第十四話 人参と玉葱さえあれば世の中の大抵のことはなんとかなるものだ。
コトコトコトコト。
小気味よいリズムを刻んでいるのは、鍋が煮える音。
蓋を開け、中身を味見してから塩コショウをもう一振りしたところで、悠香が二階から降りてきた。
「お兄ちゃん、ご飯まだー?」
悠香はそう言うとカウンターを回り込んでキッチンの中へ。鍋の中を覗き込むと、
「やったー、にんじんのポタージュ、大好き!それにグラタンもあるー。今日は悠香の好物ばっかりだね!」
満面の笑みではしゃぐ可愛い妹。こいつがこういう風に笑ってくれるなら、毎日だって好物ばかりを作り続けてやりたい。だがそれでは栄養に偏りが出てしまうので、甘やかしすぎは厳禁なのだが。
「ほら、皿くらいは出してくれよ」
「はーい」
両親が仕事で忙しいため、俺と悠香はほとんど毎日、二人だけで夕食を取っていた。一人じゃなくて良かった、と思う。一人きりで取る食事は、きっと寂しいものだろう。もし悠香がいなければ、俺はまともに料理を作ろうなんて思わなかったに違いない。
他愛無い話をしながらの家族との夕食。それが、俺の一番大切な時間だった。
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桜庭柳人が死んで、悠香は一人きりで夕食を取っているのだろうか。いや、父さんや母さんが、傍にいてくれていると思いたい。
あいつは、寂しがりやだったから。
誰かが、そばにいてやらないといけなかったから。
鍋の中身を確認したとき、またもや前世の記憶が頭をよぎった。多分、今作っているメニューのせいだろう。
山を下り、村にたった一つしかない宿に勇者一行を放り込んだのは昨夜遅く。ほとんど日付が変わろうとしている頃だった。
たたき起こされた宿の主人には迷惑な話だったろうが、こちらはそんなことに気を使っている場合ではなかったし、人相の割に人の好い親爺は快く俺たちを迎えてくれた。
今は早朝。三人娘は、疲労もあってまだぐっすりと眠っている。
俺はと言うと、朝早くからあれこれと動いていた。
魔力の回復に必要なのは、休息と栄養。これは普通の疲労と変わらない。とは言え色々と拘らないといけないポイントもある。
魔力は生命力とほぼ同義。魔力を回復させたければ体内に生命を取り込んでやれば早いのだ。
生命を取り込む。則ち、食事。
出来るだけ新鮮な食材が好ましい。新鮮であればあるほど生命力は豊富なのだ。そういう意味では、採りたての食材を生食、が一番なのだが………さすがに、弱ってる連中の胃腸には負担が大きすぎる。
と言うことで、俺は日の出前から動き回り、ちゃちゃっと新鮮な食材を入手して、それを料理することにしたのだった。
まずは、山に入り肉をゲット。一角兎という、文字どおり額に角を生やした兎だ。味は、牛肉に似ていて美味。煮込み料理がお薦め。捕まえてすぐに血抜きして、解体は村の肉屋にお願いした。
…いや、こっちで料理研究をするにあたって、一応食肉解体もチャレンジしてはいるんだけど、流石にまだ技術不足で、俺がやると時間ばかりかかってしまうのだ。なぜか可食部がだいぶ減ってしまうし。
で、それからあちこちを回って、まだ土がついたままの朝採れの野菜を数種類。
それらを宿のキッチンに持ち込んで、調理開始、である。
肉屋で適当に切ってもらった一角兎の肉と野菜で、ブイヨンを作る。その間に別の鍋にこれまた適当に切った大量の人参と玉葱を、ひたひたの水で煮込んでいる。
人参と玉葱が柔らかくなったら、一旦鍋から取り出してそれを裏ごし。この地域には裏ごしという調理法がないようで、仕方なく金物屋で新品の土ふるいの小さなやつを購入し、こし器の代用にしている。
大量の人参玉葱の裏ごしを手早く終え、作っておいたブイヨンと香草を加え、中火にかける。
因みに、人参も玉葱もローリエも、ブイヨンに使った他の野菜……パセリやセロリ……も、地球のものとよく似ているが、完全に同じものかどうかは知らない。
栄養と味がほぼ同じなので、すごく助かる。
一煮立ちしたら、塩コショウで味を整えて、と。
よし、これで魔王謹製「にんたまポタージュ」の完成だ。なお、「にんじんとたまねぎ」の省略であって、決して忍者の卵ではない。
このポタージュ、見た目は極めて地味だが栄養価は最高なのだ。野菜も豊富、新鮮さもピカ一。魔力回復にも栄養補給にもまさにうってつけ。
時計を見ると、もう正午近くになっていた。
そろそろ、一旦あいつらを起こすか。
俺は給仕用のワゴンに鍋と食器を乗せると、三人娘の部屋へ。ノックすると、中から返事があった。
どうやら勇者はもう起きているようだな。
「調子はどうだ?」
部屋に入ると、勇者と神官は既に起床して、ベッドではなくテーブルに向かい合って座っていた。これからのことを話し合っていたのだろうか。
肝心の魔導士は………まだ寝てる…のか?
