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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
神格武装編
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第百七十四話 竜の昔ばなし



 

 

 「……で、ワタシに話を聞きに来たわけか」

 ルシア・デ・アルシェの深部、マリス神殿のさらに地下深く。

 “神託の勇者”にしか開かれない空間で、俺たちは再び聖骸の守護竜と向かい合っていた。


 なお、竜は現在、人型に変化している。竜曰く、一旦目が覚めてしまったのでこの姿の方が生命エネルギーを節約出来るらしい。



 「ああ。あの時代、なんかすごい武器とか防具とか素材のこととか、聞いたことあれば教えてもらいたいんだけど。………あ、これ差し入れな」


 俺は、持参した焼き菓子を竜の前に差し出す。中身は、プティ・フール。カーミル村で作ったものだが、タレイラが近いと材料が色々揃えやすくてすごく助かる。


 「ほう、わざわざスマンな」

 竜は、あからさまに嬉しそうである。

 お菓子も嬉しいのだろうが、約束どおり俺たちが再び会いに来たことが、一番嬉しいのだろう。

 「もてなす用意もなくて悪いが、こちらで話すとしようか」


 竜と俺たちは、祭壇の前で車座になって座った。

 俺は、お茶を淹れる。おそらく…と言うか間違いなくここにそんな設備はないだろうから、あらかじめ道具も持参したのだ。




 「…それで、神格武装の話…だったな」

 プティ・フールを珍しげに見つめ、口に入れて目を丸くし、お茶の熱さにアタフタしてから、竜は話を再開した。


 「ああ。そういうの、なんか聞いたことないか?武器そのものじゃなくても、素材のこととか作り方とか」

 「ふぅむ……」


 俺の問いかけに、竜はもう一つ菓子を口に入れ、咀嚼しながら考え込む。

 やや時間を置いて、


 「そう言えば、一時期廉族れんぞくたちが何やら騒いでいたことがあったような……」

 と言いつつも、記憶が定かではない様子。


 何しろ、少なくとも二千年前の話だ。ずっとここで眠り続けていたとは言え、思い出すのも容易ではないだろう。


 「騒いでって、武器関連で?」

 「うむ。……なんだったか……確か、そう…天使族が召喚した幻獣が暴走したことがあっただろう?」


 ……あっただろう?と言われても……よく覚えてない。

 

 「幻獣の暴走………それ、俺たち関係してたか?」

 魔界絡みのことでなければ、俺が覚えているはずがない。それこそ、天界と地上界だけで解決出来てしまったことであれば、俺の耳には届いていない可能性が高いのだ。

 

 「何を言っている。貴様らの側にも相当の被害が出た筈だが?」

 竜の視線に、何やら責めるような鋭さが含まれている。

 「…魔王よ、まさか貴様、自軍の損耗にすら無頓着だったのではあるまいな」


 ギク!

 そ、それを言われると……



 「え、えと……いや、そんなことはないよ?ないけど、ほら、なんつーか、エルリアーシェとの決着のことばかりに気を取られてたりしたから、その」

 「……無頓着だったのだな」

 

 ジト目で俺を睨み付ける竜に、


 「……え、何?味方が死んでも知らんふりだったわけ?」

 「それはちょっと…引きますね」

 「……お兄ちゃん……非道い…」


 三人娘も同調。



 あああ、痛い!視線が痛い!!


 けど、確かに今の俺も同感だ。正直、二千年前の天地大戦で、どれだけ多くの魔族たちが死んでいったのか、俺はよく知らない。知ろうともしなかった。


 彼らの犠牲を、犠牲と思ってさえいなかった。



 どうせ俺のことだから、天使共の幻獣が暴走して地上界で暴れまわろうと(主戦場は地上界だった)、そこでそれに巻き込まれて多くの命が失われても、自分が手を下す価値がないと判断したのであれば、対応を全て臣下に任せきりにしていたに決まってる。



 その点は反省しなければならないが、今重要なのはそこじゃない。


 

 「と、とにかく、その幻獣暴走事件と、神格武装と、どういう関係が?」


 ……決して、話を逸らしたわけじゃないからな。



 「…………まぁ良かろう。その際に、荒れ狂う幻獣を葬った英雄が手にしていたのが、何やら特別な剣だった……と記憶している」

 

 「…特別な剣………か。見たことはあるか?」

 俺の質問に、竜は首を振った。

 「いや、悪いがワタシは直接関与してはいない。ただ、同族たちが騒いでいたのだ。その「英雄」を野放しにすれば、我らも危ういのではないか…と」


 その言葉に、アルセリアが不思議そうに口を挟んだ。

 「どうしてですか?その…英雄?は、天界側だったんですよね?同じ陣営の竜族に危害を加えるなんてことは……」

 「若いのう、勇者よ」

 だが、竜に失笑される。


 「確かに大戦の折、魔界に対抗して天界と地上界は共闘した。が、それはあくまでも「魔王を屠る」ため。その内実、決して理解しあったわけでも手を取り合ったわけでもない。…まあ、廉族れんぞくたちは天使の加護を得たなどと浮かれておったが、天使族からしたら、いいように利用していたに過ぎんよ」


