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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
砂の国編
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第百五十五話 聖骸を探せ。




  「……どう思う?」

 あてがわれた部屋に戻り、アルセリアが俺たちに問いかける。


 「そうですね……何かあるような気はします」

 「おーさま、嘘言ってる。おうじょさまも」


 ベアトリクスは流石に断言を避けるが、ヒルダは構わず直感的に答える。



 「王女の態度、妙だと思わないか?」

 俺の言葉に、三人も頷いて同意。


 「国王があんなに落ち着いてるのに、王女がムキになってるってのが、不自然よね」

 「ムキになっている…と言うか、そう装っているように私には見えました」

 「おうじょさま……キャラ違う」



 そう、そこなんだよ。

 それほど彼女のことを知っているわけではないが、ああいう風に感情を剥き出しにするようなタイプじゃないと思う。

 特に、ベアトリクスの言うとおり、父である国王が落ち着き払っているのだから、しらばっくれようと思えば簡単なはずなのに、わざわざ会話に横入りしてまで。


 

 「さっさと話を終わらせたいって感じだったわよね」

 多分、そうなのだろう。怒ったフリをして、強引に話を終わらせたかったのだ。



 「…しかし、どうしますか?このまま教会へ報告をして、そちら方面から調査と圧力をかけることも出来るでしょうが…」

 ベアトリクスの提案に、

 「うーん……そのテもあるにはあるけど……下手すると外交問題よね。出来れば、大ごとは避けたくない?」


 ルーディア聖教会の苛烈さは、折り紙付きである。そしてグリードは、フォルヴェリアの王家よりもアルセリアの言葉を信じるだろう。

 フォルヴェリアが、聖骸地の詐称をしていたと、或いは、王家による聖骸の隠蔽・占有・私的利用を疑いでもすれば、事は内密では済まなくなる。

 

 過去には、似たような事案で宗教弾圧をきっかけとした戦争が起こり、滅んだ国もあったと言う。



 「流石に聖教会がここに攻め込むなんてことはないだろうけど……ここと聖教会の関係が悪化するのは確かだし、そうなると火種も生まれちゃうわけでしょ?」


 アルセリアにしては、珍しく先を読んだ発言である。


 「…せめて、聖骸があるのかどうか…あるにしても、何処にあるのかが分かればいいのですけど」

 ベアトリクスも、そんなアルセリアの変化(成長?)に驚きつつ、同意。


 

 もしかしたら俺たちの早とちりで、本当に王家の連中が何も知らないだけ、という可能性も捨てきれない以上、彼らを悪役にして教会に報告を上げるわけにもいかないしな。

 


 「……!ねぇリュート。アンタ聖骸があるかどうか、検知することって出来ないわけ?」

 唐突に、アルセリアが俺の方を向いて言った。

 「私は、目の前にあるならなんとなーく分かるんだけど、正直、あるかどうか分からない物の在処を探すなんて出来ないのよ」


 ……まあ、そりゃそうだ。聖骸の気配を離れたところから探るなんて出来たら、それはもう人間じゃない。



 「……出来ないことは…ないけど……ちょこっと“星霊核アストラル・コア”に接続すれば…いや、そこまでする必要ないかな?霊脈を開けば、可能だと思う」

 「だったらさ、ちょちょっと見てくれない?聖骸が在るのか無いのか分かるだけでも、この後のことを決めやすいんだし」


 ………気楽に言ってくれる勇者。いつのまにか、それまでの気まずい空気は影を潜め、普段どおりの顔に戻っている。

 そのこと自体は、一安心なんだけど。


 「……俺は別に構わないけど……いいのか?」

 「何が?」

 「いや、それって、その、俺の……言わば「魔王スキル」じゃん?その……ほら、前に勇者として魔王とツルむのがどうとか、言ってたから………」


 思わず指摘すると、アルセリアは「忘れてた!」みたいな表情になった。



 ……つーか、忘れてていつもどおりの態度に戻るとか。

 ()()()と言えば、()()()んだけど。それでいいのか勇者。


 で、一瞬躊躇を見せたアルセリアだったが、すぐにそれを隠した。



 「……確かに、それはそうだけど……この間のことでさ、思い知ったのよ。聖骸って、今まではただ有難い物だっていう認識しかなかったんだけど…使い方と、場合によってはすごく怖い物なんだ…って」


 そう言う彼女の脳裏には、ソニアの件がよぎっているに違いない。勇者として、救えなかった…力及ばなかった、悲劇のことが。



 「勇者としての在り方とか、立場とか、外聞とか、大事な事だとは思うけど、それ以上に、このことを放置しておくのはマズいような気がするのよ」



 聖骸が休眠状態であれば、仮にそれが王家の手に渡っていたとしてもそれほど気にすることはない。眠っている聖骸は、例え勇者が手にしていたとしてもただの石ころと変わりない。


 だが、全て聖骸は休眠状態であって周囲への影響力を失っている…という認識が覆された前例がある以上、アルセリアがそれを怖れるのも当然。



 「………分かった。見てみる」

 俺自身、気になっていたのはアルセリアの受け止め方だけだったので、快諾する。ソニアに要らん事を吹き込んだ「何者か」がフォルヴェリアにも絡んでいないとも限らないし、その場合、魔王として介入することもやぶさかではない。