「おーい、チビっ子。どうだ、起きれるか?」
声をかけると、すぐにうっすらとだが瞼を開けた。眼を覚ましてはいたらしい。
「起きれるようなら、少しでいいから飯を食え。な?」
出来るだけそっと彼女の上体を起こさせて、背もたれになるように腰のところにクッションやら毛布やらをあてがってやる。
魔導士は、何を考えているのか、完全にされるがままだ。
俺は鍋からポタージュを皿によそうと、匙を添えて魔導士に差し出してみる。
「無理しなくてもいいけど、一口でいいから食べれるか?」
「………………………」
皿を受け取った魔導士だが、匙を動かす気配がない。
あー、もう。仕方ないな。
俺はスープを一匙すくうと、彼女の口に運んでみる。
「ほら。ゆっくりでいいから」
少しだけ逡巡してから、魔導士は匙を口に含む。
様子を見ながら、二口目、三口目。
よしよし。なんとか食べられそうだな。これで少しでも栄養を取れれば、回復も早いだろう。
「あ、お前らは自分でよそってくれよ」
勇者と神官にそう言って、俺は魔導士にスープを飲ませることに専念する。
…………実を言うと、こんなまどろっこしい真似をしなくても、手っ取り早く魔力を回復させる方法はあったりするのだ。
何のことはない、俺が、彼女に魔力を与えてやればいい。
だが、おそらく“魔王”から直接魔力を与えるという行為は、人間にとってはかなりリスキーなもので、下手すると人間やめる羽目になりかねない。存在そのものが変質してしまう可能性も低くないのだ。
そりゃ、魔族連中だったら自分が変質しようがなんだろうが、俺から魔力を下賜されるなんてことになれば喜んで受け入れるんだろうけど、こいつらはそうはいかないだろう。
魔王から力を分け与えられる勇者とか、意味不明である。
そういう理由もあって、今はこうして食事と睡眠で彼女自身の回復を助けてやるしかないのだ。
そんなこんなしているうちに、なんとか一皿完食。
「うんうん、頑張ったな。また少し休んだほうがいい」
魔導士の頭をくしゃくしゃと撫でてやる。なんだか、悠香が風邪で寝込んだときのことを思い出すなー。年の頃も同じなのだ。俺がこの魔導士をなんとなく放っておけないのは、そのせいなのかもしれない。
さて、勇者と神官はちゃんと食べているのか?
何しろ作ったのが魔王だからな。警戒して口を付けない可能性は大いにある。
振り返った俺の眼に飛び込んできたのは………
すごい勢いで、匙を使いもせず皿から直接スープを飲んでいる勇者の姿。
「おい…お前、勇者だろ?もう少し品良くっていうか、行儀良く食えよ…」
これまた薄々気付いていたことだが、多分、こいつはかなりガサツな性格をしている。
「うっさいわねー。アンタは私のお母さんか。……おかわりもらうわよ」
ぶつぶつ言いながらも、ちゃっかり鍋に向かう勇者。と、神官が
「アルシー、私の分も残しておいて下さいね」
すかさず声をかけた。
「えー、ビビさっきおかわりしてたじゃん」
「それを言うなら、貴女もでしょう?」
「私まだ二回しかしてないもん!」
「私もです。最後の一杯分は、ちゃんと半分こですよ」
………………………ん?
