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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
魔族の末裔編
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第百三十四話 惨劇の足音




 本日の夕飯は、ミネストローネになった。


 持ってきた食材にも限りがあると言うことと、調理環境のあまり整っていないこの場所で品数を多く作るのは大変なので、具沢山のスープで終わらせてしまおうと思ったわけだ。


 コンソメを作る時間がなかったため、ドライトマトとキノコ類(これはハガルに貰った)で出汁を取ってみた。

 何かの料理番組だったかで、ドライトマトは出汁の代わりになる…と聞いたことがあったのだが、俺個人としてはそれだけでは少し物足りない気がしていたので、干し肉も追加した。


 まぁ、具沢山スープというのはそれだけで味わいが豊かになるし、これはこれで良い出来だと思う。



 「私らもお相伴に預かってよろしいので?」

 「遠慮なくご馳走になります」


 ハガル父娘おやこも一緒である。足りない食材を提供してもらったし、それに何より宿も提供してもらってるしな。


 


 お世辞にも、この近隣の食事情は決して良いとは言えない。ここのような一部例外を除き、土壌的に畑作にはあまり向いていないのだ。


 そして料理に関しても、至ってシンプル。


 俺としては、素材本来の味を大切にしたシンプルな料理も悪くないと思うが、それが連日だとたまに物足りなく感じてしまう。



 …と言うか、ここしばらく料理をしていなかったので、禁断症状である。



 他にはトウモロコシ粉で作った薄いパン(のようなもの)と、果物を丸焼きにしたもの(何故かこの地域ではあまり果物を生食しない)。



 で、見慣れぬ料理にテンションが上がる父娘と、久々のちゃんとした料理に目を輝かせる三人娘とは打って変わって。



 「ほ………ほんとの、本当に、よろしいのですか?」

 「えー………これ、ギーにぃにバレたら、僕たち殺されるんじゃない?」



 恐縮を通り越して萎縮している、俺の二人の臣下。



 別にいいじゃん、もう俺のクッキー食べた後だろ。


 そう思うのだが、作り置きのクッキーと作り立ての料理ではパンチ力が違うらしい。



 それでも、


 「いっただきまーす」


 いつものアルセリアの高らかな一声と共に皆が食事を始めると、まごつきながらも匙を手に取ってくれた。



 食事は、和やかな雰囲気で進んだ。

 アルセリアによる周辺部族の説得も一段落し、今のところ、過激派の若者たちが過激な行動に出たという知らせもない。多分、レントが頑張って抑えていてくれているのだろう。


 事態が好転しつつあることに安堵して、ハガルもソニアも、表情が明るい。



 「…ねぇリュート。これ、お肉少ないんだけど」

 アルセリアがぶーたれる。こいつは、いつもブレずに肉肉肉…なんだな。


 「そりゃ、具材っていうより出汁で入れたようなもんだからな。文句言うな」

 第一、ミネストローネは肉料理じゃない。


 「……別に、文句言ってるわけじゃないけどさ。もう少しタンパク質が欲しかったのよ」


 「おい勇者。陛下が作って下さったものにケチ付ける気?」

 不満げなアルセリアに、ディアルディオが噛みつく。


 しかし、初対面時と違い殺気立っていないところが、ちょっと驚き。


 「別に、これはこれで美味しいけど……」


 アルセリアも、ムキになって言い返さないあたり、学習したのか打ち解けたのか。


 「まぁ…卵でも落としてみれば良かったかもな」

 干し肉は量が少ないので難しいが、この村では鶏を飼っていたりするので、ポーチドエッグにするって手もあったな。そうすればタンパク質も取れるし、ボリュームも出るし。


 

 ……そう言えば、この世界でまだソーセージの類を見てないんだよ。干し肉ほどは保存が効かないけど、生肉よりはマシだから、あれば何かと重宝するんだけど。


 今度試してみようかな。でも……腸詰って、どうやるんだ?



