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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
成長と前進編
208/492

第二百二話 幻の島




 

 ギーコ、ギーコ。


 船を漕ぐのって、地味な作業である。

 しかも、地味なくせに気付くと進路がいつのまにか変わってたりして、油断ならないし。


 

 「ちょちょ、ちょっとリュート!」


 しかも、湖と違って海の場合、風だけじゃなくて潮流にまで気を付けなきゃいけないし。案外神経使うんだよなー。



 「ギル!エルにゃんが、エルにゃんが飛ばされそう!!」



 …そういや、船に乗るのなんてどれだけぶりだろう?

 昔、釣りはちょいちょいやってたんだけど、ショアジギメインだったんだよな。オフショアは何かと金が掛かるし。

 せめて沖堤には渡ってみたいから、将来的に小型船舶の免許でも取ろうかと思ったことはあるけど。

 

 

 「す…少しは加減しなさいよ、大人げない!!」

 「エルにゃん、爪立てないで!ちゃんと捕まえといてあげるから!痛いから!」




 「…お前ら、くっちゃべってると舌噛むぞ?」


 俺は、何やら騒がしい二人に忠告する。


 「舌噛むようなスピードの手漕ぎボートって、おかしいでしょどうなってんのよ!?」

 「ほんとに手漕ぎなんだよね?手で漕いでるんだよね?」



 ……二人は、目を白黒させている。


 無理もない。俺の漕ぐ船は今、ボートレースかよって猛スピードで大海原を一直線に突き進んでいるのだ。



 そう、ちょっと、ズルさせてもらった。


 出来ることなら、地上界にいる間は……勇者の補佐役として行動している間は、リュウト=サクラバとしての行動を心掛けたいと常々思っているのだが。


 キアとアルセリアの無茶ぶりにちょっぴりキレて、少しだけ自分への制約を無視させてもらった。



 細工したのは、この近辺の潮の流れと、船のオール。

 大規模に潮流を操作すると異常気象が発生したりするので、ごくごく限定的に、流れを弱めてある。勿論、通り過ぎた場所の流れはちゃんと元に戻しておく。

 で、“霊脈ライン”と繋がったオールは、一漕ぎでヒドラジン燃料顔負けの爆発的な推進力を生みだす。


 この分なら、楽勝で目的海域に到着出来そうだ。



 「………ねぇ、ちょっと……気持ち悪い…かも」 

 「ちょ…アルシー、やめてよね、狭いんだから!出すなら船の外にしてよ!」

 「ん…にゃぁあぁ~~」

 「え、エルにゃんまで!?」


 何だよ何だよ、ひとに労働押し付けといて、船酔いとは余裕じゃないか。

 どうせ海の上にいる以上は揺れるんだから、諦めろ。酔っても止まってやらないからな。



 「……何ムキになってんのよリュート……」

 「そうだよ大人げないよギル……」

 「んにゃにゃ……にゃにゃ………」


 ふんだ。ムキになんかなってないっつの。

 俺は断じて、平常運航なのである。



 

 

 そんなこんなで船を漕ぎ続け、体感的には二、三時間ほどたった頃だろうか。

 海の上にゴツゴツした岩が頭を覗かせているのを見付けた。


 