 幸いにも、ここフォルヴェリアは小さいながらも霊脈の通る地である。だからこそ砂漠地帯であっても水と緑が豊かなわけだが。


 俺はそれに干渉し、フォルヴェリアの国土のほぼ全てを覆う感覚網を構築。その下に存在する万物の霊素を認識し、識別し、分類していく。



 生命の有無に関わらず、この世界の全ての物は霊素を持っている。その一つ一つはそれこそ星の数で、流石の俺でも生半可な作業ではない。休眠状態のエルリアーシェを見つけ出すためには、本来であればかなりの時間を要するはずだった。



 だが。


 「……………見つけた。ビンゴだな」

 それほど時間をかけずに、俺は目的のものを探し出すことに成功した。何故ならば、ソナーのように放出した俺の意思波動に、すぐさま返答があったから。


 ……休眠状態の聖骸であれば、有り得ないことである。



 「やっぱりあったのね!それで、何処に?」

 「ビンゴっつったろ。この城の中だな、間違いない。しかも……活性化してやがる」


 俺の返事に、アルセリアが息を呑んだ。

 「活性化って……アンタはまだ何もしてないんでしょ?」

 「ああ。多分、霊脈の影響だろうな。こないだみたいに澱んだ霊脈ヤツじゃないから、周りに悪影響を与えることはないと思うけど」



 問題は、活性化された聖骸が、ヴァーニシュでなく王城にあるということ。

 

 王城にいる誰かが、持っているということ。



 「詳しい場所は分かる?」

 「地図上でってのは難しいけど、案内くらいなら出来るぞ」

 「忍び込みましょう!」


 間髪を入れないアルセリアの発言に、俺たちは唖然とする。


 「……いやいや、忍び込むって……不法侵入?」

 「そうですよ、アルシー。国王陛下に許可をいただいてから……」

 「そんなこと言ってて、聖骸を持ち出したのが国王だったらどうするのよ。シラを切って別の場所に隠すに決まってるじゃない!」



 ………言ってることは分かるが……いくら賓客と言えど、許可された場所以外に、しかも忍び込むって……バレたら、それこそ外交問題になるんじゃ?



 「聖骸さえ見付かれば、こっちのものよ。物証を突きつけてやれば、しらばっくれることも出来ないでしょ?」

 

 せっかく慎重さを身に着けてくれたかと思ったのに、結局は()()である。

 が、そんな姿に安堵している俺たちがいることも確かで。



 「聖骸が活性化されてるんなら、それを悪用されることだってあるわよね。時間が惜しいわ、今から行きましょう」


 ……って、今から?いくらなんでも急すぎるだろ!


 しかしアルセリアの意見に、後の二人も異論はないようだ。



 「そうですね。もし私たちが聖骸の在処を知ったことを持ち出した犯人が勘づけば、先を越されてしまいます」

 「………せーがい、取り戻す」



 ………こりゃ、止められないな。

 補佐役としての立場上は、勇者一行のこんな無鉄砲で礼儀知らずな真似は諫めるべきなのだろう。だが、そうすべきはずの俺自身が、彼女らに賛同してしまっているのだから。



 見つかったらヤバいという気持ちはあるが、まあその時はその時だ。七翼セッテとグリードの名を最大限に利用してやれば、言い逃れくらいは出来るだろう。



 「……仕方ないな。ただし、本当にヤバいとなったら止めるからな」

 「わーかってるって。じゃ、案内よろしく!」



 ばし、と背中を叩かれた。

 その部分が、しばらくずっと、熱かった。

 



               ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「こっちだ。足音を立てるなよ」


 周囲の様子を窺いつつ、俺は三人娘を先導して王城の廊下を進む。

 なんと言うか……不謹慎だが、リアルRPGの気分だ。


 勇者一行は魔王城で体験済みだが、俺は初めての経験である。見つかるかも、見つかったらどうしよう、というドキドキが、結構病みつきになりそうな予感。



 ……いや、やってることはただの不法侵入なんだけど。



 幸い、深夜とあって人影は少ない。時折巡回の兵士が回ってくるが、ベアトリクスの光学迷彩術式で上手くやり過ごした。

 と言っても、この術式は姿を消すだけのものなので、音を立てれば聞こえてしまう。したがって、抜き足差し足で進んでいるため余分な時間がかかったが、それでも案外早く、目的の場所へと辿り着いた。



 「……この部屋?本当に?」

 「何だよ、今さら疑うのか?」


 とは言いつつ、アルセリアの疑念も仕方ないかと思う。


 そこは、ダンスホールだったのだ。



 「…別に、意外だっただけよ。じゃ、開けるわよ」

 出来るだけ音を響かせないように扉を開けるアルセリア。そして揃って部屋の中へ。



 だだっ広いダンスホールの中。

 夜中だというのに、煌々と照明が焚かれていた。


 そして。

 その灯りに照らされて、人影が。



 ホールの中心で俺たちを待ち構えていたのは、

 「あら、こんな夜更けにどうなさったのですか?」

 妖艶に微笑むレティシア王女だった。



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