 「ところで、へい…リュート様。その……食事中は、いつも()()なのですか?」

 エルネストが訊ねたのは、俺の膝の上のヒルダのことである。


 横でディアルディオが、羨ましそうな目で見ていたりする。



 「ん?あー、まぁ……大抵、こう……かな」


 ヒルダはすっかり俺の膝の上を定位置にしていて、どかしてもすぐに乗っかってきてしまう。俺も、ヒルダを膝に乗せたまま食べるのにだいぶ慣れてきた。



 「っと、ヒルダ。それ、人参よけようとしても無理だぞ。細かく切ってあるんだから」

 何をちまちまやっているのかと思えば、ヒルダは皿から人参以外の具材を掬おうと躍起になっている真っ最中だった。

 しかし、タマネギもキャベツもトマトも全部細かく切ってあるので、どうしても人参だけを除くことが出来ないでいる。



 「もうこうなったら味なんて混じっちゃってるんだから、我慢して食べなさい」

 「むむぅ………」

 「ほら、好き嫌いしない」

 「………これ、好き嫌い違う。………………拘り……?」


 ……いや、ただの好き嫌いだよ。

 


 「あのー……リュートさんって、どこかの王様とかだったりするんですか…………?」


 ぶほ。


 いきなりのソニアの質問に、俺はもう少しでヒルダの頭の上に口の中のミネストローネをぶちまけるところだった。



 「な、ななななな、何をいきなり言い出すんだよソニアってば」

 「だって………そこの男の子、ええと、ディアルディオ…君?が、()()って呼んでませんでした?」


 あ!呼んでた。そう言えば、呼んでた!!


 「あー、あだ名だって、あだ名。そういう、ニックネームで呼ばれててね、ほんの一部にね。あはは」

 あれ?俺って、ディアルディオにも「陛下」って呼ぶの禁止してなかったっけ?


 

 ………………してなかった、かも…しれない。



 「ふぅん。あだ名……ですか。でも、エルネストさんもディアルディオ君も、リュートさんの部下…なんですよね?」


 

 「はい、私共は、リュートさまに身命を捧げる忠実な」

 「まぁ色々ね!家のしがらみとかなにやらでね!俺の手伝いを色々してくれてるっていうか」



 遮られたエルネストと、何か言いたげなディアルディオを視線で制し、俺は誤魔化す。


 「……そうなんですか」

 「そうなんですよ!あはははは」


 いくら魔族を遠いご先祖に持つとは言え、今の彼女らはれっきとしたルーディア聖教徒だ。俺の正体がバレたりしたら、今まで騙していやがったのかこの野郎的な展開になること間違いなし!


 散々聖教会の名を盾に脅しまくってきた近隣部族にも、示しが付かないと言うか何と言うか。


 

