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世話焼き魔王の勇者育成日誌。  作者: 鬼まんぢう
聖都編
110/492

第百五話 勇者、暗殺に失敗する。



 

 ギーヴレイは、宝珠を手に城内を索敵して回っていた。

 勇者一行が魔王城に侵入したことは間違いない。ならば、しらみつぶしに探せば、必ずその尻尾を掴めるだろう。

 彼は、廉族れんぞくの力を、見誤っていた。


 正しくは、その非力ゆえの能力を。



 戦闘型の能力であれば、それが職能スキルにせよ天恵ギフトにせよ、廉族れんぞくの持ちうるものは魔族にとって非常に脆弱だ。


 だから彼は、魔界きっての魔導士である自分が本気を出せば、侵入者を見つけ出すことくらいはわけないと思い込んでいたのだ。


 しかし、弱い生物には弱いなりの生存戦略というものがあり、純粋な力に頼ることが出来なくとも彼らは種を繋ぐ術を持っている。

 それは時に、彼らが獲得する職能スキル天恵ギフトに強く現れることがあり、また強大な上位種族をも出し抜く成果を見せることもあった。



 そして、獣人ムジカの有する天恵ギフト、【隠形】もまた、そういった能力の一つなのだ。


 攻撃力は皆無。機動力や防御力が増すわけでもなく、それ単体では何も成し遂げることが出来ない能力。

 だが、その隠密能力は、如何なる優れた戦士にも見破ることは不可能。

 たとえそれが、魔族や天使といった上位種族であったとしても。



 そのことを知らないギーヴレイは、どれだけ探しても侵入者を発見出来ないことを不審に思っていた。

 もしかしたら、勇者たちはもう城内にはいないのかもしれない。そんな考えが頭をよぎり、しかしそう考えるのは早計に過ぎると思い直し、


 「そう言えば、部屋に索敵補助の魔導具を置きっぱなしにしていたな…」

 今回の件に打ってつけの魔導具を書斎代わりに使っている部屋に置いてあることを思い出した。

 地上界へ行く魔王へ旅道具を用意していた折、とりあえず必要かもと思って宝物殿から持ち出したものだ。しかし、考えてみれば、世界の理に直接触れることの出来る主には不要なもの。持ち物リストから除外したものの、元の場所へ戻すのが面倒でそのまま放置していたのだ。



 索敵補助という効力名称は、一見地味である。だがそれは、万物の真実を暴き出す神代の秘宝、「真実の灯」。

 それであれば、侵入者がどこに隠れていようと見つけることは容易いだろう。


 そう思い、自室へと向かった。



 結局、「真実の灯」を役立てることは出来なかった。

 扉を開けた瞬間、驚愕に目を見開く見慣れぬ三人組の姿が飛び込んできたのだから。



 「……あ」

 「げげっしまった!!」

 「ムジカ、早く【隠形】を!」


 ギーヴレイの誰何を待たず、三人組は自分たちが不審者であると白状した。


 「身の程を弁えぬ愚か共よ。今すぐここを………何!?」

 ギーヴレイの言葉の途中で、三人組の姿が一瞬にしてかき消えた。


 ギーヴレイは、即座に状況を判断する。

 姿が消えたと言っても、転移系の術式ではない。それは廉族れんぞくには使用不可能なものであり、仮に使い手がいたとしても、魔王城内の結界によって妨害されてしまう。


 ならば、ただ姿を消すだけの能力。

 おそらく、侵入者の一人が言っていた【隠形】という名称がそれだろう。


 無駄な事をするものだ。

 ギーヴレイは内心でほくそ笑む。

 彼らは知らないだろうが、この部屋には「真実の灯」がある。それさえ使えば、彼らの姿は瞬時に露わになるのだ。


 そして彼は、愚かな侵入者の間抜け面を想像しながら、「真実の灯」に手を伸ばし……



 手を、伸ばし。



 その手は、宙を掴んだ。



 「……なんだと?」

 

 予想外の出来事に、一瞬動きが止まる。「真実の灯」と呼ばれる秘宝、奇跡の燭台は、本来あったはずの場所からきれいさっぱり消えていた。



 硬直も束の間、それが侵入者の手に渡ったのだと即座に悟る。

 

 まさか、あれの価値に気付く者がいたとは……!