 「……岩礁地帯って、ここのことか…?」

 岩は、一つや二つではない。照り付ける日差しの反射のせいで海中はよく見えないが、水の下にもゴツゴツした岩場が広がっているのだろう。

 小さな手漕ぎボートなので座礁の心配は低いと思うが、念のためスピードを落とす。



 「なあ、多分目的の海域に近付いたと思うから、周りを注意して見ておいてくれよ」


 …………………………。

 …………………………………………。

 …………………………………………………………………。



 あれ?返事がない。


 「おい、人にばっか漕がせておいて、呑気に寝てるんじゃ……」


 …あ、違うかも。


 寝てるんじゃなくて、ヘバってる。



 「…………着いたの…?」

 青い顔のアルセリアが、ノロノロと頭を上げて言った。どうやら、意識はなんとかあるらしい。


 「いや、着いたっつーか、ここから探すんだって」

 「…………それっぽい島とか、ない?」


 キアも、いい加減グロッキーである。その懐では、エルニャストが同じくグッタリして……


 ……って。


 「おい、エルニャスト!お前、どこに入り込んでやがるんだ!!」

 キアの胸元から、不届き者の首根っこをひっつかんでズボッと引き抜く。


 こいつ、どさくさに紛れてなんちゅーふしだらな真似を!



 「にゃ………にぃー……やぁあ……」


 ……うん、大丈夫。船の速度と揺れのせいで、半分魂が抜けたみたいになってる。この様子では、キアの谷間を堪能する余裕はなかっただろう、安心安心。



 ………さて。

 見たところ、岩の塊はあちこちにそびえているが、肝心の島影は見えない。

 幻の島とかいう話だし、船乗りたちも見たり見なかったりだというから、そう簡単に見つかるとは思っていなかったけど。



 ……何か、島が現れる条件とかあるのだろうか。

 天候とか潮流とかその他外因的な条件が。



 注意しつつ岩礁地帯を船ですり抜けて(複雑な潮流には一時的に黙っててもらった)、それらしい影を探すが何も見えない。



 うーん。参ったな。こりゃハズレ……かな?



 「どう思う?島なんて元々なかったのか、或いは一定の条件下でしか辿り着けないのか」

 返事は期待せずに問いかけたのだけれど、意外にもキアから情報提供が。


 「……条件って言えばさ……船貸してくれたおっちゃんが変な事言ってたんだけど……」

 「変な事って?」

 「なんかね、幻の島を見た者は生きて帰ってこれないっていう噂……っていうか、ジンクスがあるんだってさ」


 え、やだ何それ怖い。なんでそういうこと出航前に言ってくれないのさ。


 「……それ、ジンクスって言うの?」

 少しずつ調子を取り戻したアルセリアが問うが、今重要なのはそこじゃない。


 「そういう噂があるってことは、原因とか、前例とか、あるってことだよな?」

 火のない所に煙は立たぬって言うし。


 「これはおっちゃんたちの主観らしいんだけど、幻の島の目撃例と、海の化け物…クラーケンだっけ?…の目撃情報って、かぶってることが多いんじゃないか……って」


 ……あ、そう言えば、クラーケンの話が出てたっけ。

 あれ?でも結局出くわさなかったな。


 まあ、海は広いし、オラージュ海域に行ったら必ず出没するってわけでもないか。


 …………ん?


 「あれ?と言うことは、クラーケンが出ると島が現れる……もしくは、島が現れるときにクラーケンが出る……ってことか?」

 「別に統計取ってるわけでもなくて、経験上そんなことが多いってだけみたいだよ」



 …………ふぅむ。数字的根拠がなくても、無視出来ない情報のような気がする。

 しかし問題は、



 「……でも、今日はクラーケン出てないわよね」

 

 そう、俺たちはまだクラーケンに遭遇していない。と言うことは、島も見付からない……?



 「だったら、クラーケンを見付ければいいのか?」

 一瞬そう思ったのだが、言った瞬間にそういうわけでもないだろうと気付いた。


 「それは……どうだろう?クラーケンを見付ければ島も見付かるっていう因果関係でもないような……寧ろ、島が現れるときにクラーケンも出てくるって考えた方が自然じゃないかな?」



 ……確かに。

 島の動向がクラーケンの行為に由来する、というよりも、クラーケンの行為が島の動向に由来する…って線の方がありうるな。



 「何よそれ。まるで、クラーケンが島の守り神みたいじゃない」


 推理には参加せずに船の上でグータラしていたアルセリアがツッコんだ。

 そして、それは良い線突いていると思う。


 「もしかしたら、そうかもな」



 考えられる可能性の一つでしかないが、もし島が何らかの理由で姿を隠したがっていたとして、それでも外部にその存在を知られそうになった場合……


 島に干渉しようとする輩を排除したいと、思わないだろうか?