最後の一杯分?
「って、えええ?お前ら、もう全部食ったの!?」
見れば、鍋の中はほとんど空っぽになっていた。
「何よ、いけなかった?」
「いや、別にお前らに作ってきたんだからいいんだけど……早いな」
ポタージュは、だいぶ多めに作っておいた。一度に食べきることは無理でも、何回かに分けて食べてもらえればいいかと思っていたのだが………
ざっと七、八人前あったポタージュが、瞬く間に完食、である。
魔王の作った食事を、警戒もせずに完食するこいつらの食欲には、呆れると言うか脱帽と言うか。だが、作った身からすれば完食してもらえるのはとても嬉しいことだったりする。この様子を見ると、味も気に入ってくれたようだ。
気を良くした俺は、食後のお茶も入れてきてやることにした。再びキッチンに戻り、ハーブティーの用意をする。
そこに、
「おう、あんちゃん。村長が、話があるってよ」
宿の親爺さんが顔を出した。この人、宿の主人より山賊やった方がいいんじゃないの?ってくらい眼光鋭くて筋骨隆々でスキンヘッドでアイパッチなわけだけど、その実とても気のいいナイスガイである。
「村長?って俺に?」
勇者じゃなくて、俺に用?まあいいや、俺も言ってやりたいことがある。
俺が返事するのを待たず、小柄な初老の男性がキッチンへと入ってきた。
「昨晩、貴方が勇者さま方をこの宿にお連れした、と聞いたのですが」
挨拶も自己紹介もなしに、いきなりの質問。
俺を勇者一行の関係者だと思っているのか(そりゃ無関係じゃないけど)、言葉だけは一応丁寧だ。
「そうですけど……それが何か?」
だからこっちも、形だけの礼儀は保ってやる。言っとくけどなぁ、これが魔界で、ギーヴレイあたりがこんなとこ目にしてたら、この村長八つ裂きじゃ済まないところだったんだからな!
そんな俺の内心を知るよしもなく、
「それで、その…………依頼しておりました件は、どうなりましたか………?」
「ヒュドラ討伐のことでしたら、ひとまずは中断です」
にべもなく言い放った俺に、村長は慌てる。
「ちょっと待ってください、勇者さまは即刻退治してくださると………」
「彼女は勇者ですからね、使命感からそう言ったのでしょうが、容認出来ません」
勇者でも何でもない若造の言葉に、村長は明らかに気分を害したようだった。だが、それには構わず俺は続ける。
「この直前の死闘で、彼女たちはかなり消耗しています。こんな状態でヒュドラ退治なんて危険極まりないことをさせるわけにはいかないでしょう」
「しかし………山に入れなければ我々の生活は……………」
「急ぎであるなら、何故遊撃士組合に依頼を出さないのですか?」
勇者たちと一般の遊撃士とやらにどれだけ実力差があるかは知らないが、ヒュドラは勇者以外に倒せないような難敵ではないだろう。もしそうだとしたら地上界なんてとっくに魔獣の巣窟になっている。
「それは……そうですが………ヒュドラ退治となると、上級遊撃士が少なくとも二十人は必要とのことで、この貧しい村ではそれだけの人員に支払える報酬が用意出来ないのです………」
何が「貧しい」だ。村を見て回った感じ、裕福とは言えないが、そこまで困窮しているようにも見えなかったぞ。要は金を出し渋ったわけだろ。で、安く済ませようと、こともあろうに“勇者”を利用しようとしたわけか。
まあ、こいつらが自分たちの懐を心配して安上がりな勇者に任せようと判断したのも、勇者たちが(それを知ってか知らずか)傷も癒えていないのに彼らの依頼を受けたのも、当事者同士の問題であって、俺が口を挟むことじゃない。
だが、首を突っ込んでしまった以上は、お節介を焼かせてもらおうと思う。
「そもそも、村を少し見せてもらいましたが、山仕事は主産業ではないのでしょう?」
