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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
魔族の末裔編
132/492

第百二十七話 身近な相手との関係ほどこじれると厄介だ。




 

 「……俺もちょっと外すが、いいか?」

 ベアトリクスが報告で席を外している間に、会話からタリアにだけ現れた異変の原因を探ろうとしていたら、レントまでそう言い出した。


 「攻撃中止を、他の連中にも納得させなきゃならないからな」


 ……ああそうか。おそらくレントはリーダー格なのだろうが、彼の一存で全てを決定することは出来ないのだろう。そしてもし足並みが揃わなければ、内部分裂の危険性もある。


 今まで過激派を牽引していたリーダーが急に翻意すれば、当然反発する仲間も出てくるはず。ここは、レントの器が試される場面だ。



 「その間、タリアを頼む」

 「ああ。そっちも頼むぞ。下手に暴走なんてされたらお仕舞だからな」

 「……言われなくても分かってる」


 

 面白くなさそうに言い残してレントが去って行き……なんだかんだ言って、余所者の俺(とエルネスト)だけをタリアの傍らに残していくあたり、結構信頼してもらえたんじゃなかろうか。



 「で、さ。タリアは、ソニアと双子…なんだよな。一卵性?」

 「……一…卵……?………あの、リュートさん」


 ん?なんかタリアの表情が妙だ。


 「…私たち、確かに遠いご先祖に魔族がいるらしいですけど……流石に、卵からは生まれませんよ」

 少しむくれたように、そう言った。



 ……………ああ!そうか、この世界の医療基準じゃ、一卵性だとか二卵性だとか、そういう知識はなかったりする?



 「違う違う、そうじゃなくて」

 いくらなんでも、彼女らが卵から生まれるものだと俺が考えている…と誤解させてしまったのは悪かった。……まあ、一見蜥蜴人リザードマンなレントならなくもない、とも思うけど(失礼)。


 「ええと、双子にはそっくりな双子とそうでもない双子ってのがあってさ」

 一卵性と二卵性の違いを説明しようがなくて、俺は、あながち間違いじゃないけど正解でもない説明をするしかなかった。


 いや、だってさ……。

 一卵性だとか受精卵だとかいう話になっていくと…ほら、ね。その…話の流れを制御出来なくなると、お年頃の少女には話しづらい内容になってきちゃうかもしれないし。



 「…そうなんですか。身近には他に双子っていなかったので、知らなかったです」

 専門家が聞いたら首を傾げるような解説を真に受けるタリア。まあ、重要なのはそこじゃないからよしとしよう。


 「で、そっくりなのが一卵性で、そうでもないのが二卵性……のことが多いんだけど」

 といいつつ、生前の桜庭柳人のクラスメイトに、まったく似ていない一卵性双生児もいたりしたのだが、それは稀な例だと思っておく。


 「では、私とソニアもその、一卵性…?っていう双子なんですね」

 「うん。そう思うんだけど……その、さ。ソニアは、体調が悪いようには見えなかったもんだから」


 片割れは元気なのに自分だけ病弱だ、という現実は、タリアにとって辛いものかもしれないと思ったのだが、彼女は屈託ない笑顔を見せた。


 「はい。こんな身体なのが、私だけでよかったです」


 それは本心なのか強がりなのか、俺には分からない。だが、「そうだね」と答えることは出来そうになかった。


 「じゃあ、タリアは生まれつき………?」

 「いえ。私も、以前はこんなじゃありませんでした」


 と言うことは、後天的なものか。


 或いは、生まれつき持っている因子が、ソニアにはまだ現出していないだけ…という可能性も。


 「以前は…って、いつ頃から具合が悪くなったんだ?」

 

 しかしその質問に、タリアは首を横に振る。


 「よく分かりません。物心つく頃はまだ、ソニアと二人で森の中を駆け回っていた記憶があります。ただその後は……気付いたら風邪をひくことがだんだん多くなって、そのうちに無理がきかなくなって……多分風邪じゃないって分かったときには、もうこんな具合で」



 ………さて。これはどう考えたものか。

 理が歪んでいるからと言って、全ての不調がそのせいとも限らない。ただ単に、何らかの病原菌に感染したとか、そういう場合も勿論あるわけで。


 ただ、それなら何某かの痕跡が見られるはずで、しかしベアトリクスにも俺にもそれは見つけられなかった。


 神の手的なドクターでもいれば、話は別なのかもしれないけど。



 ううーん。彼女の異変は、理のせいだと思うんだけどなー。でも、それなら双子であるソニアが何ともないのも不可解だし。



 考え込んでる俺に、タリアは不意に思い出したように、

 「あの、リュートさん。ソニアは、今も元気なんですよね?」

 唐突に訊ねてきた。


 「ああ、うん。元気みたいだったよ。……あまり会ってなかったりする?」


 レントとハガルは互いに距離の取り方を計りかねているようだったが、話してみたところ、タリアにはそういう感情はなさそうだ。

 ソニアのことを気遣ってもいるようだし。双子で仲が良いなら、そこまで離れて暮らしているわけでもないのだから、会うことくらいは出来ないのだろうか?