 「そうかも…って言ったって、確認しようがないわよね。どのみち、島が見つからないんじゃどうにも出来ないし」


 アルセリアは既に諦めモードだが(船酔いがこたえてるのだろうか)、仮説が正しいのであれば何の問題もないんだな、これが。



 「まあまあ。いっちょ、試してみようぜ?」

 「試すって、何を……」



 口で言うより行動した方が早い、ということで、俺はソナーのように自分の神力マナを周囲に放った。

 術にも何にもなっていない、純粋な力の波動である。


 俺の神力マナを受けて、船を中心にさざ波が起こり、これ以上揺れるのかと二人+一匹が必死で船べりにしがみつくが、



 「だーいじょうぶだって。そんな強い波は起こらないから。………っと、ビンゴのようだな」

 「……ビンゴって……………あ」

 「あれ?いつの間に…………」



 俺の視線を追って顔を上げた二人も、見付けたようだ。



 「え?なんで?さっきまで島なんてなかったのに……」

 「もしかして、隠されてた……………?」



 俺たちの目の前に…多少の距離はあるがもう目の前と言っても差し支えないだろう…その島は迫っていた。


 「そのとおり。隠されてたんだよ。で、俺の神力マナでその結界を吹き飛ばしたもんだから、見えるようになったってだけで」


 「でも……これだけの島を丸ごと隠すなんて、そんな大規模な術式………」

 「人間だったら、ムリだろうな」


 キアの疑問も尤もだ。

 

 任意の物体を外部から見えなくするという術式は、大まかに分けて光学系と知覚系があるのだが、そのどちらも効果範囲は極めて狭い。

 普通に考えて、島を丸ごと消してみせるなんて不可能。



 ただし………



 「少なくとも、この島を隠したがっている奴…或いは連中…は、単独じゃない。しかも、相当の魔力と魔導技術の持ち主だ。人並外れた魔導士たちが、連結して儀式魔術を行えば、この程度なんとかなるだろう」


 勿論、術者が天使族や魔族であればその限りでもないのだが、地上界にだって、魔導が大得意な種族がいるじゃないか。



 「それって……やっぱりエルフ?」

 「ここが隠れ里なら、辻褄合うと思うぞ?」


 俺の仮説に、二人は反論しなかった。反論するよりも、

 「とりあえず、上陸してみましょ?そうすればはっきりすることだし」


 全員、考えるより行動!のパーティーなのである。




 小さな入り江を発見し、そこにボートを付ける。数時間ぶりの陸地に、二人と一匹は物凄く安心したような表情だった。


 

 そんなに海が苦手かねぇ?

 まあ、俺だって肉体の作りを陸生動物である人間に準拠したものにしてるから、水に落ちたら窒息するけどさ。



 

 「んじゃ、こっから島の探索を始めるけど、何が起こるか分からないからな、用心しとけよ」


 何しろ、大規模な術式を使ってまで外部からのアクセスを拒んでいる島なのだ。余所者は全て敵だと認識していてもおかしくない。

 一日あれば辿り着ける場所に他の島があるのに、全く交流をしていないというのだから、ここに住人がいたとしたら筋金入りの引き籠りと言える。



 「ねぇ、その前に」


 いざ探検、と歩き出そうとしたところで、いきなりアルセリアが立ち止まった。

 やけに神妙な顔をしている。そして神妙な顔をしているときのコイツは、大抵どうでもいいことを言い出したりする。



 「………先に、ご飯にしましょ?」



 ………ほら、やっぱり。



 

 


実際、沖堤くらいには渡ってみたいです。魚影が濃いってほんとかな?

どのみち初心者じゃ関係ありませんかね……


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