「いえ、そ、それは、そうですが、山に入れないと、その、何かと困ってしまうのです…」
なんか随分と漠然とした言い様だな。
「何かと困る程度の事情で、傷付き消耗しきった彼女らを危険な魔獣と戦わせる、と?」
じろり、と睨み付けてやると、村長は竦み上がった。俺の態度と言葉に、何かしら剣呑な空気を感じたのだろう。
「い、いえ…別に私たちは、そんなつもりでは…………」
しどもどと言い訳を始める村長。いかに自分たちが苦労して生活をしているか、ということから、いつの間にか話は開拓時代にまで遡り、先人たちが苦難の末に切り開いたこの地での生活を手放すわけにはいかないだとか、しかしこんな村には国の助成もないのだとか、そんなときに勇者さまがこの地を訪れてくださったのは正に僥倖、創造主エルリアーシェの思し召しに違いない、だとか。
今回の件と関係ないことをぐだぐだと述べている。めんどくさいから、右から左へとスルーさせるか。
で、村長が一息つくために一瞬言葉が途切れたタイミングで、
「何も、依頼を取り下げろと言っているわけではありません。彼女らが回復すれば、ヒュドラ討伐でも何でも好きにすればいい。ただ、今はまだ許可出来ない、と言っているんです」
話はここまでだとばかりに、さらに眼光鋭く村長を睨み付けてやる。
「か、回復と言っても、それはいつ…」
「ですから、回復するまで、です。お分かりいただけなくても了承してもらいます。それで、他に何か言いたいことはありますか?」
これ以上こいつと話を続けるつもりはなかった。村長は村長で、村のために出来る限りのことをしなくてはならないのだろうが、それは俺の知ったこっちゃない。
もう話は終わった、ということを態度で示すべく、俺は村長に背を向け、お茶の準備を始める。
諦めたのか、村長は宿の主人に何やらぼやきながら、立ち去って行った。
「なあ、あんちゃん。やっぱり、勇者さま方は無理してたんか?」
宿の親爺が、気まずそうに尋ねてきた。
「まあ、つい二日前に死にかけてた体でヒュドラ相手に喧嘩を売る行為を無理と呼ぶんなら、そうなんだろうよ」
「そうか…悪いことしちまったな………。快諾してもらえたもんだから、俺たちはあの方々に甘えちまって………考えてみりゃ、自分たちの娘と変わらんような女の子なのにな………」
「…年齢とか性別に関しては、あんたらが気にする必要ないんじゃないか?それはあくまでもあいつらと教会の問題なんだし。ただ、勇者だって不死身じゃないし、怪我すれば血も流れるし痛みも感じるんだってことを、少しくらい考えてやってくれ」
…………まあ、大怪我をさせた張本人が言うのもアレだが……………………今その埋め合わせをしてるってことで。
「ああ、分かった。村の連中にも話しとく。でな、あんちゃん。村長のことも、あんまり責めないでやってくれ。あの人はとにかくこの村が一番ってんで、ずーっと頑張ってきてるんだよ。十年前はまともに食ってくのも難しかったこの村が、おかげで随分と暮らしやすくなったんだぜ」
……俺の印象は最悪の村長だが、意外に手腕は確かなのか。
「……分かった。別に、村長さんを個人攻撃しようというわけじゃない。そもそも、自分たちの状況も考えずに安請け合いしたあいつらが軽率だったわけだし」
ポットを温めたお湯をカップに移して、人数分プラス一匙分の茶葉をポットに入れる。一度沸騰させたお茶をその上から注ぐと、香草の爽やかな香りが鼻孔をくすぐった。
「…………なあ、あんちゃん」
俺の一連の動作を無言で見つめていた親爺が、神妙な表情でそう切り出した。
「なんだよ、改まって」
「あんちゃんは、あー…その、なんだ、勇者さま方の、…………何なんだ?」
………………………………!
そ、それを聞かれると、困る!!