 タリアは、淋しげに顔を伏せた。

 「そう…ですね。私がレントについてここへ来てからは……一度も会ってません。もう、一年近くになるでしょうか」

 「なんでまた…会えない事情でも?」


 確か、ソニアもまたタリアのことを気にしているようだった。俺たちを拒絶する父を説得しようとしていたとき、タリアの名前を出している。

 タリアは体のことがあるので動けないにしても、ソニアの方から会いにきそうなものだが。



 「特に…これといって、理由と言うものは…。ただ、私もあの子も、互いに気まずさを抱えている……のかもしれません」


 自分のことなのに「かもしれない」とは何ともはっきりしない話だが、何か事情がありそうだ。



 俺は、質問を続けずに敢えて沈黙で待ってみた。なんとなくだが、彼女が話したがっているような気がしたからだ。



 案の定、しばしの沈黙の後、彼女は、

 「あのですね。その、私とレントは、婚約してるんです」

 これまた唐突に切り出した。



 へぇ、婚約か。

 タリアは見たところ、十代後半といったところ。レントは…正直よく分からないが、おそらくそれよりも少し上…くらいじゃないだろうか。


 こういうのは文化によって常識が全く異なるので断言出来ないが、十代後半から二十代での婚約・結婚というのは、この世界では特に珍しくもなんともない。



 「そう言えば、ソニアはレントのこと、レント兄さん…って呼んでたような気がする」

 最初に、そんな風に呼んでいたのを思い出した。


 姉の婚約者だから、「兄さん」なのかな。


 

 「いえ、私たちは…私とソニア、レントは、幼馴染で、幼い頃から兄妹同然に育ったんです。レントには両親がいなかったので、父がその代わりをしていましたから」



 幼い頃を思い出したのか、タリアの表情がいっそう和らぐ。


 「私もソニアも、レントのことが大好きでした。でも、父がレントの婚約者に指名したのは、私だったんです」


 

 あーーーー。姉妹そろって同じ相手に惚れちゃった…ってパターンか。これは辛いな、お互いに。



 「多分父は、病弱な私の将来を案じたんだと思います。ソニアも、祝福してくれました。でも……あの子は、自分一人が元気なことに後ろめたさを感じてたみたいで、だから身を引いたんじゃないかって私…」


 

 そんなことはないよ、と言ってやりたかったが、言えるほどに彼女らのことを知らない俺は代わりにかける言葉が見つからなくて困る。困った挙句に、


 「でも、まぁ、レントにしたってどのみち、二人のうちどっちかを選ばなきゃならなかったわけだから……仕方ない…んじゃないか?」


 などと、慰めにもフォローにもならない馬鹿な発言をしてみたり。

 そういう問題じゃねーだろ、と言わんばかりのエルネストの呆れ顔が痛い。



 「仕方ない…かどうかは、分かりません。けど、それからは何だかソニアとも距離が出来てしまって、そのうちレントが村を出ると言い出したので、私もついてきてしまったんです。……父にもレントにも、猛反対されましたが」


 「そりゃそうだよ。彼らが周辺部族に何をしてるのか、知ってるんだろ?」

 「それは知ってます。けど、私が父の元にいてもレントと共にいても、それは変わりませんから」


 その口調に揺るぎないものを感じて、気弱に見えるが確かに彼女はソニアの姉なのだと変に納得した。

 第一、こんな身体で故郷を捨て過激派と行動を共にするなんて、気弱な人間のすることじゃない。



 「ただ……村のことを、全部父とソニアに押し付けて逃げてきてしまったみたいで、そのことに関しては気掛かりなんです。あの子、ちゃんと父を支えてますか?」


 姉妹といっても双生児。年齢の差はないのだが、そう問うタリアは、確かに姉の顔をしていた。


 「俺も一日しかいなかったからよく分からないけど…でも、そうだな。あの様子なら、充分過ぎるくらいハガルのことを支えてると思う」


 村と父、そして姉とレントを案じて俺たちを村へ連れてきたり、拒絶する父親に食い下がってみたり。支えると言っても、従順に父の言いつけに従うのではなく、自分の意志であれこれと世話を焼いていそうだ。



 「あの、あの子……きちんと、祠の手入れもしてますか?」

 「……祠?」


 って、あの“霊脈”上にあった祠のこと…だよな。


 「私とソニアは、村の代表として、祠に祀られている守護像にお供えをしたり掃除をしたり、そういったことを任されてたんですけど、昔っからあの子、それを面倒がって私に押し付けてばっかりだったんです」


 ………霊脈の澱みに置かれた、祠。



 「まぁ、こんな身体になってからもそのくらいのお勤めは出来たので…と言うか、そのくらいしか出来なかったので、ずっと私が続けてたんですが、村を離れてしまってはそうもいかないですし」



 ………澱みに触れ続けた姉と、それを避け続けた妹。



 「村にとっては大切な場所で、大切なお勤めです。あの子も分かってくれてると思いますが、ソニアは前々から、こんなことをしても神様は自分たちのことを助けてくれないじゃないかって、罰当たりなことばかり言ってたので………」

 


 霊脈の澱み。歪められた理。



 「村に行くことがあったら、リュートさんからもあの子に言ってやって下さい。神様をないがしろにしたら、良くないことが起こるって」



 …………………。



 「あの……リュートさん?」


 黙り込んだ俺を不思議に思ったか、タリアが首を傾げた。



 ……神様をないがしろにしたら、良くないことが起こる……か。



 「こればっかりは、そうでもないかもな」

 「………え?」



 俺の言葉の意味をタリアは理解出来ていない。だが、それでいい。今は、彼女に伝えるべきではないことだ。

 

 伝えても無駄だ……というだけの意味ではなく。


 

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