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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
神格武装編
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第百七十三話 拘るのならばまず知識から。



 

 タレイラ近郊の小さな農村、カーミル。

 “神託の勇者”一行と俺は、昨日からこの村に滞在している。


 

 別に、ここは聖骸地でも何でもない。何か任務があってここに来ているわけでもない。次の聖骸地へ向かうにも武器がなければ危険が大きいということで、アルセリアの新しい得物探しを優先することにしたのだが。


 

 ……当てがない。



 グリードには安請け合いしたものの、考えてみれば、俺は剣のことに関しては素人なのだった。何処ぞに伝説級の刀匠がいるとか、幻の鉱物が眠っているだとか、あるいはどんな素材を組み込むとどんな効果が生まれるのかとか、そういうクラフト系はまるで分からない。


 分からないから、困っている。



 「ねぇリュート。この後どうするのよ?」


 などと、アルセリアに急かされたりもするのだが、特に妙案が浮かぶわけでもなし。


 とりあえず、タレイラだとグリードの目が光ってて気まずいので、逃げ出してきた次第だ。



 「どうするったってなー……そもそも、武器ってどうやって調達するんだ?」

 「…………そこから?」


 非常に呆れ顔で言われてしまったのだが、仕方ないじゃないか。だって俺、今まで自分で武器を調達したことなんてないもん。自分の魔剣だって、ギーヴレイが用意してくれたんだもん。



 「まあ、そりゃあ普通は武器屋とか…なんだよな?」

 そのくらいは分かってる。だが、“神託の勇者”に相応しい聖剣・名剣が、そこいらの武器屋に値札付きで売っているとも思えない。


 「んー…駆け出しから中堅くらいならそれでもいいけど…遊撃士だって、上位の連中はオーダーメイド使ってるわよ。中には、専属の刀匠を抱えてるギルドとかもあるみたい」


 「はー…贅沢な話だなぁ」

 

 つくづく魔王の台詞ではないと思うが、お抱えの刀匠に自分好みの武器を作ってもらうとか、ちょっと憧れたりしなくもない。


 「…別に私は、市販品でもいいけど」

 「いや良くないだろ」


 勇者の拘りの無さが露呈した。よりにもよって、打倒魔王を掲げる“神託の勇者”が、既製品で最終決戦に臨むとか、ないだろう。



 「アルシーは、武器や防具にあまり興味を持ってませんよね」

 そう言えば、という感じでベアトリクスも頷く。かく言う彼女が身に着けている法衣も、一般的な高位聖職者の衣装だったりする。


 「だってさ、武器も防具も消耗品じゃない。大事なのは武器ならちゃんと斬れることで、防具ならちゃんと守ってくれることでしょ?それさえ出来てたら、市販品だろうがオーダーメイドだろうが伝説級だろうが、別にどっちでもいいわ」


 ……欲がないと言えば聞こえはいいが、結局色々選ぶのが面倒くさいだけじゃないのか…?



 「んーーー、気持ちは分からなくもないけど、せっかくなんだから、こう、目一杯拘っていかないか?」


 やっぱり俺は、王道だが勇者には特別な武器を持っていてほしい。ドラ〇エなら〇トシリーズだし、オンラインなら超レア級とか。



 選ばれし者のみが持つことを許される、伝説の武器。



 ほらほらぁ、格好いいじゃないか!



 ここは一つ、魔王おれの魔剣に匹敵するトンデモ武器を、アルセリアには装備させたいものだ。



 「……拘る…って言われても…何に拘ればいいの?」

 今までアルセリアが持っていた聖剣は、聖教会からの貸与品。おそらく、と言うか間違いなく、言われるがままに受け取っただけなのだろう。


 「え?いや…俺に聞かれても…………素材…とか?」


 まずは、材料だよな。


 「そうですね、どうせオーダーメイドなら、素材から拘らないといけませんね。あとは、どの刀鍛冶に依頼するかも大きいのでは?」


 そうか、それも大事だな。鍛冶師の腕前ってのがどういう基準で評価されるのかは知らないけど、評判のいい鍛冶師とか(口コミサイトがあればいいのに…)、何処ぞの王室御用達とか。



 「……その他は?」

 

 俺とベアトリクスの遣り取りを見ていたアルセリアも口を挟んでくる。

 だが。


 「……その他…?」

 「あとは……何でしょう?」


 俺もベアトリクスも、それ以上は思いつかない。


 「…そういうのは、鍛冶師にまかせればいいと思う」


 おお!ヒルダが珍しく建設的な意見を!