何なんだ、と聞かれると………宿敵としか言いようがない?いやいや俺は別にそのつもりはないし、今もこうしてなにくれと世話をしてたりするし、しかし経緯を話すわけにもいかないし…………。
「あー、俺?俺は……なんつーか、まあ、あいつらの……………そう、補佐役、みたいな………?」
この言い分は無理があるか?でも他に誤魔化しようが……
「補佐役?じゃあ、あんちゃんも教会のお人なのか」
「いやいやいやいやいや、違うよ?違うけど、その、個人的にね、あいつらとは縁があって、と言うか、むしろ腐れ縁?ちょっと放っておけないなーなんて思って、まあ、あいつらには大きなお世話かもなんだけど…………」
これは嘘ではない。
親爺は、俺の曖昧な説明にそれ以上突っ込んでこなかった。やっぱりいい人だ。
ただ、なんとなく視線が生温かったのは、何故だろう…………?
お茶を持って部屋へ戻ると、勇者と神官は鍋の中身をすっかり空にしていた。
俺が入るなり、
「遅い!何やってたのよ!」
と、理不尽な叱責。
「お茶入れてきてやったんだろうが。なんでお前は俺にイチイチつっかかるんだよ」
「だって私勇者だもん」
…………くそう、確かにそのとおりだ。反論出来ないのが悔しい。
三人分のお茶を入れたのだが、見ると魔導士は熟睡していた。さっきまでと比べると、随分顔色が良くなっている。流石は神託の勇者一行、回復力は常人の比ではなさそうだ。
「あら、カモミールの香りですね。それにこれは……何でしょうか…?」
「あ、少しだけクローブの粉末も入れてみたんだよ。ちょっとしたアクセントになるだろ?」
「ええ、そうですね。とても美味しいです」
神官は俺の入れたお茶を旨そうに飲んでご満悦だったのだが、勇者は手にしたカップをじーっと睨んだまま口を付けようとしない。
「お前、何してんの?」
「まさかとは思うけど……ねぇ、貴方、毒でも盛ってるんじゃないの?」
今さらな発言に、俺はバランスを崩しかけた。
…………ボケに対してズッコケてみせるベタな芸人みたいな真似を、まさか自分がする羽目になるとは…。
「あのなぁ、散々俺が作った飯を食っといて今さら何なんだよ!つーか、俺がお前らに毒を盛ってどうするって話だろ!」
はっきり言って、もし俺がこいつらを殺す気なら、毒なんて盛るまでもない。こいつらも、そのくらい分かってるだろうに…
「んなこと言ったら、魔王が私たちの面倒見てどうするって話じゃない!!」
…………。
………………?
……わーぉ。正論だわー。それ言われると、返す言葉がない。ぐぅの音もでない、ってやつ?
でもまあ、俺にだって理由がないわけじゃないんだよ。
「あー……その、なんだ。まあ、こないだは、俺もやり過ぎたって言うか…悪ノリが過ぎた。………………悪かったな」
魔王として勇者に頭を下げるのはどうかとも思ったが、それはそれ。悪いと思ったのなら素直に謝るのが筋というものだろう。
「…え、え?なによ、いきなり……」
まさか魔王に謝罪を受けるとは思ってもみなかったのだろう。勇者はどう受け止めていいのやら戸惑っているようだ。
「まあ、今のお前らの状況は、俺にも責任がないとは言えないし…………」
責任どころか、元凶です、はい。
「なるほど。それで、魔王さんは責任を感じて、私たちのことを気にかけてくださっている、というわけですね?」
正確に表現してくれる神官だけど、他人に言われるとなんか気恥ずかしい!
「…………ねえ、貴方、ほんとに魔王なわけ?」
「なんだよ、疑うのか?なんなら元の姿に戻ってみせるけど?」
「や、それはいい。なんか騒ぎになりそうだし」
勇者は呆れたように溜息をつくと、一気にカップの中身を飲み干し……
「って、熱!あっつぅ!!」
「ば、お前、何してんだよ。熱いお茶を一気飲みしたら火傷するに決まってんじゃねーか」
「ううう、うるさいわね魔王のくせに!おかわり!!」
……………………なんだろう、俺、勇者とすっごい相性悪い気がする………。
小間使いよろしくお茶のおかわりを注ぎながら、俺は密かに溜息をついたのだった。
勇者はツンデレキャラのはずなのに、なかなかデレてくれません。




