に与える裁きについて…だ」


 傅く武王たちを見渡して、俺は少しばかり思案。

 さてはて、誰を連れて行こうか。



 実は、魔界において俺の直属軍というものは存在しない。

 その理由は単純。必要ないからだ。

 俺が直接動かせるのは、隠密部隊である“戸裏の蜘蛛アラクニール”だけで、近衛部隊のようなものもなかったりする。


 なので、俺が戦場へ出向くにしても、誰か武王とその軍を伴うのが通例なのだ。


 ……まあ、俺一人が行って片付けてくるって手もあるしその方が早い気もするが、それは好ましくないと、ギーヴレイだけじゃなくて他の面々からも大反対されまくるので諦める。



 そうだなー。

 ギーヴレイには俺の留守を任せたいし、主力であるルクレティウスも魔都防衛に回したい。ゲリラ戦となれば、ディアルディオよりもアスターシャの方が使い勝手がいいか……。


 ……フォルディクスはどうしよう。

 本音を言うと、あまり連れて行きたくない。何を考えているのかさっぱりな上、現在の俺に良い印象を抱いていないことは確かで、連れて行ったとして、俺が気まずい空気に耐えられるか自信がない。


 ………けど、考えようによっては良い機会なのかも。腹を割って話し合えるだろうし、何より、彼が求める「冷酷無比の魔王」の姿を見せるにはうってつけの舞台。


 気まずいのが嫌だとか、そんな子供じみた考えで臣下を選り好みするのは主失格だよな。


 ……よし。



 「此度は、我が出ることとする。共に向かうのは、お前だ、フォルディクス」


 俺の指名に、当のフォルディクスと事情を知らないイオニセス以外の武王が皆、驚いた表情を見せた。

 まあ、順当にいけばアスターシャあたりを連れて行くのが自然なので、なんでまた折り合い悪い奴を…ってとこかな。


 で、フォルディクス本人は、至って平静。

 嫌がる素振りも喜ぶ素振りも見せずに、ただ恭しく頭を垂れた。


 「…御意」


 短い返答の中では、彼の内心を窺い知ることは出来ない。


 「それと、イオニセス、お前もだ。武王の何たるかを知る良い機会となるだろう」

 「……承知いたしました」


 こちらは、少し躊躇を見せた。まだ武王の任に納得はしていないのか。



 「今回の武装蜂起が、陽動という可能性も捨てきれない。ギーヴレイよ、イルディスを含め他地域への警戒も怠るな。軍の展開はお前に任せる」

 「は。お任せください」


 …偉そうに命令してみたけど、多分ギーヴレイは俺に言われるまでもなく考えてるよね。

 下手に口を出すより、全部お任せにしてしまった方が間違いないんだよなー。



 「出兵は明後日。縮域魔法ではなく、我が“ゲート”にて直接ケーナ自治領に近接したアルドヴァ州へ向かう」


 ギーヴレイが武王軍を即応状態に置いておいてくれたおかげで、タイムロスなく動けるのはありがたい。

 こういうのは、時間をかけるほど面倒な状況になっていくからな。



 後のこと…出兵準備やら何やら…はギーヴレイとフォルディクスに丸投げして、俺は玉座の間を後にする。


 執務室へ戻る最中、ディアルディオが俺を追いかけてきた。


 「陛下、よろしいですか?」

 「……何だ?」


 足を止めると、ディアルディオは少し声を潜めて。



 「……その、陛下のご差配に異を唱えるわけではないんですけど……いいんですか、その……」

 「フォルディクスを伴うことが、か?」


 言いにくそうなので代わりに言ってやると、ディアルディオは素直に頷いた。


 「こんなこと申し上げるのは何ですが……フォルディクスの、最近の陛下に対する振舞いは、見ていて目に余ります。何か、良からぬことを企むことだってあるかもしれないし……」



 こんなことを俺に直接言うのはディアルディオくらいだ。

 それは則ち、俺の判断に疑問を持っているということで、それを表明するというのは不敬と取られてもおかしくない行為。


 現に、ギーヴレイたちも同じことを考えただろうが、特に反論してくることはなかった。


 ……まあ、ギーヴレイあたりなら後で確認くらいしてくるだろうけど。



 しかし、ディアルディオの行為は、素直に俺を心配する気持ちから来ているものだと分かるので、それを責める気にはならない。

 

 「案ずるな、それを確認するためでもある」

 「……では…」

 「ああ。我とて、彼奴あやつを信じたい気持ちはある。が、彼奴自身の振舞いはそれを拒絶しているも同然のもの。ならば、目の届かない場所へ放置するよりも、我が手綱を握っていたほうが何かと安心出来るのでな」


 武王が四人も残るわけだし、フォルディクスを残して行っても心配は要らないと思う。が、それよりも俺が目の前にいた方が確実だろう。

 仮に……考えたくないことだけど……フォルディクスが俺に背を向けた場合でも、俺ならば問題ない。下手に武王同士の衝突が起きるよりは、よっぽど穏便に処理することが可能だ。


 それに、俺に対して彼が反感を抱いているのは確かだが、その反感が叛意に繋がるとは限らない。今の内に歩み寄ることが出来れば、それが一番じゃないか。



 まあ、どのみち気まずい空気には耐えなくちゃならないわけだけど。

 そこは、俺の蒔いた種でもあるので、ガマンガマン。



 「……分かりました。それが陛下のお考えなら、従います。出過ぎた真似をして、申し訳ありませんでした」


 頭を下げるディアルディオ。なんだコイツ可愛いな。


 「構わぬ。我を案じてくれているのだろう?」

 「……はい。あの、陛下、お気をつけてくださいね」



 ……ディアルディオの、他の武王には見られない心配性ってのはアレか、リュウト=サクラバを知っているからか?

 結構情けないところ見せてしまったせいで、「何か放っておくと心配な奴」って思われたりして。



 ギーヴレイたちが見せてくれる無条件の信頼というのも心地いいが、純粋に心配されるというのも悪くない。なんだか、昔よりも彼らとの距離が近くなったような気がするから。



 「……分かった。我の留守中、お前たちも用心しておけ。最近はどうも天界がキナ臭い。もしものことがあった場合、お前の力を頼りにしているぞ」


 「は、はい!光栄です!!」



 嬉しそうな表情のディアルディオを見て、本当はもっと早く()()するべきだったのだと、俺は二千年前の自分に説教をしたくなった。

 

ぼちぼち、キナ臭くなってきました。



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