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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
復活と出逢い編
2/492

プロローグその2。俺と彼女の世界の話。



 その世界は、エクスフィア、と呼ばれていた。

 始まりにあったのは、混沌。時間がたつにつれ、それは上澄みと、沈殿物に分かれた。


 その頃、世界に二つの意思が生まれた。そしてそれらは、自分たちの望むままに世界を組み立てる。まるで幼子が、積み木遊びを楽しむように。

 

 やがて世界には、生命が誕生することとなる。二つの意思のうち一つは、そのことにひどく喜んだ。もう一つの意思は、大して興味を持たなかった。


 原初の生命は、知性も持たず意思も持たない、ただ「生きている」だけの存在だった。しかし、長い長い時を経て、世界が完全に整った頃には、二つの意思を知覚出来るほどに発達した生命が現れた。


 一つの意思は、既に自分達だけの庭ではなくなった世界に飽き、眠りについた。

 一つの意思は、好んでそれらに関わった。守り、排除し、諭し、導き、愛した。生命たちはその意思を“神”と呼び、“神”の名の下に繁栄していった。



 “神”は、世界の上澄みである“天”を棲処(すみか)に選んだ。そして、“天使族”と呼ばれる、翼と強き力を持つ者たちを自らの直属とし、特に強い加護を与えた。


 沈殿物の表層は“地上界”と呼ばれるようになり、そこは最も多くの生命が闊歩する場所となった。“森精人種(エルフ)”、“獣人種(ビースター)”、“人間種(コモナー)”の三種族は“廉族(れんぞく)”と呼ばれ、地上界に多くの国を作った。

 また、竜や幻獣といった強大な生命体も現れた。


 “神”は天上から、時折地上界に干渉しては、廉族たちに崇められ、ときに畏れられ、それらを導き続けた。


 

 だが、“神”の目は、沈殿物の表層までに留まり、その下へと向けられることはなかった。


 沈殿物………世界の中で、不要とされたもの。不純とされたもの。それの中にも、生命体は生まれたのだ。

“神”に見放された存在。見向きもされなかった存在。加護を受けられなかったに関わらず強い力を持つその種族は、“魔族”と呼ばれ、他種族から忌み嫌われた。

 “神”に愛されなかったという、それだけの理由で。


 “魔族”は、世界を憎んだ。自分たちだけ見棄てた“神”を憎んだ。それらの住む場所は“魔界”と呼ばれ、加護も干渉も受けないまま“魔族”たちは互いに争い、“魔界”は戦乱の絶えない地となった。



 そうして、原初の生命が生まれてから何百万年たった頃だろうか、眠りについていたもう一つの意思…………“神”の半身…………がようやく目を覚ます。



 だが、「それ」の居場所は天界にも、地上界にもなかった。それらは既に完成された一つの仕組み(システム)となっていて、「それ」が今さら入り込む余地など残されていなかった。


 半身である“神”も、「それ」の覚醒に困惑した。自分が手塩にかけて育て上げてきた世界に、自分と同じ存在(もの)が現れたのだ、無理もない。今や“神”にとって最も大切なのは自らの半身ではなく、自らの子と言える“天界”及び“地上界”だったのだから。



 行き場を失った「それ」は、唯一“神”の手が入っていない“魔界”へと降りた。


 歓喜したのは、“魔族”たち。見棄てられ、見放された“魔族”には、「それ」が自分たちだけの“神”に思えたのだ。

 “魔族”たちは「それ」を自分たちの王、“魔王”と呼び、崇拝するようになる。“魔王”もまた、己を慕う“魔族”たちに応え、加護を与えた。そして、魔界中で起こっていた戦乱を収め、自らの統治の下、魔界を統一せしめたのだ。


 しかし、それだけでは終わらなかった。


 魔界を支配下に置いた“魔王”は、何を思ったか、地上界、果ては天界をも我が物にせんと望み、侵攻を始めた。或いはそれは、必然だったのかもしれない。


 当然、天界や地上界がおとなしくそれを受け入れる筈もない。


 かくして、天界·地上界連合軍VS魔界軍の大戦が勃発。戦火は、千年以上に渡り、断続的に繰り返された。


 主戦場となった地上界は荒れ果てた。幾つもの国が滅び、大地は荒廃し、夥しいという表現が軽すぎる程の多くの生命が失われた。


 そして二千年前。“創世神エルリアーシェ”と“魔王ヴェルギリウス”の直接対決。軍配は…表層的に見れば、或いは短期的に見れば、神の方に上がった。

 エルリアーシェは己が存在値の全てを費やし、ヴェルギリウスを封印、時空の裂け目へと放逐することに成功した。


 だが、その代償は大きかった。只でさえ、世界創造で消耗していた力を全て放出したために、エルリアーシェ自身もその存在を保てなくなってしまったのだ。


 存在の消滅。則ち、神にとっての、死。


 嘆く“子供たち”に世界の行く末を託し、エルリアーシェは去った。最大限の祝福と、幾つかの託言を残して。


 そして主を失った魔族たちは再び魔界へと潜り、神を失った天界と地上界の住民たちは世界の復興にいそしんだ。


 それから二千年余り、世界はそれなりの平穏とそれなりの不穏のバランスをギリギリのところで保ったまま、現在に至る。





             ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 「と、いうことで、ここにいる私も所謂残留思念というやつになるんですけど、消える前に貴方に会えて本当にラッキーでした」

