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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
復活と出逢い編
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第十五話 疲れたときには肉が一番。え?それは若者だけの特権です。


 食後のお茶を飲みながら、俺は勇者たちにこれまでのことを聞いていた。

 なんでも、俺に地上界へ送り返された彼女らは、まずは体を休めるために手近なこの村に来たのだと言う。

 驚いたのは、村人たち。まさか神託の勇者一行がこんな辺鄙なところに来るなんて想定外、上を下への大騒ぎ。当初は自分たちの正体を名乗ることもなく静かに宿で休んでいた勇者たちのところに大挙して押し寄せて、挙句に集会所で盛大な歓迎会を開きたいなどと言い出したそうだ。

 もちろん、回復を最優先したい勇者たちはそれを丁重に断った。

 

 ところが、村長から村の窮状を聞かされてしまう。曰く、村の南方に広がる山脈に、ヒュドラが出没したのだと。

 ヒュドラは、地上界ではドラゴン、オロチに次ぐ最強クラスの魔獣である。当然、村人たちでは手も足も出ない。いつヒュドラに遭遇するか分からない状況では山に入ることが出来ず、また、もしかしたら村まで下りてくるかもしれないという恐怖で、村人たちはここしばらく震える夜を過ごしていたのだという。


 それを聞いた勇者は、迷うことなく即座に、自分たちがヒュドラを討伐してくるから心配するな、と宣言してしまったのだ。


 ……………なんて言うか、考え知らずにも程がある。


 「で、お前らはのこのこヒュドラの縄張りに攻め込んで、あわや返り討ちに合いそうになってたってわけか」

 「失礼ね!負けてなんてないわよ!!」

 「どの口が言うんだよ。けっこうやばそうだったぞ」


 俺との戦いで何も学んでなかったのか、この単細胞ゆうしゃは。


 「に、しても……。お前らって、そんなに有名なわけ?」

 「え?私たち?…………そりゃ、神託を受けた勇者なわけだし、有名っちゃ有名だけど………………なんでよ?」

 今の話を聞いた感じだと、こいつらは村人に自分たちのことを吹聴したわけではないようだ。だったら、誰かがこいつらの正体に気付いた、ということになる。


 前世で暮らしていた地球だったら、多分勇者クラスの有名人はテレビやらインターネットやらで世界中に顔を知られていることだろう。

 だが、この世界にはまだ一般市民が一瞬で遠隔地と繋がる手段は発明されていない。魔導技術を応用した遠隔念話や映像投影はないことはないが、限られた層にしか使用されていない。

 実際、俺が魔界で勇者のことを聞いたとき、()()ギーヴレイですら断片的な情報しか得られていなかった。

 地上界と魔界の隔絶を思えば当然のことかもしれないが、もし「勇者の似姿」なんてものが出回っているのだとすれば、間違いなくギーヴレイはそれを手に入れていたはず。


 「や、言っちゃ悪いがこんな田舎で、よくお前らが勇者だって分かったよな、ここの村人たち」

 「…………言われてみれば、確かにそうですね」


 神官も俺に同意。

 勇者は、首を傾げている。

 

 「別に、どうでもよくない?たまたま私たちの顔を知ってる人がいたんでしょ?そんな気にすることでもないじゃん」


 大物なのか能天気なのか、俺と神官がひっかかったことを、まるで気にしていない。


 「お前ら、教会から監視とか付けられてたりしないか?」

 聞いてから、それはないかと気付く。仮に教会からお目付け役が付いていたとして(それ自体は充分にありえる)、そいつが村人に勇者たちの正体をばらす意味がない。


 「ちょっと、変なこと言いださないでよ。さっきから、何を気にしてるわけ?」

 「いや、そこまで気にしてるってわけでもないけど、なんか気になるっつーか……」


 俺の歯切れも悪い。何かがひっかかっているのだが、それが何なのか分からないのだ。


 別に、()()()()勇者たちが行き着いた村で、()()()()その存在に気付いた村人がいた、というだけの話。そんなに拘ることがあるだろうか?


 多分、地上界じゃこういう田舎はたくさんあって、魔獣に怯えているところも少なくなくて、そんなところに勇者がやってくれば頼ってしまうのは当然だろうし、この村に、勇者の言うとおりたまたま彼女たちの顔を知っている村人がいたってそれはそこまでおかしくもないだろう。


 なのに、なんか釈然としない。が、何が気に食わないのかも分からないのが、余計に気に食わない。


 

 しばらく黙り込んでこの違和感の正体を探ろうとしていたのだが、勇者の視線に集中が途切れた。

 「ん?…………なんだよ」

 「……………………お肉」


 …………いきなり妙なことを口走りやがった。


 「………は?」

 「だから、夕飯はお肉がいいって言ってんの」


 …………唐突だな!

 てか、今飯の話なんてしてたっけ?


 「おま…さっき昼飯食ったばっかだろうが………」

 「そうですよ、アルシー」

 すかさず神官が俺をフォローする。なんだかこいつとは気が合いそうだ。

 「お肉もいいですが、ここは川魚も美味しい地域なんですから、ここはあっさりと魚の塩焼きなんて素敵だと思います」


 …………前言撤回。似た者同士だわ、こいつら。


 「えー、さっきはスープだったじゃん。あっさりしすぎー。次はガッツリいきたいの!」

 「貴女はいつもいつもお肉それじゃありませんか。この前エンテ地方に行った時も、せっかくの海沿いなのにお肉ばっかりで、新鮮な魚介類が全然食べられなかったですし」

 「そ、それは…そうだけどさ、そういう気分だったんだもん」

 「ですから、次はお魚にしましょう?」

 「……むむぅ…………」


 肉vs.魚の珍妙な争いは、魚の方へ軍配が上がりかけている。と、その時


 「…………お肉………………………」

 弱々しくも意志の強い(いつぞやの勇者の眼差しを彷彿とさせる)声が乱入。


 声の主は、ベッドに横たわる魔導士。俺たちの声で目を覚ましてしまったのか。


 「………!そうだよね、ヒルダ。やっぱ疲れたときはお肉が一番だよね!!」

 我が意を得たり、と勢いづく勇者。

 神官は、二対一では勝ち目がないと悟ったのか、諦めたように首を振り振り溜息を一つ。


 …………俺は、三人の遣り取りに付いていけず茫然と成り行きを見ていた。

 てか、肉にしろ魚にしろ、要は俺に作れと言ってるわけだよな?


 「まあ、俺はどっちでもいいんだけど………ただチビッ子はもう少し消化のいいもの食べた方がよくないか?」

 それは至極当然の提案なのだが。

 「……や。お肉」

 一刀のもとに斬り捨てられた。






 

ポテンシャル的には、魚の方が高いと思うんですけどね、自分としては。でもお肉の方がすき。

でも年のせいか、驚くほど牛肉キャパが縮小しています。

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