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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
神格武装編
178/492

第百七十二話 軽々しく「信じてるから」とか言いながら簡単に「信じてたのに!」とか言う奴ってそれどうなの?




 俺たちは、タレイラへ戻ってきていた。


 フォルヴェリア王家の陰謀…聖骸独占…に陰謀でお返しをして、面倒な事後処理はグリードとその配下に丸投げし、さて次の聖骸地に向かおうかというところで、グリードから出頭を命じられてしまったわけである。



 …まぁ、ムリもないけど。



 今回は、フォルヴェリア王家に分かりやすい瑕疵があったからいいようなものの、そうでなければここまで事が上手く運ぶことはなかったのだ。


 下手すりゃ、本気で聖教会とフォルヴェリアの間で衝突が起こっていたかもしれない。


 そしてそれは、俺たちの軽率な行為が招いた事態であって。



 「……色々と言いたいことは山積みなのだけどね」

 執務室で仏頂面のグリードと向き合い、三人娘はしゅーんと凹んでいる。上司であり親代わりである彼にこういう表情をさせてしまっていることに対し、少しは反省しているのだと思われる。


 「まずは、何故聖骸がヴァーニシュにないと分かった時点で、国王に問いただす前に私に報告をしなかったのかね」

 因みに、グリードがこんな風に不機嫌さを表に出すことは珍しい。俺の記憶にある限り、姫巫女マナファリアの騒動のときくらいだ。それだけ、怒り或いは困惑が大きいということだろう。


 「……すみません。報告はするつもりでしたが、先に聖骸の在処を確認しておいた方がいいと判断したもので……」

 モジモジしながら答えるアルセリア。俺には、一度たりともこんな態度見せたことないくせに。


 

 アルセリアの言い訳に、グリードは大きく溜息。


 「それで不測の事態が起こった場合、私抜きで適切な対応が取れる自信があった……と?」

 「うう……いいえ………」


 アルセリア、声が消え入りそうになっている。


 「さらに、レティシア王女に発見された上、彼女の私闘の申し出を受けた……」

 「…はい、そのとおりです…………」


 確かに、その流れはマズかったのだろう。そこで勝てていれば問題なかったのかもしれないが、現に一度、見事に負けている。


 それよりなによりグリードが気にしているのは、


 「第一、国王が聖骸の占有を否定した時点で、すぐに私に連絡すべきだった。連絡の手段はいくらでもあったわけだから……そうだね、リュート?」


 げげげ、矛先がこっちに!


 「えー……ま…そう…だよね…………」

 明後日の方向を見ながら(とてもじゃないが直視出来ない…)同意する俺にも、大きな溜息をプレゼントしてくれる。



 「まったく……君がついていながら、どうしてこんなことになるのかね」


 ……いや、信用してもらえるのは光栄だけど……


 こいつらを制御なんて、出来るわけないじゃん。


 と思ったが、沈黙しておく。



 「そもそも、王族と私闘などということが間違いだ。公式な立会人もいない状態で、万が一相手に傷を負わせていたら、立派な外交問題になってしまう…仮にフォルヴェリアが何も企んでいなかったとしても」


 

 改めて言われると、グリードの言うことには全面的に同意せざるを得ない。一般市民相手とは、訳が違うのだから。


 

 まあ、それらは過ぎてしまったことなので、今さら言ってもどうにもならない。


 目下一番の問題なのは………



 「…そしてアルセリア。…聖剣のことは、どうするつもりかね?」

 「…う!」


 アルセリア、蛇に睨まれたカエルみたいになってる。


 そう、アルセリアは勝利のためにあっさりと聖剣を犠牲にしてしまったが、そしてそれを本人も然程気にしていないように見えたが、こうやって詰問されると返答に困っている。


 事実、世界に二つとない神授の聖剣…聖教会のとっておきの秘宝…を「壊しちゃいました、テヘペロ☆」では済まされないだろう。

 来たるべき最終決戦(則ち魔王おれとの戦い)で、どうやって戦えという話だ。そこらの武器では、例え勇者がさらなる力を得たとしても、魔王に打ち勝つことなど出来ようもない。



 ……と、グリードがこっちに視線を向けてきている。

 何か、要求するような眼。


 何か…って、打開策…この場合は聖剣の代替品…なんだろう。


 あのー…猊下ボス、ここまで魔王に頼り切りってのも、どうかと思うんですけどー……


 無論、グリードもそこのところは弁えている。向こうから言い出したりはしない。ただ無言で、視線だけで、俺に圧力をかけてくる。


 その眼が、「何のために補佐役おまえを付けたと思ってる責任取りやがれ」って、雄弁に語ってる。



 えーーー、聖剣の代わりですか?そんなもの、心当たりないよ。


 そりゃ俺だって、いざ勇者と対決したときに「武器がないから徒手空拳でヨロ」とか言われたら、肩透かし喰らっちゃうけどさぁ。


 ……まあ、アルセリアの拳はなかなかのものだとは思う…実際に喰らった身としては。



 ……じゃなくて。



 「分かったよ、猊下ボス。なんか、代わりになりそうなもの探してみる」


 観念して言う俺の台詞を、彼は待ち構えていたのだろう。俺が言い終わるが早いか、


 「そうか、面倒をかけるね。よろしく頼むよ」


 とか、抜かしやがった。


 さてはて、これからの方針が決まってしまった。

 聖骸地巡礼を続けつつも、聖剣探しもしなきゃいけないわけね。

 当然、天使族の動向だとか俺の目を盗んで暗躍している「何者か」だとかについても目を光らせないといけないことには変わりない。


 もう、何だよ。忙しすぎるじゃないか。

 つか、聖剣探しって多分補佐役の業務じゃないよな。時間外手当出るの?特別手当は?