 「私、てっきりリュートさんはやっぱり偉い人なのかなって思ったんですけど」

 「いやー、ないない。それ言ったら、こっちの勇者のがずっと偉い人だって」


 俺は、アルセリアに会話の流れを押し付けることにした。



 案の定ソニアは、



 「そうですよね。勇者さまなんですものね。私、勇者さまと一緒にお食事をいただけるなんて、信じられないけどすごく光栄です」



 誘導にすんなりと引っかかってくれた。



 「ま、勇者言うても普通の娘っ子だけどな」

 俺の軽口に、

 「ちょっとそれ聞き捨てならないんだけど」

 アルセリアは待ったをかけるが、

 「口を開けば飯のことばっかの勇者だろーが」

 「そ………そんなことないもん!」

 俺の指摘に口ごもる。


 そんな俺たちの遣り取りを楽しそうに眺めていたソニアだったが、


 「なんだか、こんなに賑やかで楽しい食卓は久しぶりです。……タリアとレント兄さんも、ここにいたらもっと良かったのに……」


 それは、ずっと彼女が抱いていた本心なのだろう。

 彼女にとって、自分の愛する男と結ばれた双子の姉も、姉を選んだ愛する男も、等しく大切なもの。


 彼女は、自ら身を引いた代わりに、大切なものそれらを両方とも失わずに済んだのだ。



 「大丈夫です。周りからの迫害がなくなれば、そのうち彼らもここに戻ってくるでしょう。そうしたら、一緒に食事を取る機会なんて山ほどありますよ」


 こういうことを言うときのベアトリクスは、本当に聖職者じみている。普段のドライさや腹黒さは微塵も感じられない。



 「……本当に、そんな日が来るでしょうか……?」

 「来るも何も、もうそこまで来てるでしょ。この勇者わたしまで引っ張り出したんだから、来てもらわなきゃ困るわよ」


 見る者を勇気づけるアルセリアの笑みを見て、ソニアも再びいつもの溌剌とした表情に戻った。



 「そうですよね。皆さんには色々、すごく良くしてもらったので、これからは私たちが頑張らないと」

 「そうそう、その意気。ただし、張り切り過ぎて親父さんを心配させるんじゃないぞ」


 俺の励ましに答えたのは、ソニアではなく



 「……それは、どうなんでしょう。このは、何かを始める度に私を困らせてばかりですから…」


 ほとほと困り果てたような、それでもどこか嬉しそうな、父親ハガルの方だった。




 そんな具合で和やかに賑やかに食事は進んでいたのだが。

 その団欒は、突然の訪問者によって崩れることとなった。



 「…………リュート様。何か、外が騒がしいようです」

 一早く気付いたのは、エルネスト。

 どうもこいつは、身を隠して生きていかなくてはならなかった幼少期を過ごしていたせいか、周囲の異変にやけに敏感なところがある。


 言われて注意を外に向けると、村人たちがざわついているのが俺にも分かった。



 「何かしら?」

 「とにかく、行ってみるか」


 状況が状況なので、悠長に構えてもいられない。俺とアルセリアがほぼ同時に立ち上がり、外へと向かう。他の全員も、すぐさま追ってきた。



 

 村の入口付近に、数人の村人たちが集まっている。

 しっかりしろ…だとか、何があった…だとか。


 緊迫した声色だが、心配そうでもあったため、相手は敵ではないと分かる。



 ハガルが、俺たちを追い抜いて人の輪の中へ分け入っていった。

 

 「……何があった、ヒューゴ」

 輪の中を覗き込んでみると、そこにへたり込んでいたのは一人の若者。


 何となく、見たことがある。

 確か……そう、レントたちがこの村の襲撃者を撃退したときに、レントと一緒にいた青年だ。



 ヒューゴと呼ばれたその青年は、瀕死…とまではいかないが、かなりの重傷を負っていた。


 傷付いた身体で、必死にここまでやって来たのだろう。



 「村長……あいつらが、あいつらが襲ってきやがった……なんか、様子が妙で…………」

 息を切らしながら、報告をするヒューゴ青年。


 「今、レントたちが止めようとしてる……けど、連中、いつもと違う感じで…………急に、化け物みたいに」



 ヒューゴの言葉が終わらないうちに、俺たちは事態を何となくだが察した。



 「村長、そいつと、村を頼む。絶対に外に出すなよ!」

 そう言い残すと、何かを言いたそうにしたソニアの視線を振り切って、俺は走り出す。


 

 「ちょっと、リュート!」

 慌ててついてくるアルセリア。

 

 「これって、早速説得が失敗しちゃったってこと?」

 走りながら、悔しそうに言う。

 せっかく上手くいったと思ったのに、短時間で自分の説得が効力を失ってしまったことに、力不足を感じているのだろう。


 「まぁ……()()()()っていうのがどこの集落かは分からんが、襲ってきたってことはまずそうなんだろ。けど、問題はそうじゃなくて」


 

 いや、それはそれで問題なのだが、この際それは置いておく。

 気になったのは、ヒューゴ青年の言葉。



 ーーーーー急に、化け物みたいに。



 異形の姿を持って生まれてきてしまった彼らが、「化け物」と称する襲撃者。


 やばい。また下手打った気がしてならない。



 「とにかく、レントたちのところに急ぐぞ!」

 

 

 最悪の事態を回避するために、俺たちは全力でレントの元へと急いだ。

 

はい、あと二日遊んでくる予定だったのに諸事情で帰宅してしまった鬼まんぢうです。なので早朝から更新です。全ては天気のせいです。…あそこで、雪とか!ないだろ! 今日は仕方ないので日帰り温泉にでもいってゴロゴロしてきます。うちの会社、ブラックなくせに年間休日「だけ」は充実してるので(それはブラックと言うのか?……言うのです。)この連休は意地でも遊び倒してやります。だれが10日間ずっと仕事の反省なんかするかよってんだ。病んじまうじゃねーか。………すみません愚痴です。


さてはて、魔族末裔編も風雲急です。タイトルどおりです。

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