 鑑定眼に長けた者がいたのだろう。「真実の灯」が奪われてしまったら、彼に侵入者を捕捉することが出来なくなる。


 現に、未だ部屋の中に留まっているのか、既に逃げ出した後なのかも、判別出来ない。



 「……くそ、してやられた……!」


 だが、一度は見つかった侵入者たちが、いつまでも同じ場所でグズグズしているはずがない。


 彼は、せっかく世紀の大怪盗並みに神出鬼没の侵入者と遭遇しておきながら、むざむざと逃がしてしまったのである。



 このままでは、魔王陛下に合わせる顔がない。

 屈辱に歯軋りすると、ギーヴレイは忌々しい侵入者を再び捕捉する方法を考えながら、居ても立ってもいられずに、走り出した。




            ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「ふぅ。いやー、ヒヤヒヤしましたね」

 「呑気に言ってる場合かよ。あれ、多分かなりの高位魔族だぜ。やり合う羽目にならなくて助かった」

 こんな事態でも、ライオネルはまだ笑顔を崩さない。一方のムジカは、冷や汗ダラダラだ。

 そしてフレデリカは、

 「…ところでムジカ、それ…何ですの?」

 ムジカが握りしめている燭台を指差した。


 問われたムジカはそれを見やりながら、

 「ああ、これか?あんまり驚いたもんだから、つい手元にあった武器になりそうなもんを掴んじまった」

 と、苦笑い。


 「武器になりそうなものって…貴方、拳闘士でしょう?」

 「そりゃそうだけどよ。吃驚すると、思わず近くにあるもんを握りたくならねぇ?」

 「……お気持ちは、分からなくもないですけれど」


 いくら咄嗟だったとは言え、情けない姿を見せてしまった照れ隠しに、ムジカは手にした燭台を廊下から外へと放り投げた。

 それが、天地大戦において、天使軍三万が身を挺して守り抜こうとした秘宝中の秘宝であるなどとは、知る由もなく。




 「しっかし、どうするよ。俺たちが侵入したってことは、今のでバレちまったぞ」

 「そうですね。警戒が厳しくなると、動きにくくなるのは確実…」

 「そうなる前に、魔王を見付けるしかなくてよ、お二人とも」




 そうして三人は、魔王城のさらに奥へ進み、一際大きな広間へと到達した。



 他の部屋とは一線を画する、重厚で荘厳な扉。

 どう見ても、これは…



 「……ビンゴ、ですかね」

 武者震いを抑えながら、ライオネルが誰にともなく呟いた。


 「そうですわね。これだけあからさまな部屋は、そうないのではなくて?」

 フレデリカは、背に負った魔導弓を手に持ち直す。


 「いかにもって感じの部屋じゃねーか。いよいよだな」

 ムジカもまた、舌なめずりしながら、武器である手甲の具合を確かめた。



 「では、行きましょうか、二人とも」

 信頼出来る二人の仲間と顔を見合わせ、ライオネルは勇ましく扉に手をかける。


 だが。


 「…ん?あれ?これ、扉を開けたら……中にいる魔王に、バレちゃいません?」


 重要な事に、気が付いた。



 「あ……!そうじゃねーか。あぶねーあぶねー。今までの努力が無駄になるところだったぜ」

 「そ…そうでしたわね。ライオネルが気付いてくださって、良かったですわ」


 部屋に入ってすぐ、自分たちの存在に気付かれてしまっては、作戦が破綻してしまう。

 【隠形】のおかげで、これまで消耗を避けて進むことが出来たので、真っ向勝負でもなんとかなるだろう。

 だが、出来うる限りリスクは排除しておきたかった。



 ギリギリのところでポンコツっぷりを露呈せずにすんだこの勇者一行は、外壁をつたってその部屋に入り込むことは出来ないかと考えた。



 廊下から、外には出ることが出来る。目的の部屋に開いた窓があれば、中にいる者に悟られることなく侵入が可能だ。



 「……よし、いけるな。壁の装飾が、上手い具合に足がかりになりやがる」

 夜目の利くムジカが確認し、三人は隠密よろしく外壁をつたった。



 灯り採りの天窓から中を窺うと、そこに一つの人影を見止める。

 年は、人間で言えば壮年といったところか。重厚な鎧に身を包み、その立ち居振る舞いにはわずかな隙も見当たらない。

 威風堂々とした、佇まい。



 「…どう思う?」

 「……間違いありませんね。あの威厳、あの風格………そこいらの魔族であれだけの威圧感を醸し出すことなど、出来ないでしょう」

 「同感ですわ。ここにいてもひしひしと伝わってくる、重くて鋭い空気。…あれが、魔王ヴェルギリウスに違いありませんことよ」



 三人の見解は一致した。

 ならば後は、悟られる前にその首級を獲るばかり。




 「いいですか、二人とも」 

 信頼する二人の仲間に、ライオネルは最終確認。

 「部屋に入ったら即座に、攻撃を開始します。ムジカは、【覇道十二天掌】、フレデリカは【邪穿閃撃フィーネ・シュトゥルム】、僕は【破邪暁光斬ラスヴェートグランツ】を、それぞれ最大出力で……いいですね」


 それは、彼らの最大奥義。

 全身全霊を込めて、魔王へとお見舞いする、必殺の一撃だ。



 互いに頷き合い、彼らは天窓から広間へと降り立った。

 

 

 【隠形】によって、彼らが立てる物音さえも遮断されている。魔王はまだ、彼らに気付いていない。

 

 この一瞬が勝負だ。

 技を放てば、直後に【隠形】は解除される。一撃で仕損じれば、魔王だけでなく多くの配下も相手にしなければならない。


 

 だから、この一撃で決める。


 彼らは呼吸を合わせ、その全てを注ぎ込んだ一撃を放った。



 「【覇道十二天掌】!」

 ムジカの右腕は光を纏い、その光は不死鳥の姿となって拳と共に魔王へと襲い掛かる。ただの打撃ではない。その破壊力は、物理防御と魔導防御の双方を砕く。


 「【邪穿閃撃フィーネ・シュトゥルム】!」

 フレデリカは弓を引き絞り、魔導矢にありったけの魔力を込めて術式を上乗せし、それを放つ。それは、貫けないものはない、一条の閃き。


 「【破邪暁光斬ラスヴェートグランツ】!!」

 ライオネルが振るうは、ルーディア聖教会に秘奥義として伝わる、破邪の一撃。彼はこの技で、幾多の上位魔獣を討ち滅ぼしてきた。



 

 彼らの存在にすら気付かず、完全に無防備な状態の魔王の躰に、それぞれの攻撃が叩きこまれた。

 その衝撃に空気は震え、まばゆい光が視界を埋め尽くす。


 

 やがて、空気を震わせた衝撃が収まり、光は薄れていった。



 そして、彼らが目にしたのは。



 息絶えた魔王の姿…ではなく。


 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で、きょとんとしている敵の姿。




 彼らの渾身の一撃にも、まったく動じていない、魔王の姿だった。



 



こう見えても、勇者2号もけっこう強いんですよ。活躍を描いてあげられないのは申し訳ないけれど……彼らはまぁ、噛ませ犬キャラですからね。ヤ〇チャみたいな…ね。愛すべき噛ませ犬。

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