 これに関しては、アルセリアが特別無知だということではない。天使族は創世神の加護を最も強く受けた、言わば直属軍であり、廉族れんぞくからすれば、崇敬の対象である。

 ルーディア聖教は唯一神教なので、彼らが天使を直接信仰することはないが、信仰の対象である創世神に直接仕える尊き存在だというのが、世間一般の認識なのだ。


 魔王崇拝者が魔族を敬うのと、構図的には似ている。


 天使族は創世神の臣下であり、魔族の敵であり、したがって地上界…廉族れんぞくの味方である……そう考える者が大半だ。



 だが実際には、天使たちの気まぐれで殺されたり、作戦に利用されて捨て駒にされたり、無理難題を押し付けられた上それを断った見せしめに惨たらしい最期を迎えたりした廉族れんぞくは、少なくない。


 さらに天使は、廉族れんぞくだけでなく竜族に対しても、友好的ではなかった。自分たちに匹敵する強大な力を有する種族として警戒し、あわよくばその力を削ごうとしていた形跡もある。

 ついでに、廉族れんぞく…特に人間種と竜種の仲も、非常に悪かった。魔族という共通の敵がいなければ、おそらく敵対種族となっていただろう。


 

 ……と、これらの情報は全てギーヴレイから聞いた受け売りなのだが。



 「天界・地上界連合軍は、結構内部で反目しあってたってわけだ。その「英雄」さんがレア武器でチート級に強くなった場合、その力が自分たちにも向かうんじゃないかって心配するのは、当然だろ。……つか、その「英雄」ってのは天使族?廉族?」


 「実を言うと、ワタシも知らん。竜種でなかったことだけは確かだ。だが、その剣…まるで血潮のように紅く輝く剣だったそうだが…それを手にした英雄は、天使たちですら手に負えなくなった幻獣を一撃で葬る力をも手にしたという」


 ……げげげ、マジか。確かに、竜族がビビるのも分かる。そんな奴が反旗を翻したりでもしたら、高位天使や高位魔族でもない限り止められないじゃないか。



 見ると、三人娘もお菓子を食べる手を止めて聞き入っていた。

 「そ、そんなすごい英雄が、大戦時にいただなんて…」

 アルセリアは、“神託の勇者”である自分を軽く凌駕すると思われる英雄の存在に、唖然としている。


 竜は、

 「ふん。あの頃は、化け物のような戦士どもがどの陣営にもいたものだ。地上界であるならば、“逆さ時計のエルゼイ”や“首斬り巫女シエラザード”などが名を馳せておったわ」

 と、何故か得意げに胸を張る。


 「それなら、聞いたことがあります。教会で神聖史を学ぶ際に出てくる、最後の護り手って人たちですよね」

 「聖書にも、その名が記されています。地上界で最も神に尽くした聖人として」

 「………?」


 アルセリアとベアトリクスが、口々に言う。が、ヒルダは首を傾げている。多分、神聖史の講義を真面目に聞いていなかったんだろうな。



 「ほう、今もそのような形で伝わっているとはな。まあ、奴らは廉族れんぞくの割には話の分かる輩であった。が、件の幻獣殺しの英雄は、そんな連中の中でも特に規格外であったが」


 「そこまで……凄い人だったんですか…」

 「人間であればあまりに異端よの。天使族だったとすれば五権天使クィンケリエにも匹敵するやもしれん」



 ……それは確かに、「化け物」である。

 まあ、確かにあの当時は今よりも強大な力を持つ者がゴロゴロしていたような気もする。魔族にも、他種族にも。

 五権天使も六武王も、確かに当時から各陣営のトップを張ってはいたが、現代のように同族他者と比べてあまりにも差が開き過ぎている、ということはなかった。



 現代よりも強者揃いだった二千年前の戦士の中でも、「化け物」呼ばわりされた人物。幻獣殺しの英雄。

 そいつが持っていたのが神格武装であるならば、その武器は一体どうなったのだろう。



 「…で、その英雄さんがその後どうなったんだ?」

 「さあ、ワタシは知らん」


 ……一蹴されてしまった。


 「ええ?そこまで凄い人物なら、その後のこととか何か記録残ってないわけ?幻獣を倒したあと、魔族と戦って武勲を上げたとか、味方を守りまくったとか、言い伝え程度も残ってないのか?」

 英雄とまで呼ばれた人物なのだ。本人が望むと望まざるとに関わらず、その後の戦意高揚のために存在を利用されたりするもんじゃないのか?


 「言い伝えのことは知らんよ。ワタシはワタシ自身が見聞きしたことしか語ることは出来ん。が、そこの勇者たちも聞いたことがないのであれば、記録には残っていないのであろうな」

 


 あー、お手上げか。せっかくアルセリアに与える神格武装の手がかりになりそうな話だと思ったのに……



 「…力になれなくて、スマンな」


 がっくりと項垂れた俺に、申し訳なさそうに謝る竜。が、別にこいつが悪いわけじゃない。


 「いや…気にしないでくれ。また、別の手を考えるさ」



 幻獣殺しの神格武装………いいなぁ、欲しかったなぁ。名前だけでほら、なんか凄く強そうだし。

 勇者が手にするには少々血生臭い呼称ではあるけれども、そういうことに拘る勇者アルセリアじゃないからな。


 

 

 結局、竜からはそれ以上の話を聞くことは出来なかった。

 彼女自身、大戦時から存在していたとは言っても参戦したわけではないらしい。したがって、知っているのは噂話程度だった。



 その後は、他愛のない世間話…と言ってもずっとここに引き籠りだった竜にはとても刺激的な話だったようだ…とお茶とお菓子で時間を潰し、武器探しはフリダシに戻ることになったのだった。

 

 


せっかく聖骸の守護竜の再登場なのに、またもや名前を出しそびれました。つか、まだ考えてません。そのうち旅に同行させるのも面白いかも…とか思ってるんですけどね…。

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