第百四十八話 ちょっと寄り道⑥ 雨降って地固まる…かもしれない?
本日、快晴也。
「いやー、なかなかに素晴らしい体験でしたね」
「どうせなら、もうちょっと遊んでいきたかったな」
朝日を浴びながら、朗らかな魔族二人。
「久々に、のんびり出来た気がします。まぁ、約一名そうでもなかった人がいるみたいですけど」
「………お兄ちゃん、一緒に遊んでくれなかった………」
何か言いたげなベアトリクスと、不満げなヒルダ。
で、アルセリアは、と言うと。
「…ちょっと。あんまり近付かないでよ、このエロ魔王」
容赦ない言葉と視線を俺にぶつけてくる。
……酷い。あの後、ワザとじゃないってちゃんと話したのに。どういう経緯でああいうことになってしまったのか、説明したのに。
昨日からずっとこの調子だ。話しかけても無視されるか悪態つかれるか、或いは舌打ちされるか。流石に、凹むのを通り越して少しイラっとこなくもない。
「……何がエロだよ。そんな見せるようなもん持ってないだろっての」
だから、そんな憎まれ口を叩きたくなる気持ちも、分かってもらいたい。
が、勿論、分かってくれるような相手なはずもなく。
「なーんーでーすってぇぇ?」
再びグーパンチを繰り出しそうな勢いで、迫ってくる。
が、ここで弱気に出たらさらに酷い目に遭うことは、経験上分かっているのだ。
「だーからぁ!こないだも言ったろ?俺の好みは、もっと大人の女性なんだってば!」
「じゃあ何よ、私の裸見ても何にも思わなかったってわけ!?」
………う!そ、それを言われると………即座に、否定し難い…………。
俺の沈黙に隠されたものに勘づいたエルネストが、やけに嬉しそうに、
「おやおや。陛下は勇者殿を魅力的とお思いでらっしゃいますか」
とか抜かしやがった。
「ば、おま、何馬鹿なこと言って…」
すぐに否定しようと声を上げた俺だったが、その言葉の途中で、後頭部をどつかれた。
「馬鹿はどっちよ!」
どついた張本人は、プリプリしながらも、何故か顔が赤い。
「いや、だからそれは誤解…………」
「もういいわよ!…行きましょ、ビビ、ヒルダ。これ以上こいつにつきあってたら、こっちまで馬鹿になっちゃいそうだわ」
これまた何故か分からないが、そういう彼女の声は険悪さがやや和らいだ……ような。
三人娘は、ちらりと俺に冷たい一瞥をくれると、そのまま先へズンズンと歩いていく。
しかしまぁ……空気の温度からして、どうやら怒りのピークは過ぎたようだ……多分。
これ以上状況が悪化しないだろうと推測し、安堵の溜息をもらす俺。
「……陛下も、ご苦労なさってますねぇ……」
「でも、今回は陛下が悪いと思いまーす」
そんな俺を見て、俺の忠実な(はずの)臣下二人は、ものすっごく他人事みたいな口調で、宣ってくれたのだった。
温泉回、終了です。リュート氏一人が災難でしたね。