 「しろーとがあーだこーだ言っても、ムダ…」


 …うう…辛辣だ。


 「じゃ、じゃあ、まずは素材……だな。………鉄?鋼?青銅?」

 「ってアンタ、素人じゃないんだから」


 ……いや、だから素人だってば。


 「そうねぇ。素材で拘るんだったら、やっぱり魔導鋼は外せないわよね」


 魔導鋼……ああ、ミスリルとかそういうのね。魔導金属とも言うんだっけ。でも、


 「魔導鋼って、どんなのがあるんだ?」

 詳しくは知らない。


 「代表的なのは、アダマンタイト、オリハルコン、ミスリル…ってとこね。それぞれに特徴を持ってるわ」

 

 武器に拘りの無いアルセリアがスラスラと上げられるということは、この世界ではよく知られた鉱物なんだろうか。


 「ほうほう。特徴って、どんな?」


 「まず、アダマンタイトの特性は、頑丈さ。とにかく硬い。ひたすら硬い。確認されている中で、最も硬い鉱物って話よ」

 「あ、そう言えば魔界にもそれ使ってる奴いるわ」


 確か、ルクレティウスの持ってる魔剣がアダマンタイト製…だったような気が。


 「で、ミスリルは魔力を通さない性質を持ってる。だから、魔導の媒体としては使えないし、どちらかと言えば防具向け…かしら」

 「でも、アダマンタイトの方が硬いんだろ?」

 「硬さはね。けど、魔法防御力に関しては、ミスリルの方がずっと上なのよ。で、軽量だから、速度を重視してる人はミスリルを選ぶことが多いわね。…私の軽鎧ライトメイルもミスリル製だし」


 ……なるほどー。物理防御ならアダマンタイト、魔法防御ならミスリル…か。硬度のことを考えると、剣にはアダマンタイトの方がいいのかな?


 「あ、それじゃ、オリハルコンは?」

 「魔力との相性が抜群にいいわね、オリハルコンは。しかも強化と進化の性質を持ってるから、魔導士の魔導媒体によく使われてる。予め特定の術式を組みこんだりも出来るし、特殊効果を付与したりとかもしやすいんだって」


 おお、なんだかすごく良さそうな感じだ。


 「だったら、オリハルコンとかいいんじゃないか?」

 「でも、柔いのよね」

 「…へ?」

 「粘度はそれなりなんだけど、硬度が低いのよ。折れにくいけど、すぐに曲がっちゃう。さすがに単体で武器に使うのはね…」


 ……そ、そうなのか。確かに、打ち合う度にぐにゃぐにゃ曲がるような剣は、格好悪い。つか、切れ味悪そう。


 「…なんだか、どれも一長一短って感じなんだな。…いいとこ取りって、出来ないもんなの?」

 「出来なくもないし、やってる人もいるけど…それぞれの鉱物を組み合わせて」


 なんだ、組み合わせとか出来るのか。ならそれでいいじゃん。


 「ただ、いいとこ取りって言うか、どっちつかずになるのよね……」


 ………それは、ダメだな。()()から最も遠くなってしまう。



 「うーーーん。なかなか理想通りの素材ってのはないもんだな」

 「って言うか、アンタはなんで知らないわけ?」

 「……へあ?」


 いきなり、アルセリアに意外そうな顔で尋ねられた。

 なんで知らないって……なんで?何を?



 「だって伝承では、創世期や神聖期には、現代には失われてしまった神格級の武器があったって話よ?今はもうそれを知る者はいない…ってことだけど、その頃から存在してるアンタだったら知ってておかしくないでしょ」


 「……神格級の、武器……?」


 …そんなの、あったっけ?つか、聞いたことあったっけ……?

 んーーーーーーーー。


 ………駄目だ、思い出せない。

 いや、思い出せないと言うよりも。



 「あの頃は俺、そういうことに無頓着だったから…なー……。多分、その手の話が好物なのは、天使共だと思うぞ?」


 実際、俺もエルリアーシェも、本気で戦うとなれば武器なんて無用の長物。いちいち気にする必要も機会もなかった。


 「…神格級……ねぇ。そんなチート武器があれば、是非手に入れたいものだけどなー…」

 「まぁ、その時代を唯一知ってるアンタが知らないんじゃ、その線もお手上げよね」


 俺とアルセリアは、揃って空を仰ぐ。

 

 神聖期の遺産なんて、勇者の武器にはもってこいだと思うんだけど……伝承にあるってだけで、具体的な情報がなければどうにもならない。



 ………………。

 …………………………………ん?


 いや……待てよ。

 創世期……神聖期…………

 

 二千年前を、知る者…………。



 「いるじゃないか、俺の他にも!」

 俺が唐突に叫んだもんだから、アルセリアは驚いてのけぞった。


 「何よいきなり。………いるって、何が?誰が?」

 「だから、神聖期…天地大戦の頃を知ってる奴だよ!」

 「え?え?アンタ以外に?いるわけないでしょそんなの」


 んもう、なんで分かんないかなー。アルセリアだって、()()()と会ってるじゃないか。

 


 「……あ」

 ベアトリクスは、気付いたようだ。

 「確かに、彼女は言っていましたね。……創世神の、最期の息吹を浴びた……と」



 「……最期の……息吹?……ゴメン、なんだっけそれ」

 

 未だに思い出せないアルセリアに業を煮やしたのか、ベアトリクスがじれったそうに、


 「竜ですよ、竜。ほら、マリス神殿の地下で会ったじゃないですか。聖骸をずっと守り続けてた…」


 そこまで説明して初めて、アルセリアの記憶を呼び覚ますことが出来たようだ。


 「ああ!あの!唐揚げばっかり食べてた竜ね!!」



 ……なんつー覚え方してやがるんだよ。



 しかし、そう、あの竜である。天地大戦を経験した者。創世神の最後の祝福により、通常の個体よりも何倍も長い長い時を生き続けた、歴史の証人。




 彼女に聞けば、何かいい情報が得られるかもしれない。


 俺たちの、次の目的地が決まった。


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