 「リュート、なんか心当たりあるの?」

 アルセリアが問う。その視線は、俺の腰の見た目だけは地味な魔剣に。


 「言っとくけど、これは駄目だからな」

 先手を打って、念を押しておく。これは、ギーヴレイが用意してくれた魔剣なのだ。他の奴に使わせるわけにはいかない。

 …と言うか、魔剣を勇者に与えるわけにもいかんだろ。


 「えー、ちょっと目を付けてたんだけど……」


 なぬ、流石は勇者、お目が高い。外見的には何の変哲もないロングソードなのに、何か感じるものがあったというのか。



 「目を付けるな。…まあ、魔界で探すよりも地上界で見つけた方がいいだろ、お前が使うんだし」

 「…そんなもの?」

 「そんなものだよ。人間には人間に適した武器があるだろ。因みに、アスターシャの使ってたあれな、多分お前が握ったら魂持ってかれてたぞ」


 ちょいと脅してやると、アルセリアが蒼白になった。鮮烈な記憶が蘇ったか。



 「……はてリュート。アスターシャ…とは?」

 耳ざといグリード。


 あ、そういや、魔界でのことは詳しく話してなかった……「修練のために、勇者一行を魔界に連れて行った」程度しか。


 だって……あそこでアルセリアが経験したことをグリードに話したら、多分本気で怒り狂いそう。この場で魔王おれの討伐命令が下されちゃいそう。


 だから俺は誤魔化そうと思ったのに。



 「魔界の、六武王の一人です。“氷剣のアスターシャ”。魔界一の剣士で、私、稽古をつけてもらったんです!」


 何故か誇らしげにバラす勇者。あのさ、決して誇れるようなことじゃないんだよ、勇者が魔族に教えを乞うって。


 しかしグリードが気にしたのはその点ではなかったようだ。さらに言うと、稽古の中身も気にしていなさそう…知らないから、なんだろうけど。



 「その者は、君に悪影響を及ぼしたりはしないのかい?」


 ある意味一番尤もな懸念。勇者が高位魔族と慣れ合うとなれば、騙されたり唆されたり洗脳されたり妙な影響を受けたり…を心配するのは当然だ。



 「はい!とても良い勉強になりました!」


 単細胞のアルセリアは、グリードの懸念の中身に気付いていない。どうでもいいが、()()を「良い勉強」とか言えちゃうアルセリアは、確かに勇者だ。

 


 「そうか。……リュート」

 「え、何?」


 改まったように言うグリードの口調に何やら険しいものを感じ、俺は思わず身構える。

 なんだよなんだよ、また新しい小言か?


 「……私は、君以外の魔界の民が彼女らに関わるようなことは、出来れば避けてほしいと思っている」


 ……当然と言えば当然なんだけど、意外な言葉が降って来た。


 「君のことは、信頼している。だが、それと君の眷属を信用するのとは、別の話だ。…私は、()()のことを何も知らないのだから」



 グリードの気持ちも、良く分かる。「友達の友達は友達」なんてのは乱暴な決めつけだ。ましてやそれが、宿敵であるはずの魔族であればなおさら。


 ……だけど。


 「……アンタの気持ちは分かった。けど、それに関しては約束出来ない…つーか、したくない」

 「どういう意味だね?」

 

 俺の返答に、グリードは驚く。拒否されるとは思っていなかったのか。


 「確かに、魔族全員とこいつらが上手くやれるとは思わない…と言うより、上手くやれる奴の方が少数派だし」

 「だったら……」

 「それでも、こいつらと上手く付き合える奴も確かにいるし、その関係を俺は潰したくない」



 俺たちは、「魔王と勇者」。相容れない関係であり、いずれは殺し合う運命が待っている。



 ……と言うのは、誰が決めた理屈だ?



 その可能性がなくなることはない。けれども、それ以外の可能性を残したって、いいじゃないか。俺たちの関係がこの先どうなるかなんて分からないけど、僅かでも分かり合える未来が残されているなら、それを大切にしたって、いいじゃないか。


 それに。


 「アンタにも、立場ってものがあるんだよな。…それはこいつらも、そんで俺も同じだけど。教会関係のことはアンタの指示に従う。けど、魔界に関しては、口出しはさせない」



 魔界のボスは俺だ。いくら枢機卿と言えども、そこのところは穿き違えないでもらおう。



 きっぱりと断言した俺を、しばらく無言で見つめるグリード。

 やがて、諦めたように肩を落とした。



 「……分かった。余計な口出しだったようだね、すまない。……ただ、()()()()()()()()()ということは、忘れないでくれ」



 無条件の信頼ほど、心を縛る鎖はない。彼は、そのことを知っている。だが、



 「了解した。()()()()()()は、裏切らないよう善処するよ」


 

 俺は、堂々とそう宣言してみせた。


 

 

もしかしたら一番リュートのことを理解&信頼してるのってグリードかもしれません。情ではなく合理的判断ですけど。

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