 

 まがりなりにも“神”を自称してるくせに「ラッキー」とか、色々どうなんだと言いたい気もしなくはないが、俺にとって重要なのはそんなことではなくて。


 「……………で、話は終わり?」

 「はい。だーいぶ端折った部分もありますが、概要はこんな感じです」


 …………………………………………。

 …………長い、長いよ!「端折った」ってことは、細かく話してたらもっとかかってたってことだよな?

 時計も太陽もないこの空間じゃよく分からないけど、体感的には2~3時間はかかってると思うんですけど⁉

 なんで死んだ後まで興味の欠片も持てない話を延々と長々と聞かされなきゃならんわけ?


 そんな余裕あるんだったら、走馬灯の一つでも見せてくれよ‼


 うなだれつつ睨み付ける俺を見るエルリアーシェの表情からするに、多分コイツ分かってない。

 そりゃ、何千年?何万年?生きてる神さまにとってはそんな時間、瞬き程度のものだろうし、惜しむほどのもんじゃないんだろうな。


 「で、俺がその………魔王なんちゃら?」

 「ヴェルギリウスです。ヴェルギリウス=イーディア!」

 「ああ、はいはい。で、それを俺に聞かせてどうしろと?」


 現実味がないことこの上ないが、女神?が俺にこの話をしたのには理由があるんだろう。て言うか、今の話だと俺とこいつは敵同士ってことになるんじゃ?なんでこんなにフレンドリーなんだろう。


 「はい。あのですね。そろそろ貴方の封印が解けちゃいそうなんです」

 「……………は?」

 「ですからね、いい加減時間切れで、もうすぐ私たちの世界、エクスフィアで貴方が復活すると思うんですよ」


 …………………なんかもう、唐突すぎてどう突っ込めばいいのかも分からない。


 「貴方が異世界で人間として生まれたのもその前兆かもしれませんね。ともかく、もうじきに貴方はエクスフィアに戻ることになるでしょうが、一つだけ、お願いがあるんです」


 再びエルリアーシェは俺に顔を寄せてきた。が、何となく素が見えてきた今となっては、さっきほどドギマギしたりはしない。


 ………………いや、まあ、ちょっとくらい心拍数が上がったりは許してほしい。


 「くれぐれも、くーれーぐーれーも!大人しくしてて下さい‼」


 指をビシィっと俺に突きつけ、エルリアーシェは強い口調で言った。


 ……………随分な言い様だ。俺のことを何だと思って……………ああ、魔王……なんだっけ。


 しかし俺が本当に魔王なんだとしたら、そんな「お願い」なんて意味あるのか?


 「もうすぐ消え去る私には、貴方に何かを強制することは出来ません。だから私は、貴方の異世界での十六年間に賭けてみようと思います」


 俺の、十六年間。「桜庭柳人」の、生涯。


 ………………………ああ、やっぱり俺、死んじゃったんだよなぁ。


 「確かに貴方は“魔王ヴェルギリウス=イーディア”です。でも、同時に、“人間·桜庭柳人”でもあるんです」


 エルリアーシェは優しく俺の顔を両手で挟み込むと、さらに距離を詰めてきた。端から見たら、キス寸前である。


 「だから、自分が何者であるかに、囚われないで下さい。貴方の心が、魂が、そうしたいと望むことを為して欲しいのです」

 「………もし、俺が、世界の支配とか、滅亡を望んだら…………………?」

 我ながら意地悪な質問だと思ったが、

 「そのときは、そのときです。………賭けは私の負け、ということですね」

 寂しげに笑うエルリアーシェに、何だか胸が締め付けられるような気分になった。

 「でも、何故か心配は要らないような気がするんです。貴方とこうして話が出来たからでしょうか。今の貴方を、信じてみたい」

 そう言うと、彼女はさらに顔を近付ける。

 「もうそろそろ、行かなくてはなりません。貴方とは随分長いこと共にいて、色々語ったり争ったりもしましたけど、これでサヨナラですね。…………どうか、私の“子供たち”も、慈しんであげて下さい」


 

 彼女は、もう一歩俺に近付いて。


 

 はっきりと言わせてもらおう。

 彼女の唇は、とても柔らかかった。

 


 



女神サマのキャラがいまいち定まりません・・・。

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